ダンスを広く届ける『D.LEAGUE』の挑戦 “ダンサーの権利”にも寄り添った新しい仕組みを聞く
いずれはダンスの著作権の問題にも触れていきたい
ーー楽曲制作はかなり進んでいるんですか?
カンタロー:各社進んでいます。1年目は既存曲とミックスで使えるような状況を作っていますが、2年目以降は完全オリジナルでいきたいですね。すべてがオリジナル楽曲になれば、各社が自由にいろいろなところで配信できますし、1年目の反響次第では著名な作曲家や作詞家が共作に名を連ねてくれる可能性もあるでしょう。海外から「日本のダンスチームと一緒に楽曲を作ると、世界的にすごくバズるんだよね」と評価されるようになれば、世界中のトラックメイカーやクリエイターが参加してくれるかもしれない。将来的には、そうなっていくことを狙っています。
ーー各チームのダンサーからはどんな反響がありますか。
カンタロー:みんな楽しんでいます。自分たちで楽曲プロデュースまで携わることができるのは、ダンサーにとっても刺激があるはずですから。
大山:間違いなく楽しいですよね。一昔前とは違って、世界的には作詞作曲の現場はいわゆるコライト(CO-WRITING)という分業制に変わってきています。複数の作家で共同作業するのが当たり前の時代なので、作家としてのスキルがすでにあったり、またその可能性があるダンサーがクリエイティブな楽曲制作に参加するのも自然な流れだと思いますし、みんなで力を合わせてものを作るのに良い環境になってきていると思います。
カンタロー:10年くらい前なんですけどLAのとあるトラックメイカー(今となっては有名な1500 or Nothin’)の家に遊びにいったら、でかいスピーカーの前でみんなでピザを食べながらトラックメイキングをしていました。一人が機材に向かって打ち込んだら、次の人がまた打ち込んで……という感じでどんどんトラックが出来上がっていくんです。あの中にダンサーがいれば、良い形で共作ができると思います。
ーー将来的には、ダンスそのものの著作権の問題についても取り組んでいきたいと考えていますか。
カンタロー:そうですね。音楽の問題に一緒に取り組むことでいろんなことが明文化できたら、いずれはダンスの著作権の問題にも触れていきたいです。ただ、芸術の幅を狭めるような著作権の使い方は僕自身も望んでいないので、何がオーソドックスで公的にみんなが使えるものなのか、オリジナリティはどこから発生するものなのか、そしてその著作権をどのようにして音楽業界や配信業界の方に認めてもらうかなど、慎重に考えながら進めたいと思います。
ーーTikTokなどで流行っている動画の商品性の核は、実はダンスにあるケースが少なくないですからね。
カンタロー:YouTubeやSNSを通して例えば「シェイク」や「チキンヌードルスープ」といったような振付が世界中で流行るケースはよくあって、もし発案したダンサーが権利を主張できれば、ちゃんとマネタイズはできると思うんです。メイクマネーをするのはヒップホップの文化としても正しいのに、日本だとメイクマネー自体があまり良くないことのように思われる節がありますが、ダンスカルチャーにはその壁を壊していってほしいです。『D.LEAGUE』からスーパースターが生まれることを期待します。
大山:表に出てアーティスト、実演家として活躍するダンサーのクリエイティブな側面に対して、適正な対価を払っていくことを考えることは、今後のエンタテインメントの発展を考える上でも大事なことだと思います。ダンサーに作家のスキルがあり、楽曲を作れば作家として著作権収入がある。また作家のスキルのないダンサーでもDリーグの仕組みの中では、そのダンサーがチームの楽曲を管理する会社と一緒にプロモーション活動などを行って、楽曲やチーム名の普及に努めたら、その分の報酬をチームが支払う。ダンサーのみならず、クリエイターやアーティスト、あるいは各チームを支える企業とWin-Winの関係になるのが理想です。
カンタロー:ダンスの著作権は、音楽の著作権よりも難しく曖昧な点が多くて、定義づけるのは簡単なことではないです。例えばAIがさらに進化して、モーションのデータをAIが分析できるようになったとしても、どこからが権利として認められるのかは、最終的に人間が判断しなくてはいけないでしょう。しかし、この難しい作業を誰かがやらないと権利としては認められていきません。ダンサーたちの権利意識を高めていくのも『D.LEAGUE』の役割かもしれません。
ーー10年前、20年前に比べたらダンス人口は爆発的に増えていると思いますが、ダンス業界にはまだまだ可能性がありそうです。
カンタロー:ダンス人口はたしかに増えていますが、鑑賞者はあまり増えていないので、そこを増やしていくのも大事なポイントかなと思います。今回、『D.LEAGUE』の発表をしたところ、様々な企業からお問い合わせをいただきました。ダンスの人気は日々高まっていて、若者にアプローチするには最適な方法の一つではありますが、どうやってビジネスに繋げていくのか、いまだ回答を探している企業はたくさんあります。コロナ禍で様々なプラットフォームが立ち上がり、配信における法整備も進む中、マルチデバイスを駆使して展開することで、ダンスの新たな可能性を探っていきたいです。