EXILE MAKIDAI 新連載「EXILE MUSIC HISTORY」第1回:サウンドエンジニア D.O.I.と振り返る、EXILEサウンドの進化

EXILE MAKIDAI新連載スタート

 EXILE MAKIDAIによる「EXILE MUSIC HISTORY」は、EXILEが2021年9月にデビュー20周年を迎えることを受けて、その音楽的な進化の軌跡を振り返る新連載だ。

 最新のストリートカルチャーやダンスミュージックのエッセンスを、メロディアスで口ずさみやすいJ-POPに注入し、ダンスパフォーマンスによる視覚的な表現を掛け合わせることで、日本の音楽シーンに一時代を築いてきたEXILE。そのクリエイションには一体どんなイノベーションがあったのだろうか。日本の音楽シーンを代表するクリエイターたちの肉声に、MAKIDAIが迫る。

 第1回のゲストは、90年代のジャパニーズ・ヒップホップシーンで頭角を現し、いまや国内のダンスミュージックにおける大家となったサウンドエンジニアのD.O.I.が登場。「Lovers Again」や「Rising Sun」といった大ヒット曲の誕生秘話にまつわる対談を行った。EXILEファンはもちろん、幅広いクリエイターやミュージックラバーにとっても興味深い内容となっているはずだ。(編集部)

EXILE MAKIDAI 新連載】「Lovers Again」「Rising Sun」......サウンドエンジニア D.O.I.と振り返る、EXILEサウンドの歴史!

音作りは理論よりも現象が先立つ

MAKIDAI:EXILEの楽曲や、D.O.I.さんが思う音楽について色々とお聞かせください。よくDJ DARUMA氏と「D.O.I.さんはマスタークラスの宇宙、銀河だね」と話すのですが(笑)、そもそもエンジニアを目指したきっかけは何だったのですか?

D.O.I.:僕が青春期を過ごした90年代半ばは、アンダーグラウンドでヒップホップが流行っていました。僕も好きでトラックメイカーをやっていたんです。まだまだヒップホップに明るいエンジニアの方は少なくて。とはいえ優秀な方にお願いしてもイメージ通りになるわけでもなく、ジャンル感とか普段聴いてる音楽が反映される職種なんだと気付きました。「やっぱりこれ、ちょっと違うかな」という経験が何度かあり「自分でやらなきゃな」という気持ちになったのが一番大きなきっかけです。

MAKIDAI:トラックメイカーから入って、最終的なところまで自分でやるようになったと。

D.O.I.:当初は自分の関わるものだけ最後までできれば、という程度でした。特にエンジニアとして成功したいという意志もなかったです。ただ周囲の仲間たちの楽曲をいくつか手がけてみたら、それを聴いた友達にも「俺のもやってよ」みたいに広がっていって、だんだんと仕事として成立していったんです。

MAKIDAI:Twitterで「音の処理の勉強をしていると、トラックメイカーから学びたい時とエンジニアから学びたい時が交互に周期的にくる。両者は文系と理系ぐらい違う」という趣旨のつぶやきをされていましたよね。どういう違いがあるんですか?

D.O.I.:エンジニアはサウンドの理論や、使う機材の特性を1から10まで理解していることが絶対条件です。例えば、サブスクリプション用にトラックダウンするなら「こういうルールがあります」というのを知らないといけない。でもトラックメイカーはそこを理解していないことが多く、「つまみがあるから、ひねってみよう」みたいな感じで、何となく気持ちの赴くままに作っているところがある。それはエンジニア側の視点で見たら、でたらめだなって思うこともあるんですね。しかし、出ている音はちゃんと正しかったり、面白かったりする。そこはトラックメイカーの思い切りの良さで、知らないことが逆に結果につながるんです。

MAKIDAI:無知の力というか、感覚的に作った音が結果的に正解になっている、という感じですね。

D.O.I.:音作りに関しては、理論よりも現象が先立つものだと思います。理論武装している人は「それ、理論的におかしくない?」と言うかもしれませんが、理論は後付けですから。なぜそうなるかは後で考えればいい。要するに現象という意味ではトラックメイカー、理論はエンジニアだなと。今でもトラックメイカーが持ってきたデモとかを聴くと、すっごいアグレッシブで「これは一体何をやっているの?」って思うことがあります(笑)。

音楽の好みは千差万別

MAKIDAI:EXILEの楽曲は2010年以降、ほぼD.O.I.さんに手がけていただいてます。

D.O.I.:いわゆるJ-POP然とした曲にはあまり関わっていないですけど、ダンス系の音楽という風にカテゴライズされる場合は、ほとんど担当させていただいてます。最初はたしかDJ WATARAIさんがリミックスした「Cross~never say die~ DJ WATARAI REMIX feat.U-ZIPPLAIN from ENBULL」でした。当時はWATARAIさんの楽曲の8割以上をミックスしていたので、その繋がりがきっかけです。

MAKIDAI:アルバム『The other side of EX Vol.1』(2003年)の中にある、EXILEのパフォーマーチームのルーツともなるようなストリートっぽい楽曲です。エンジニアがD.O.I.さんだったなんて、もう1回聴いてみたくなりました。

D.O.I.:リミックス以外で最初に関わったのは松尾潔さんがプロデュースされていた「Lovers Again」(2007年)でした。当時の僕は、めちゃくちゃにチャートアクションするような方と仕事することがそこまで頻繁にはなかったんです。印象としてEXILEさんはSクラスだし本当に人気があるので、すごい仕事が来たなと(笑)。ちょうどTAKAHIROくんが入ったばかりで、当時A&Rを務めていた佐藤達郎さんも「EXILE自体が伸るか反るかの大事な時期」と言っていました。

EXILE / Lovers Again

MAKIDAI:EXILE第2章の1曲目である「Everything」を出した後、「次はバラードで」というタイミングでした。

D.O.I.:そんな大事なシングルを、アンダーグラウンド上がりの自分がやっていいのかと。「本当に大丈夫?」って思いました(笑)。でも、自分が依頼されているということは、きっと洋楽的なニュアンスが必要なんだろうと解釈して、普段通り思いっきりやろうと決めました。

MAKIDAI:あの曲でD.O.I.さんの力をお借りできて本当に良かったです。

D.O.I.:毎回、初めてする仕事は何を求められているのか、どういう着地で皆が喜ぶのかがわからないと、いまだに緊張しますね。

MAKIDAI:D.O.I.さんでもそうなんですね。

D.O.I.:音楽の好みは千差万別ですし、全員が良いと思うミックスはたぶんありません。「3割ぐらいの人がいいって言ったら大ヒットだ」と言われているくらい。本当に色々な正解があって、色々な人が色々な正義を言いますから。

MAKIDAI:特に、EXILEはトラック数が多いですからね。EXILE TRIBE「24WORLD」なんかは相当トラック数もあったかと思います。

D.O.I.:400、500トラックはあったかもしれない。

EXILE TRIBE / 24WORLD

MAKIDAI:HIROさんが勇退されたときの『EXILE LIVE TOUR 2013 "EXILE PRIDE"』で作っていただいたパフォーマー用のダンストラックも印象深いです。今までで一番ヤバかったかも(笑)。

D.O.I.:あれは690トラックぐらいあって、自分が手がけた楽曲の中ではいまだに破られていないトラック数だと思います。もうマシンのスペックが本当に限界で、Pro Toolsのストレステストみたいな感じでした(笑)。Macは当時1番ハイスペックなものでしたが、大変でしたね。通常のミックスは大体1日で終わりますが、あの曲に関しては丸2日休みませんでした。

MAKIDAI:本当に大感謝です。ライブを見てくださったD.O.I.さんが「その曲が始まったら、パフォーマンスが波形に見えた」と話されていて(笑)。それぐらい密度の濃い曲だったということですね。

D.O.I.:あんなに入り組んだ曲はなかったですね。HIROさんの勇退ということで、一生懸命に作りました。

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