THE COLLECTORS 加藤ひさしが語る、現状を歌うことの必要性「その時代その時代を歌ってこそロックだと思う」

加藤ひさしが語る、現状を歌うことの必要性

 マーシー、新型コロナウイルス禍で変わってしまった世の中でギターを響かせてくれ、という願いを、軽やかな8ビートに乗せた「お願いマーシー」で始まり、昨日までの世界はもう消えた、もう戻れない、だったら昨日までの考えはもう捨てるんだ、明日のために変わるしかない、と歌う「チェンジ」で終わる。THE COLLECTORS、24枚目のオリジナルアルバム『別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜』は、そんなふうに、2020年現在の世の中の状況がダイレクトに反映された作品となった。

 そもそも、基本的な音楽性はずっと変わらないバンドでありながら、その時代その時代に向き合った音楽を作り続けてきたのがTHE COLLECTORSだが、今の世界の事態が事態だけに、よりいっそうクリアに、ある種ジャーナリスティックに、ただしロックンロール/ポップミュージックとしての楽しさや快感を保ったままで、それを描くことに成功しているアルバムだとも言える。

 なお、前述の「お願いマーシー」に、そのマーシー本人=ザ・クロマニヨンズの真島昌利が参加していること、アルバムに先駆けて公開されたMVにも出演していることが話題になったが、もちろんその件についても聞いた。以前のバンドでボーカル&ベースだった加藤ひさしが、甲本ヒロト&真島昌利からのTHE BLUE HEARTSへの加入の誘いを断って結成したのが、THE COLLECTORSである。というのは、ファンは皆知っている話だが、このようにTHE COLLECTORSとマーシーが音源で共演するのは、「全曲他のアーティストに書いてもらう」という企画を実行したアルバム『ロック教室〜THE ROCK’N ROLL CULTURE SCHOOL〜』以来、14年ぶりである。(兵庫慎司)

「マーシー、ずっとギター弾いていてくれ、コロナが終わるまでずっと!」

ーー前作『YOUNG MAN ROCK』の時、このリアルサウンドのインタビューで、曲を書く、詞を書くことが年々大変になっている、枯渇していく、次はもっと苦しくなりますよ、と、おっしゃっていたんですけれども(ザ・コレクターズ 加藤ひさし&古市コータローが語る、結成から色褪せぬモッズ精神と青春時代の感覚)。

加藤ひさし(以下、加藤):はい。

ーー実際いかがでした?

加藤:すごく苦しかったです。できあがった作品を聴いて、「なんとまあバラエティに富んだ作品になったんだろう、余裕さえ感じられるな」って思ったんですけど、作ってる最中の本人は、もう全然。やっぱりどんどんアイデアが枯渇していくじゃないですか。その中でどんな曲を書こうかな、と……まぁ、今回もよくできたなと思います。

ーーその中で、曲なり詞なりを書くヒントになったことは、何かありました?

加藤:コロナの緊急事態宣言が出て、1カ月間はまったく外に出なかったんですよ。やることもないので、いろんな音楽を聴いて。俺はあんまりメタルとか好きじゃないんだけど、なぜかオジー・オズボーンを聴くようになっちゃいまして。

ーーあ、意外ですね。

加藤:オジー・オズボーンって、あのキャラクターとは裏腹に案外ロマンチックな曲も多くて。そういうのはわりと影響を受けたかもしれないですね。これまで聴いてなかった音楽を聴いた、というのは。

ーーオジー、全然ハイトーンボーカルじゃないですしね。

加藤:そうなの、そうなの。わりと普通にポップスなんだよね。その時期はよく聴いたかな。

ーー刺激を受けたもの、他にもありました?

加藤:いや、他は結局、The Whoとかポール・ウェラーの新譜(笑)。

ーーああ、長年聴いているアーティスト。

加藤:The Whoの新譜(『WHO』)、去年の暮れに出たのを何回も聴き直したりとか。ポール・ウェラーもアルバム(『On Sunset』)のリリースがあったので、聴いたんですけど。The Whoは、ずっとリリースしてなかったから、あれだけの質のものができたんだと思うんだけど。歌詞がいいんだよね。俺、歌詞を読まないと気がすまないから日本盤のCDを買うんだけど、「70過ぎのジジイがこんなこと歌うんだ?」って感銘を受けたり。逆にポール・ウェラーは、俺のふたつ上ですけど、彼の方が年寄りくさいことを歌ってるのが不思議だった。60代のポール・ウェラーが「もうやることがなくなった」って歌っていて、The Whoは今でもドラッグを決めてハイになってる、みたいな歌で。

ーー刺激を受けました?

加藤:受けましたね。自分も若くないし、来年でバンドの結成35周年で、もう古株ですよ。そういうロックバンドがこれから何を歌っていくべきなのか、何を歌ったら楽しんでもらえるのか、そして自分も楽しいのか? そういうことを、その2組のアーティストから教えられたりしましたね。

THE COLLECTORS

ーー確かに、日本ではもうTHE COLLECTORSよりもキャリアが上で、今後の歩み方の見本になってくれるロックバンド、いないですよね。

加藤:そうなんだよね。もちろん俺たちよりもキャリアを積んでるバンドも沢山いるんですよ。でも、活動が断続的だったりで……もちろんそれもいいんですよ。でも、「いつの日かThe Beatlesみたいにならなきゃいけない」と思って、もがいてるようなバンドは、自分たちより先にはいなくなっちゃった気がしていて。バンドとしてある程度成功を収めていて、スタイルが仕上がっている人たちはいると思う。でもそうじゃなくて、ずっとデビューしたてのローカルバンドみたいに「俺たちがNo.1になるんだ!」みたいなバンド、たとえば俺たちのまわりだったら、フラカン(フラワーカンパニーズ)だったり、怒髪天だったりいますけど、その中でもいちばん年上なのはTHE COLLECTORSなので。べつに先輩として手本になりたいなんて1ミリも考えてないんですよ。ただ、そこで真剣に向き合って、シーンと戦っていって、何が残るんだろうか? っていうことを知りたい。それだけですね。

ーーこうして34年残れている方が、異常なのかもしれないですけどね。

加藤:異常だし、それにひとつのレコード会社(日本コロムビア)で30年近く契約を続けているのは、「レコード会社もまだ期待してるんだよな」って思うんですよね(笑)。それが何よりも嬉しいです。1987年にテイチクからデビューして、1991年からはずっとコロムビアですから。まあ、何度も陰では「そろそろいいんじゃねえか」って声は上がったとは思うんですよね。でも、まだこうやって、「バンド側がこのあたりにリリースしたい」って言うとプランが通るからね。それが嬉しいですよ。

THE COLLECTORS

ーー先行で配信された「お願いマーシー」で、マーシー(真島昌利)がギターを弾くことになったのは?

加藤:この曲は、もともと違う歌詞を付ける予定だったんですよ。〈When I was young boy〉って歌いだしで、自分が10歳の時はトランシーバーが宝物だった、20歳の時は彼女が宝物だった、30歳の時は……と歌っていって、「60歳になってまだ俺はこんなことしてる」っていう、そんな歌をイメージして作ってたんです。けど、このコロナで、自分が60になろうが、そんなことは世間にとっちゃ知ったこっちゃないし、ちっちゃい話だなと思って。それよりも今の現状を歌いたい、ライブハウスにも行けない、クラブに踊りにも行けない、どこでも騒げない、もうむしゃくしゃするから音楽を聴くことしかない、ロックンロールをずっと聴いていたい……そうなった時、いちばん自分の身近で……ギター弾きっていうよりも、存在そのものがパンクロックなのがマーシーだった。「マーシー、ずっとギター弾いていてくれ、コロナが終わるまでずっと! ずっと俺の部屋をライブハウスにしてくれ!」っていう歌があったらいいな、みんなもそんなふうに思ってるんじゃないかなって。マーシーだったり、布袋(寅泰)さんだったり、(古市)コータローだったり。「加藤さん、ずっと歌っててよ」と思うような人がたくさん全国にいるんだろうな、そんな歌を作ろう、と思って、歌詞をチェンジしたんです。

ーーそうなったから、マーシーにオファーを?

加藤:それでまず、本人の許諾を得ようと。「いやぁ、やめてくれよ」って言われるかもしれないじゃないですか。だから、曲のイメージが湧いたところで電話して、「マーシー、こんな歌を作りたいんだよね」って話をしたら、「うれしいよ、光栄です」って言ってくれて。そのまま歌を作って、聴いてもらって、「だったらマーシーにギター弾いてもらった方がいいよね」という話になった。それでオファーしたら、快く受けてくれたんだ。そのまま「だったらMVにも出てよ」ってお願いしたら、それも快く受けてくれたんだよね。

THE COLLECTORS 「お願いマーシー」MUSIC VIDEO

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