THE COLLECTORS 加藤ひさしが語る、現状を歌うことの必要性「その時代その時代を歌ってこそロックだと思う」

加藤ひさしが語る、現状を歌うことの必要性

ロックンロールのいちばんいいところは、その時代をしっかり歌うこと

ーー「お願いマーシー」のように、今の世の現状の中で、自分が感じていることを歌いたい、という曲が今回特に多いような気がして。

加藤:としまえんとかね。

ーーそう、「夢見る回転木馬」や「お願いマーシー」、あと「香港の雨傘」に「チェンジ」もそうですよね。

加藤:そうですね。「チェンジ」は、もう絶対に元の世の中には戻れないから、だったら遠回りしても、違うルールを考えるしかない、っていう覚悟の歌です。ロックンロールのいちばんいいところは、その時代その時代をしっかり歌うことだと僕は昔から思っているんです。たとえばベトナム戦争が激化した60年代終わりから70年代にかけては、反戦歌と言われるようなものが増えたじゃないですか。反戦の演歌なんてないですよね? それがロックのいいところだ、その時代その時代を歌ってこそロックだと、今でも思うんです。だから、震災があった2011年に出したアルバム『地球の歩き方』は、震災のこと、津波のこと、それから……どうやって復興していくのかわかんないけど、とにかくその時の気持ちを歌った曲がすごく多かったし。原発が爆発すれば、その歌を歌うしね。

ーーだから今回、もしかしたら歌を書くのが前作よりは大変じゃなかったかも、と思ったんです。書くべきことが明確にあるから。

加藤:でも、敵がデカすぎて、なかなかねぇ……どこに着地していいかわからないんですよ。原発が爆発したことについて歌を書こうと思えば、政治的な話しかないからね、書くことがいくらでもあるわけです。でもコロナに関しては、どこをどうしたらいいのか……ほんとに難しかった。今までの常識が通用しないことが起きている、それを覚悟しろ、っていうメッセージぐらいしか出せなかった。

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ーー「チェンジ」の歌い出しは、〈もう戻れない もう戻れない 昨日までの 世界はもう消えたんだ〉という。

加藤:ずっと常識だと思っていたことが、もう常識じゃない。たとえばリモートでの仕事の仕方も……俺の立場だと、アルバムが出るたびにキャンペーンで全国いろんなとこに飛んで、ラジオ局でしゃべっているんですけど、録音ってことも多いんです。生放送だったらまだわかるけど、録音だったら東京にいて録ってもいいわけだし。なんでこの街まで来てるんだろう? って思うようなことが多々あったんですね。放送局としては、ずっとそれが常識だったから。でも、コロナで常識が覆されて、「家でしゃべればいいよね」となった。そういうふうに、昨日の常識は、今日はもうない。

 その反面、たとえば旅行のように、Google Earthだけ見ていても、その時の風や空気や匂いがないと……ライブもそうですけど、配信じゃとても味わえない。そういう、今まであたりまえにやれていたことが、よりいっそう重要なんだなと思えるようになった。それでまた考え方も変わるんだろうな、と思いましたね。

ーー「夢見る回転木馬」は、としまえんに捧げる曲を作っておこうと?

加藤:この曲もまったく違う歌詞を書いていて。実は「ニーチェを胸に」って曲だった。ずーっと悩んでるんですよね、ニーチェ。ニーチェっていいこと言うよね。悩んだらニーチェを読めって歌だったんです。でも、曲が明るいのに詞が明るくなくて、マッチングが悪かった。歌っていて、説教臭くなるというか。それで、自分で聴いて「うわ、この曲ダメだ」と思って。じゃあ曲のイメージに合うのはなんだろうと、今年起こったことを思い出したら、「あ、としまえん、閉まった! 〈信号曲がればとしまえん〉(と歌う)……あ、いいじゃん!」と思ったらあっという間に歌詞ができました。

ーー(としまえんは)思い入れのある場所でした?

加藤:もちろん何回も行ったことあるけど、自分にとってめちゃくちゃ思い入れのある場所かと言われると、そこまでではないね。ただ、コータローは豊島区民で、“木馬の会”っていう、としまえんのフリーパスにずっと入っていて、夏になればとしまえんのプールに行くのが習慣だったみたい。豊島区とか練馬区で生まれ育った人たちって、そういう人、すごく多いんですよね。それもあって「あ、このテーマいいな」と思った。あと、その前にあった原宿駅を移転させる、あの木造の駅舎を壊すっていうのに、俺はめっちゃ反対してるわけ、心の中で。

ーーああ、取り壊されるんですよね。

加藤:ねぇ? それと同じように、としまえんみたいなところは残してほしいんだよね。区が補填してでも、文化的に残すべきだと思う。駅も遊園地も。それを無謀になくしてしまう連中へのメッセージソングなんです。

ーーヨーロッパなら残しますもんね。

加藤:そう、絶対残すんですよ。俺はいつもイギリスが偉いなと思うところがあって。例えば横断歩道の両側にポールが立っているんですけど、その上に黄色い丸いボールが付いているんです。そのボールは中に電球が入っていて、夜になると点滅しながら、ここは横断歩道だって車に知らせるためのものなんですね。日本はLEDが普及してから、街の信号がLEDに変わってるでしょ。日本の場合は信号を取り外して新しいLEDの信号を付けちゃう。そうすると、信号機ばかり未来的になっちゃって、アンバランスなことが起きる。

 でもイギリスは、そのポールの上のボールは残したまま、そのまわりにLEDの輪っかを足したんですよ。街の風景を壊さないように工夫した。日本人ってそういう発想にならない。そこがいちばんダメだと思う。なんでもかんでも壊して……国立競技場もそうだけど。まあ自民党がぶっ壊してんだけどね、土建屋と癒着して。だから、そういうところに気付けって思う。あいつらにまかせてる限り、東京の人たちが愛した場所を地方の田舎者が壊していくだけなんだから。これは田舎者代表として言わせてもらうけど、とっても恥ずかしいことなのね。

ーーああ、自分が東京側じゃなくて。

加藤:そう。東京にあるものを埼玉から来て議員になったような連中が手をつけちゃダメだって。それは言いたい。

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ーー渋谷駅周辺の変わりっぷりとかね。

加藤:あれは究極の田舎者の悪行だよ、なんであんな似たようなビルばかりいっぱい作るの。田舎者が都会に憧れるとろくなことがないから。日本人のいいところもいっぱいあるんだよ、もちろん。アニメーションとか世界一だしね。でもそういう部分ばっかり評価されて、街並みとか、精神的な部分が置き去りにされてる。それに対するアンチな曲だと思っているんですけどね。

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