峯田和伸の記憶と未来への眼差し ドキュメンタリー『2020年の銀杏BOYZ』と新作『ねえみんな大好きだよ』から伝わること

亡くなったイノマーへの気持ちを音楽に

 ライブハウスの渋谷La.mamaの店前では、峯田は、オナニーマシーンと同所で行っていた共催イベント『童貞たちのクリスマス・イブ』について回想する。

 「ひどかったですよ、ホールケーキを客席に投げ込んだりして。ぐっちゃぐちゃなんですよ」と、まるで昨日の出来事のように早口気味に話す。画面には、演者と観客たちが入り乱れる当時のライブの模様が映し出される。峯田は客席へ乗りこみ、イノマーは全裸だ。2020年では考えられないような密な光景である。

 オナニーマシーンのボーカリスト、イノマーは2019年12月に亡くなった。書籍『ドント・トラスト銀杏BOYZ』(2020年)のなかで江口豊マネージャーは、「峯田は何度もイノマーさんがいる病院にお見舞いに行き、なんとか持ち返さないかと思っていたようなのでショックは大きかったはずです。ただ、このことは改めて2人で話をすることはあまりないです。なんとなく言葉にしたくない事実というか」と記述している。

 このドキュメンタリーでも峯田は、イノマーのことを直接的には語っていない。ただ、クライマックスとなる渋谷のラブホテルの一室で、峯田は「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」を弾き語る。言葉にしたくない事実だけど、音楽でならイノマーへの感情を口にできる。そして〈ぼくが生きるまで きみは死なないで〉という歌詞は、2020年の苦しみのなかにいる人々へのメッセージにも聴こえる。グッと見入るワンシーンである。

サンボマスター・山口、池松壮亮らが語る峯田の人間力

 『2020年の銀杏BOYZ』では峯田の記憶がいろいろ明かされていくが、過去の話に終始しない。『ねえみんな大好きだよ』同様、未来についても語られている(かなり気軽な感じだけど)。

 たとえば、峯田が占いタレントのゲッターズ飯田から「73歳までピークが続く」と占われ、一方の松本はゲッターズ飯田の弟子に「来年(2021年)、男性と出会いがある」と予言されたことを話し合うところ。峯田は松本に「もっと恋愛した方がいい。それ(恋愛)もいつか役に立ちそうじゃん、ネタや引き出し的に」とアドバイスする。恋愛をすることが、必ず何かに生かされるかどうかは分からない。でも、生きているうちは何でもやっておいていいんじゃないかということだ。

 みうらじゅん、田口トモロヲが峯田とのエピソードを証言するところもポイントだ。3人はブロンソンズという音楽ユニットを組んでいる。そして、「意味のないことをやらないと、これからの世の中は意味がないんじゃないか。無意味なことをやろう」と、発売予定のない曲のレコーディングを3人で実施したという。これもまた、彼らが自分たちのこの先の生き方について語った象徴的な場面となっている。

 このドキュメンタリーを見て改めて気づかされるのは、どんな過去があっても峯田は必死に生き抜いてきたことだ。自分以外のメンバーが全員脱退するなど苦しい時期もあった。それでも峯田はミュージシャンとして生き続けた。そんな彼の生命力と熱量の凄まじさは、山口隆(サンボマスター)、橋本愛、池松壮亮、田口トモロヲ、みうらじゅんの証言からも感じ取れる。

 峯田の人間力は、奏でる音楽にそのまま表れている。これは笑える場面なのだが、ラブホテルに入室した峯田と松本は「じゃんけんで負けた方が、勝った方の足の裏を嗅ぐ」という奇妙な勝負をする。提案者の峯田はじゃんけんに敗れ、松本の足裏を嗅ぐことになる。松本は「いいですよ」と言いながらも、何とも微妙な空気が流れる。

 でも「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」を感動的に弾き語った後、次は松本が峯田の足裏を嗅ぐ流れになる。ただ松本には先ほどのような躊躇感はなく、ナチュラルに峯田の足裏に鼻を近づける。ヘンテコなシーンには変わりはないが(笑)、それでも峯田の人間的な魅力から成る音楽が、自然と松本にそうさせたのではないか。

 峯田はこれからもたくさんの記憶とともに生き、それを音楽として昇華させていくことだろう。人間臭くて、いくつになってもキラキラしている峯田の生き様に魅せられていきたい。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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