Autechre、Yppah、Locust 、Shinichi Atobe.……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜8選

Autechre『SIGN』

オウテカ
 英国エレクトロニカの大御所、オウテカ(Autechre)による2年半ぶりの新作『SIGN』(Warp/Beat)。ここのところCD8枚組『NTS Sessions.』、CD5枚組『elseq 1–5』と大作が続き、しかもその間に配信のみのライブ音源アーカイブシリーズ『AE_LIVE』を20枚以上発表するなど、いささか常軌を逸したような怒濤のリリースラッシュが続いており、かなりのマニアでもそのすべてを完璧にフォローするのは難しいでしょう。そんな中、全11曲65分と比較的コンパクトなサイズのオリジナルアルバムは『Exai』(2013年)以来ということになります。『NTS Sessions.』『elseq 1-5』はジャムセッションを編集して音源にしたものですが、本作は一から作り上げた作品です。

 例によって歌も歌詞もなく、タイトルも記号化されていて、その音楽を理解するための情報は音そのものにしかない、という姿勢は揺るぎがありません。生楽器の導入だの多彩な音楽性の融合だのポップな歌ものだのドラマティックな展開などありがちな脇道には目もくれない。隣の人の顔も見えないような真っ暗闇で行われる彼らのライブのように、ピュアでストイックでモノクロームなエレクトロニックノイズが鳴っています。本作はかつてなくアンビエントドローン色が強く、ピリピリとした緊張感の中、彼らとしてはエモーショナルかつリリカルで、内省的な作品となっているのが興味深いところです。現在のコロナ禍を作品には直接反映していないとのことですが、外出自粛で人びとの意識が内面に向いている今だからこそ、ふさわしい作品だと感じました。同時期に制作され、本作には収録されていない曲もあるようで、そちらも発表を期待したいところ。10月16日、世界同時発売。

『SIGN』(レーベル公式サイト)

Yppah『Sunset in the Deep End』

Yapph
『Sunset in the Deep End』

 “Happy”をひっくり返せば“Yppah”。カリフォルニア在住のイパ!ことジョー・コラレス・ジュニアの5年ぶり5作目が『Sunset in the Deep End』(Future Archive Recordings)。美しくキラキラと輝くシンセサイザーのノイズやリバーブを効かせたギターが降り注いでくるエレクトロニックシューゲイズ〜ドリームポップ〜チルウェイヴ〜トリップホップ〜ダウンテンポは、ポーティスヘッドがシューゲイザー系インディポップをやっているようでもあり、あるいはマッシヴ・アタックがザ・キュアーをカバーしているようにも聞こえます。前作よりも幻想的で柔らかくエレガントな側面が強調されたアトモスフェリックなサウンドは、とにかく美しいですね。

Yppah - By Then It'll Be Too Late (feat. Ali Coyle) [Official Music Video]
Yppah - Sunset in the Deep End

Croatian Amor『All in the Same Breath』

 今月はドローン〜アンビエント的なエレクトロニカ作品が目立ちます。デンマークの電子音楽家ロウク・ラウベク(Loke Rahbek)のプロジェクト、クロアチアン・アモール(Croatian Amor)の新作『All in the Same Breath』(Posh Isolation)は、Yppahをさらに瞑想的で、内面的にしたようなサウンドです。エクスペリメンタルなレフトフィールド音響彫刻ですが、優しく柔らかく聞きやすい。夏から秋にかけてのBGMには最適。

Croatian Amor) - All in the Same Breath

Croatian Amor - All in the Same Breath

Locust『The Plaintive』

 90年代から活動する英国の電子音楽家、ローカスト(Locust)ことマーク・ヴァン・ホーエンの新作『The Plaintive』(Touched Music)。アナログシンセサイザーの温かく肉厚なサウンドが螺旋階段を上昇するように反復し徐々に高揚していく内容は、初期クラスターやクラフトワークにも通じるシンプルでメランコリックなエレクトロ。レトロスペクティブでノスタルジックな色濃い音楽性は、永遠に色あせることのない思い出を反芻し味わうような優しさに満ちていて、心穏やかなひとときを過ごすことができます。

Locust - The Plaintive

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