Four Tet、Klein、Arca、ナカコー……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜10選

 約2カ月のご無沙汰でした。今回もエレクトロニックな新譜の中から厳選してお送りします。

 今年になって大傑作『Sixteen Oceans』をリリースしたばかりのFour Tetことキーラン・ヘブデンですが、その後も精力的なリリースを続けています。まずは『Sixteen Oceans』のわずか1カ月半後にSoundcloudで一気に16曲の未発表曲を公開。それぞれ美しいアートワークが添えられるなど、凝り性ぶりを発揮。並々ならぬセンスと冴えたアイデアを感じさせるディープハウス~アンビエントトラックが並びます。また同時期にいくつかミックス音源や映像も公開されています。

Four Tet | Boiler Room: Streaming From Isolation | #8
⣎⡇ꉺლ༽இ•̛)ྀ◞ ༎ຶ ༽ৣৢ؞ৢ؞ؖ ꉺლ

 またこれ以外に別名義でのリリースも精力的。⣎⡇ꉺლ༽இ•̛)ྀ◞ ༎ຶ ༽ৣৢ؞ৢ؞ؖ ꉺლ名義(読み方不明)での4曲入りEPが先月末に各配信サイトで公開されています。ポストロックバンド、FRIDGEのメンバーとしてデビューして以来20年以上のキャリアを積んできたベテランですが、今がクリエイティビティのピークではないかと思わせるほど、彼の現在の活動は充実しています。

೧ູ࿃ूੂ༽oooooo (ଳծູ...
⣎⡇ꉺლ༽இ•̛)ྀ◞ ༎ຶ ༽ৣৢ؞ৢ؞ؖ ꉺლ『ooo ̟̞̝̜̙̘̗̖҉̵̴̨̧̢̡̼̻̺̹̳̲̱̰̯̮̭̬̫̪̩̦̥̤̣̠҈͈͇͉͍͎͓͔͕͖͙͚͜͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢ͅ  oʅ͡͡͡͡͡͡͡͡͡͡͡​(​ ؞ৢ؞ؙؖ⁽⁾˜ัิีึื์๎้็๋๊⦁0 ̟̞̝̜̙̘̗̖҉̵̴̨̧̢̡̼̻̺̹̳̲̱̰̯̮̭̬̫̪̩̦̥̤̣̠҈͈͇͉͍͎͓͔͕͖͙͚͜͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢͢ͅ  ఠీੂ೧ູ࿃ूੂ』

 この連載で何度も取り上げてきたサウスロンドンの先鋭アーティスト/シンガーソングライター、クライン(Klein)の新作『Frozen』が早くも登場。今度は彼女のBandcampからのDLリリースのみで、現在までのところフィジカル発売やストリーミング配信はない模様です。広く一般に広めるつもりはないという意思表示でしょうか。ただし購入せずともBandcampでフルサイズの試聴は可能です。

 前2作ではかろうじてエレクトロニックR&Bの範疇にとどまっていましたが、今回は、さらに徹底してエクスペリメンタルでアバンギャルドなノイズコラージュが展開され、まるでThrobbing Gristleを思わせるような場面も。ひたすら自己の内面を深耕するような内省的で瞑想的なサウンドですが、2011年に英国警察に殺害され、英国における人種差別問題を露呈させたマーク・ダガン殺害事件のオマージュ曲など、最近のジョージ・フロイド氏殺害に端を発する“Black Lives Matter”運動の盛り上がりとも密接に関連しています。徹底して非ポップでアンチコマーシャルでコンシャスなアート作品の白眉と言えるでしょう。

KiCk i
Arca『KiCk i』

 まだ発売は1カ月以上先ですが、あまりに素晴らしい作品なので一足はやくご紹介しましょう。アルカ(Arca)の新作『KiCk i』(7月17日発売:XL Recoerdings/Beat Records)です。
アルカは今年になって60分を超える大作シングル「@@@@@」を発表して大きな話題となりました。

Arca - @@@@@

 今作ではビョークを始め、ロンドンのシャイガール、スペインのアゼリアなども参加した万華鏡のようなエクスペリメンタルポップを展開しています。母国ベネズエラの伝統音楽やラテン音楽、ヨーロッパの実験音楽などがアバンギャルドなエレクトロニックミュージックと交錯する世界は、狂おしいほどエモーショナルで美しい。間違いなく今年度を代表する傑作となるはず(レーベル公式HP)。

Arca — Time
Arca - Nonbinary
What Wands Won't Break
Daedelus『What Wands Won't Break』

 西海岸ビートシーンのベテラン、デイデラス(Daedelus)の新作『What Wands Won't Break』(Dome Of Doom Records)。多作で、アルバムごとに大きく方向性やサウンドが変わる人ですが、2018年の『Taut』では、西海岸らしいポップでドリーミーで柔らかいエレクトロニカ~ブレイクビーツ、2019年の『The Bittereinders』(フライング・ロータスが主宰するBrainfeederからリリース)では一転してダークなドローン~アンビエント、そして今作では、Aphex TwinやAutechreを思わせる硬質でノイジーなエレクトロニカ~IDMをやっています。打ちつけるようなハードな変則ビートと過剰な重低音は、ひたすら狂気じみていて殺伐としていますが、それでもUK組とはひと味違う西海岸ならではの乾いた叙情性が感じられるのが興味深いところ。

Henosis
Daedelus『What Wands Won't Break』
Cape Cira
K-Lone『Cape Cira』

 英国のジョシア・グラッドウェルによるプロジェクト、K-Loneの1stアルバムが『Cape Cira』。自身が主宰するUKベースミュージックの代表レーベル<Wisdom Teeth>からのリリースです。ダビーでチルでアンビエントなトロピカルベース~ディープエレクトロニカ。瞑想的でドリーミーなサウンドは、以前よりもカッティングエッジな鋭さは後退したものの、さらにまろやかで、包み込むような優しさが感じられてとても新鮮で魅力的です。

K-Lone『Cape Cira』

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「新譜キュレーション」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる