椎名林檎、演出で表現する“生としての響き”ーー観客の胸を打つ、豪華絢爛なステージの魅力
9月5日、『東京事変 Live Tour 2O2O ニュースフラッシュ』の実演を記録した映像『東京事変2O2O.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ』の配信、及び映画館上映が行われた。映像は、東京五輪開会式が行われるはずだった7月24日に渋谷NHKホールにて無観客で撮影されたものだ。
コロナ禍で実際にライブを開催するのが困難な状況において、このような“供給”はありがたい。そして、その内容への期待値も高かったはずだ。8年ぶりに“再生”した東京事変のライブであるし、何より東京事変はそれぞれソロで活躍しているその道の手練たちが集まったスーパーバンドだ。しかし、その期待の中には「どんなステージを見せてくれるのだろう?」という感情も入り混じってはいなかっただろうか。3度前の閏年だった2008年頃から、椎名林檎/東京事変のステージは毎回衣装・演出ともに凝られたものになっていき、それはまるでショウを観ているような感覚だった。ステージの際に“歌を聴く””ダンスを観る”アーティストはたくさんいるが、“ショウを観る”感覚のパフォーマンスをするアーティストは数少ない。私が他に思い浮かべるのは浜崎あゆみくらいだ。では何故、椎名林檎/東京事変がそのようなスタイルになっていったのか、椎名林檎を軸に考察していきたいと思う。
「生」に込められた意味
椎名林檎が2008年にデビュー10周年を記念して開催したライブ『椎名林檎(生)林檎博'08 ~10周年記念祭~』の最終演目、斎藤ネコ率いる総勢65名に及ぶオーケストラと、総勢80名の女性阿波踊りチームを従えたゴージャスなステージを、椎名林檎は〈君が生モノだから〉のロングトーンで締め括った。その曲「余興」は、2009年に発表されたアルバム『三文ゴシップ』に収録されている。そして、その『三文ゴシップ』は椎名林檎自身がヌードとなったジャケットからも伝わるように、人々の日常生活に密着するような”生々しさ”を感じられるアルバムに仕上がっていた。その1曲目を飾るのが「流行」、英題は「Vogue」だ。なんとも甘美なタイトルだが、この曲は「一度きりの人生、臆せずゴージャスにど真ん中を歩いていこう!」という、近年の椎名林檎の方向性の幕開けのように思える。それ以降、2014年に発表された『日出処』は目抜き通りを歩くことをテーマにしているし、2017年のシングル曲「目抜き通り」はそれがそのままタイトルになっている。ここ数年の歌詞には“人生”という単語も頻出している。まさに「ありあまる富に溢れた“人生”という旬を目抜き通りで謳歌して、夢だらけの至上の人生を全うしよう!」というメッセージがビンビンと伝わってくるような、陽の光を感じるディスコグラフィだ。そして、椎名林檎はそれを自身と自身のバンド東京事変のステージで可視化させているのではないだろうか。