椎名林檎、演出で表現する“生としての響き”ーー観客の胸を打つ、豪華絢爛なステージの魅力

プロとしてのマナー

 もともと、椎名林檎はスーパー等で自身の曲のインストがMIDIで流れる際、「いかに光るものを書いておくかが、自分にとっては大事だと思うんです。旋律と和声の関係性にこそ自分はいつも関心を持つべきだ」と発言している(音楽ナタリーより)。もちろん、椎名林檎が中心となって結成された東京事変もそういう志で曲作りを行っているはずだ。つまり、もともとの曲が上質に作られているため、ステージがどんな演出であれ、上質なものは上質なのである。それでも、潤沢にお金を掛けて、時にはバンドのメンバーやオーケストラをもステージを作る役者に仕立て、上質な曲をさらに上質に届けられるよう、ゴージャスな工夫が施されている。だからこそ、セットリストの歌と演奏だけのシンプルな演目が、より一層“生”として響き、そのコントラストが胸を打つのだろう。

 そして前述したように、東京事変はその道の手練たちが集まったスーパーバンドだ。その時に観客が何を求めているかを察知し、それに応えることが可能な集団だ。実際に、椎名林檎のソロの話ではあるが、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)で「NIPPON」を披露した際、Twitterで「昨夜オセンチナンバーが続き、お客さまがビリビリしたがっておいでに見えて、それで反射的に歪み声で押し進めただけなの」とツイートしたことがある。

 このように、元の楽曲が上質であること、ステージ能力が高いこと、臨機応変に対応できるサービス精神が、椎名林檎/東京事変のステージを際立たせている。彼らにとってはプロとして当然のマナーかもしれないが、こちらからしたら(福祉?)といった具合である。

 ファンの存在、子どもたちへの使命感、そして自らの夢。それらが合わさって、現在の椎名林檎/東京事変のショウのようなステージができていると私は考える。今というまたとない瞬間を、せっかくなら輝かしく。その輝かしい今を、五感で感じて欲しい。何故なら、過ぎ去るのはあっという間だから――私は、椎名林檎/東京事変のステージからそういうメッセージを感じる。だからこそ、私たちはこんなにも魅了されているのではないだろうか。

 それでは、椎名林檎が『LIVE MONSTER』にてあっけらかんとした笑顔で放った、本質を捉えた台詞で本稿を締め括ろうと思う。「生よ! 生!! これからは生よね!!!」

■ゆずひめ/音楽愛好家。
好きな音楽ならなんでも聴くため、「耳ビッチ」を自称している。架空のWeb雑誌『#BitchVogue JAPAN』の編集長を務め、UKI EYEというステージネームで自ら音楽活動も行う。Twitter:@akaredlipsberry

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