坂本真綾インタビュー【後編】 タイアップ作品やクリエイター陣からの“刺激”と止むことのない音楽への“追求心”

坂本真綾インタビュー(後編)

 坂本真綾が7月15日にリリースする25周年記念アルバム『シングルコレクション+アチコチ』(2CD)には、2013年以降に発表されたタイアップ楽曲をすべて収録。DISC1に収められたスマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』シリーズ主題歌「色彩」「逆光」、最新曲「クローバー」(TVアニメ『アルテ』OPテーマ)などの楽曲からは、作品の世界観に寄り添いながら、奔放なクリエイティビティを発展させてきた約8年間の軌跡が感じられる。

 さらにDISC2には、菅野よう子作の「cloud 9」「Tell me what the rain knows」(TVアニメ『WOLF’S RAIN』)、「卒業写真」(荒井由実)、「三日月」(DREAMS COME TRUE)のカバー、Negiccoに歌詞を提供した「私へ」の新録セルフカバーなどを収録。多彩にして奥深い音楽性が伝わる内容となっている。

 今回のインタビューでは、本作『シングルコレクション+アチコチ』をフックにしながら、25周年を迎えた現在の心境、今後の活動ビジョンなどについて語ってもらった。(森朋之)

タイアップ曲について「制限と捉えないことで、発想の転換が生まれやすい」

ーー25周年記念アルバム『シングルコレクション+アチコチ』がリリースされます。「はじまりの海」(TVアニメ『たまゆら〜もあぐれっしぶ〜』OPテーマ)から最新曲「クローバー」(TVアニメ『アルテ』OPテーマ)まで、2013年のタイアップ楽曲をすべて網羅されていますが、本当に素晴らしい曲ばかりだと思います。そして、1曲1曲、かなり思い切ったことをやってますよね。

坂本:本当にそうですね。自分でも労ってあげたいです(笑)。

ーー(笑)。いろいろなチャレンジを重ねてきたという実感も?

坂本:あります。“アチコチ”に入っている曲を順番に聴くと、ホントに冒険的なことをしてきたんだなと改めて感じたし、「よくがんばったね、自分」と思います(笑)。自分のアルバム曲だったら、ここまで思いきれないと思うんです。タイアップの楽曲だからこそ、想像もしてなかったような挑戦ができるというのかな。「レプリカ」(TVアニメ『M3〜ソノ黑黒キ鋼〜』OPテーマ)のような歌詞は自分だけでは書けないし、サウンドにしても「Be mine!」(TVアニメ『世界征服〜謀略のズヴィズダー〜』OPテーマ)や「逆光」(『Fate/Grand Order』第2部主題歌)のような激しいアレンジを求めたことはそれまでにはなくて。歌ってみて、「私にもこういうところがあるのかも」と気付いたり、新しい発見につながることもありました。いろんなジャンル、いろんな人との出会いがあって、半分くらいは(作品に)染まりながら、でも、どうしても染まらない自分もいて。そういうことを楽しみながら、一方では「失敗してもいいじゃない!」という気持ちもありましたね。それくらいの思いでおもしろいことを積み重ねたほうがいいし、そのほうが刺激があるだろうなと。私にとっても、お客さんにとっても。

ーー“タイアップ曲”は、制限にはならないと。

坂本:本来は制作の制限になるはずなんですが、逆に何かを引き出してもらえることが多くて。不思議ですよね。冷蔵庫にあるものだけで料理を作ったら、とんでもなく美味しいものができた、みたいな感覚です。制限を制限と捉えないことで、発想の転換が生まれやすいのかもしれないですね。

ーータイアップソングの場合、制作のスタートはやはり“作品の世界にどう寄り添うか?”ということなんでしょうか。

坂本:そうですね。場合にもよりますが、作品の制作サイドから提示されるのは概念的なテーマが多くて、サウンドや楽曲の内容はこちらに任せてもらえることもけっこうあります。たとえば「Be mine!」だったら、“世界征服”というテーマがあって、サウンドや歌詞は考えさせていただきました。その時期にたまたまthe band apartと接点が出来たので、ダメ元で(サウンドを)「一緒にやってもらえませんか?」と聞いてみたら、快く引き受けてくださって。

 ーーさきほども話に出た「色彩」は、la la larksが作詞・作曲を担当。これもかなりのチャレンジだったと思うのですが。

坂本:「色彩」はRPGゲームの主題歌なんですが、「ゲームの主題歌って、1回聴いたら、次からはスキップされるんじゃないか」と勝手に思っていて(笑)。だったら、思い切ったことを試して、遊んでみようと思ったんですよね。もちろん歌詞の内容は、ゲームの世界観を意識しながら、私も原作の内容をしっかり自分なりに解釈した上で歌詞を書きました。

ーーなるほど。それにしても作家陣のクレジットだけでも壮観ですよね。大貫妙子さん、the band apart、鈴木祥子さん、内澤崇仁さん(androp)、Rasmus Faber、水野良樹さん(いきものがかり)など、すごく幅広いクリエイターが名を連ねていて。

坂本:すごいですよね。大貫さんにお願いするときは、すごく勇気が必要でした。初めてご一緒する作家の方にお願いするというのはそれだけで大きなチャレンジだし、心の準備が必要なんですよね。もちろん楽曲のテーマなども大切ですが、半分は「この人の音楽が大好きだから、ぜひお願いしたい」という直感なんです。あと、冨田ラボさん、末光篤さんのように、最初はこちらからお声がけさせてもって、曲を作っていただいた方から、ご自身の作品に呼んでいただけることもあって。

ーーDISC2に収録されている「荒川小景」(冨田ラボ feat. 坂本真綾)、「Lazy Line Painter Jane」(末光篤 feat. 坂本真綾)ですね。

坂本:呼んでいただいて嬉しかったです。「Lazy〜」は既存曲(Belle And Sebastianのカバー)なのですが、気持ちよく歌うことができました。冨田さんのときは細かいディレクションをしていただいて、冨田さんの理想の形に辿り着けるように必死に頑張りました。Corneliusとご一緒したとき(「まだうごく」/坂本真綾 コーネリアス)もそうですが、以前から好きで聴いていたアーティストの楽曲を歌わせていただけるのは感慨深いですね。

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