『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』インタビュー
石若駿率いるSMTKに聞く、バンドの成り立ちや作曲とインプロのバランス 信頼感があるからこそ生まれる自由な音楽
石若駿(Dr)、マーティ・ホロウベック(Marty Holoubek)(Ba)、細井徳太郎(Gt)、松丸契(Sax)の4人で2018年に活動をスタートさせたSMTKが、2020年4月15日にリリースしたデビューEP『SMTK』に続いて、5月20日に1stアルバム『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』をリリースする。Answer to Remember、CRCK/LCKS、SONGBOOK、様々なアーティストのサポートと、精力的に動き続ける石若だが、SMTKは彼の活動の中でも特にロック色の強いものだと言える。フリージャズの要素も強いが、ギターはかなり歪み、サイケデリックで、ときにジャンクと言ってもいい演奏は、ノーウェイヴ、ハードコア、ポストロック的な解釈もできるもの。ニューヨークのアート精神が流れ込み、ライブハウスでジャズとロックの交配が歴史を積み重ねてきたこの国の豊饒なアンダーグラウンドシーンの川下に、彼らは位置すると言ってもいいかもしれない。強者揃いのメンバー4人に、バンドの成り立ちについて聞いた。(金子厚武)
SMTKの邂逅と音楽性「みんなが好きな音楽を持ち寄ってバンドをやってる」
――まずはバンド結成の経緯を、石若くんを軸とした各メンバーとの関係性を紐解きつつ、話していただけますか?
石若:最初は僕とマーティと徳ちゃん(細井)でトリオを始めました。僕が新しいバンドをやりたいと思って、マーティがオーストラリアから日本に引っ越してきた2018年の8月に、荻窪のベルベットサンでライブをしたのが結成日ですかね。マーティとはピアニストのアーロン・チューライのバンドで毎年ツアーをやっていて、いつかちゃんとバンドをやりたいと思っていて。徳ちゃんとは同じ年なんですけど、出会ったのはお互い大学生くらいのときで、僕が桐生(群馬県)にライブに行ったときに、見に来てくれていて。その後に徳ちゃんは新宿のピットインでバイトをするようになって、同じ年だから喋りやすかったし、いろいろ話をしてる中で、一緒に何かやろうって言ってて。それで最初は「SMT」として始まったんです。
――その2カ月後のライブで松丸さんが加入して「SMTK」になるんですよね。
石若:9月くらいにTwitterで契(松丸)が「(日本に)帰国するんで、ライブのお誘いください」みたいなポストをしていて、添付されてたバークリー(音楽大学)の友達とのトリオの映像を見たらすごくかっこよくて。すぐにDMして、「今度ピットインでライブがあるんですけど、よかったらそこに入ってライブをしませんか?」って送ったら、「ぜひ」って返ってきて。その時はまだ面識がなかったから、日野皓正さんとのライブにマーティと契を誘って、そこで2人とも飛び入りして、2曲くらい演奏して。その後、契を高田馬場のJazzSpot Introに連れて行って、日本のミュージシャンと交流して……最初はそんな経緯です。
――マーティさんは石若くんとはいろいろなプロジェクトで活動していて、3月に発売したリーダー作『Trio Ⅰ』にも石若くんが参加していますよね。最初に会ったときは、どんな印象でしたか。
マーティ:演奏がめっちゃ上手すぎてびっくりしました。でも、フリージャズ、ポップス、シンガーソングライター、同じような音楽が好きで、いいコンビネーションが作れていると思います。
石若:最初に一緒に音を出したときから、縁を感じましたね。そういうことって、すごく少ないんですけど。
――マーティさんは石若くんをはじめとした日本のミュージシャンと交流する中で日本のことが好きになって、日本で生活をするようになったわけですよね。
マーティ:日本の音楽シーンはとても充実していて、駿(石若)のオススメしてくれるものはジャズもポップスも良い作品ばかりです。それでどんどん日本の音楽に興味が出て、引っ越しました。
――細井くんはピットインでバイトをしていたときに仲良くなったと。
細井:そうです。その後に駿が主催してるジャムセッションに遊びに行って、何曲か一緒に演奏したら、すごくいい感じだなって思って。その半年後くらいに、「SMTをやろう」って話が進みました。
石若:そのジャムセッションでは何でもありで、特に「ジャズ」っていうわけでもなく、僕が全部叩くので、やりたい人はどんどん参加してくださいっていう不思議なジャムで。SNSでも有名なガチタンバリン奏者の人がいたり、君島大空くんも来てくれて……そんな伝説のジャムがあったんです(笑)。
――別のサイトのインタビューを拝見したんですけど、細井くんは「好きなギタリスト」として、ジム・ホールやビル・フリゼールと一緒に、トム・モレロやダイムバック・ダレルとかも挙げていて、つまりはジャンル関係なく、好きだと思うものを聴いて、吸収してきたわけですよね?
細井:そうですね。もともとポップとかロックが好きで、そこからジャズが好きになりました。垣根なくいいなと思う音楽を聴いて、(音楽性の幅が)広がっていきました。
――松丸くんはSNSで急に石若くんから連絡が来たそうで、最初はびっくりしたでしょうね。
松丸:そもそも、僕それまで日本に住んだことがなくて。
――パプアニューギニアで育ったそうですね。
松丸:高校卒業まで(パプアニューギニアに)いて、その後はバークリーに入学してボストンに4年間いたので、日本に知り合いが全然いなくて。当時はお金が無くなって日本に帰るしかなかったんですけど、寂しいから、「友達が欲しいです」みたいなニュアンスの投稿をしました(笑)。なので、日本の音楽シーンについても全然知らなくて、それでも『Songbook』のカバーが印象的だったので石若さんの名前はぼんやり知っていました。連絡が来てびっくりしたけど、めちゃめちゃ嬉しかったです。
――石若くんに出会ったことで、日本のシーンみたいなものも知るようになった。
松丸:帰国した当初は1~2年日本にいて、お金を貯めて、また勉強しにアメリカかヨーロッパに行こうと思ってたんです。でも、石若さんに誘ってもらったのをきっかけに知り合いも増えて、活動の幅も広がって、ライブも月10本くらいに増えて、去年はデビューアルバムも出して……いまはこの時間を大切にしたいなと思っています。その中でもSMTKは一番大きな存在で、周りには面白いことがたくさんあるし、そこから学べることもたくさんあります。
――SMTKの音楽性について、もともとの青写真はどの程度あったのでしょうか?
石若:SMTのときは「マーティと徳ちゃんのオリジナルを演奏しよう」って感じでした。あとは、セロニアス・モンクをやったり……。
細井:テーム・インパラとか。
石若:そうそう。あとはマイルス(・デイヴィス)のバンドのピアニストだったケイ赤城さんの曲とか。自分のバンドでカバーってあまりなかったから、「自分から離れた音楽を自分がリーダーでやろう」と最初は考えていました。あとは、フリーインプロビゼーション(即興演奏)がコンセプトになっていて、契の曲は僕たちのやりたいことと合っていたんですよね。
――ジャムセッションの話もそうですけど、最初からジャンル的な括りではなかったと。
石若:でも、徳ちゃんとは「日本人としてのジャズ」みたいな部分を共有してるというか。僕と徳ちゃんは昔から日本のジャズシーンにいて、いろんな人たちの演奏を間近で見てきた身として、「日本のコアなジャズシーンにあるものを、自分たちも持ってやろう」という気持ちが共通していて。そこにマーティの持っているオーストラリアの文化とか、オーストラリア人から見た日本の魅力、パプアニューギニアで育って、アメリカで勉強した契の要素が混ざったら、すごく面白いんじゃないかなって。
細井:もともとジャズって、海外から流入してきたものじゃないですか。でも、長い時間を経て、そこに日本の良さも悪さも全部詰め込まれて行って、いまは「日本には日本のジャズがある」って、誇らしく思えるくらいの精神的な強さがあると思っています。自分は日本で生まれ育ったから、そこを大事にしたいし、これから先に残していきたいというか、継承して、次の世代にも「日本のジャズがあるんだ」っていうのを、伝えていきたいです。
――「フリーインプロビゼーションがコンセプト」とのことですが、実際の曲作りにおいては、作曲とインプロのバランスってどんな感じなのでしょうか?
石若:曲ありきではありますが、EP『SMTK』に入っている曲は、メンバーそれぞれのオリジナルを持ち寄って、ライブを重ねて、自然にできていったアレンジで演奏しています。アルバムに関しては、まず一人3曲くらい作って、何日かリハーサルをして、「ここをフリーにしたら面白いんじゃないか」と話をして作っていきました。
松丸:即興とかフリーって、常にこういう音楽に触れていない人からすると、アブストラクトな感じがすると思うんです。あえて作曲技法の観点から話すと、たとえ無意識でもこういうリズムがあって、そこからあるアイデアが派生して、この音に対してこう音が鳴ると面白くなる……といった具合に成立していて、対旋律をはじめいろいろ同時に起こっている。そこでコミュニケーションを取りながら曲を形作っていく中、道しるべをもうちょっとクリアにするために、始まりと終わりを決めたり、ベースラインをはっきりさせたり、そういう要素を固めていって、SMTKではバランスを取っている感じです。
――マーティさんはSMTKというバンドの面白さをどう感じていますか?
マーティ:一番面白いのは、いつもエナジーが強くて自由な感じ。みんな信頼し合ってるから、どんなに即興が展開していっても、安心感があります。
――ハイエナジーだし、ギターも結構歪んでるから、ジャンル名で言うと「ノーウェイヴ」とか「ハードコア」みたいな要素も入ってると思うけど、でもそれもやっぱり「そこを目指した」というわけではなくて、4人のインプロから結果的に生まれたものというか。
石若:そうですね。何かを目指しているっていうよりは、そうせざるを得ない状況になる。崖っぷちに立たされて、「どうする?」ってなった時に何かが生まれるんですよ。一生懸命戦って、気づいたら服が全部脱げてて、「さあ、そこからどうする?」みたいな……もっと上手い言い方がある気がする(笑)。
松丸:言いたいことはわかりますけどね(笑)。
細井:ジャンルの話で言うと、マーティが来日する直前に、俺と駿だけでスタジオに入ったことがあって、どんな曲をやるか相談したときに、「今度始めるバンドでは俺たちが好きな音楽を全部やろうよ」と言ってたのをすごく覚えていて。実際、僕がつくった「ホコリヲハイタラ」(『SMTK』収録曲)とかはフォーキーだし、契の作る曲はフリージャズやヒップホップの要素があるし、マーティの曲はロックとかプログレの要素も入っている。とにかくみんなが好きな音楽を持ち寄ってバンドをやってる感じはあると思います。
――最初がセロニアス・モンクとテーム・インパラという時点で、その感じは伝わります。ちなみに、録音の音ももすごくいいですけど、エンジニアはどなたですか?
石若:録りは中里隆夫さんとミックスはMSR奥田泰次さん、マスタリングは池袋Dedeのオーナー・吉川昭仁さんです。昨年、吉川さんはアメリカにスタジオをオープンして、ローリン・ヒルの隣の部屋らしいですよ。