小野島大の新譜キュレーション
Nathan Fake、Four Tet、Tornado Wallace、田中知之……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜11選
2カ月のご無沙汰でした。たった2カ月の間に世界の様相は一変してしまいました。出口のないトンネルに迷い込んだような状況ですが、こんな時だからこそ音楽の力を感じましょう。在宅のお供になりそうなエレクトロニックなアルバムを紹介していきます。多くはインストゥルメンタルなので、聴き手の想像力次第でどんな状況でもハマる可能性がある。それが面白いところです。
英国の鬼才ネイサン・フェイクの3年ぶり新作『Blizzards』(Cambria Instruments)。ライブ用の機材を使って初期のダンスミュージックへの回帰を目指したという作品です。幻想的で官能的なシンセの音色と生きもののようにうねり触手を伸ばすフレーズ、繊細で美しいメロディ、ダンサブルでありながら変則的で意欲的なリズムアレンジなど、当代最高のテックハウス〜エレクトロニカを堂々と展開しています。若くしてシーンに彗星のように登場した天才児ももう39歳。ミュージシャンとして素晴らしい成熟を見せています。今年のエレクトロニックミュージックを代表することになるであろう大傑作です。
やはり英国のキエラン・ヘブデンのFour Tetの2年半ぶり10作目が『Sixteen Oceans』(Text)。これも素晴らしい傑作です。いかにも(Four Tetらしいカラフルでメランコリックでソフィスティケイトされたエレクトロニカは、さらに穏やかで瞑想的。EDMの歌姫エリー・ゴールディングのボーカルをチョップして声ネタとしてループさせたり、どことなく東洋的なニュアンスのあるトライバルでエキゾティックな曲があったりアイデアも豊富ですが、後半にいくに従ってチルアウト色が強くなり、メロウな色が濃くなっていくあたりが聞き物。繊細で透明感のある、美しい、というよりは優しいトラックが並びます。間違いなくFour Tetの代表作になるはず。
豪州メルボルン出身で現在はベルリンを拠点とするトルネード・ウォレスの新作『Midnight Mania』(Optimo Music)。コズミックでサイケデリックでヒプノティックなトライバルハウスに、90年代レイヴやトランスの要素を加えたハイブリッドなエレクトロを構築しています。いかにもダンスフロア向けのオルタナティヴディスコで、夜遊びが恋しくなることは必至。
シカゴのDJ/プロデューサーであるJamie 3:26ことジェイミー・ワトソンが、シカゴハウスの名曲をリエディット/リコンストラクトした作品集が『Jamie 3:26 Presents Taste of Chicago』(BBE)。BSTCの「Venus & Mars」、マイティ・サイエンスの「The Lesson」、ジャングル・ウィンツの「The Jungle」、チップEの「It's House」などの楽曲が、非常に生々しく肉体的で硬質なダンストラックに仕上がっています。シカゴのアンダーグラウンド・ハウスの不変の生命力と力強さ、官能性に改めて降参する1作。