5thシングル『Over』インタビュー
内田雄馬が語る『Over』とアーティストとして大切にする思い「たくさんの人に挑戦を続ける姿をお届けできたら」
声優・歌手として活躍する内田雄馬が、5枚目となるシングル『Over』を2月19日にリリースした。TVアニメ『あひるの空』のエンディングテーマに起用された表題曲「Over」は、アニメの世界観を表すようなロックを基調とした楽曲。「ロックはアーティスト・内田雄馬にとって挑戦の一つ」と語る彼に、本作で挑んだこと、内田雄馬がアーティストとして大切にしている思いなどについて聞いた。(編集部)
アーティスト・内田雄馬のテーマは、挑戦を続けること
ーー「Over」は『あひるの空』エンディングテーマとしてもオンエア中です。内田さんのシングル表題曲としてはロック色の強い、新境地と呼べる楽曲になりましたね。
内田雄馬(以下、内田):『あひるの空』はロックとの親和性が高い作品なので、その世界観を表現すべく今回は僕もロックで挑みました。『あひるの空』のためのロックと、アーティスト・内田雄馬として表現したいものを乗せた楽曲にできればと思っていたのですが、そのどちらも込められていて、バランスがよかったのが「Over」だったんです。自分としても非常にビビッときた出会いでした。
ーー内田さんは、シングル曲にこういったロックな楽曲を歌うビジョンはありましたか?
内田:アーティスト・内田雄馬のテーマは、挑戦を続けることなんです。今までロックというジャンルにあまり馴染みがなかったのですが、アーティストデビューするにあたって「どういう音楽をやっていこう?」と話し合う中で、プロデューサーさんがロックを聴かせてほしいと言ってくださって。もともと僕がEDMやR&Bといったサウンドが好きだったので、それとロックを掛け合わせた音楽を作ろうという方向性でスタートしました。だからロックはアーティスト・内田雄馬にとって挑戦の一つとしてあって、今回、5枚目という区切りのいいタイミングで改めて挑戦してみようと思ったんです。挑戦を続ける内田雄馬のスタンスと、挫折を経験しながらも自分達の好きなバスケットボールに向かっていく『あひるの空』のテーマ性が合致した楽曲になったと感じています。
ーー例えば、3枚目のシングル曲「Speechless」は優しく包み込むような歌い方ですが、今回の「Over」は力強いボーカルが印象的で、時には張り上げるような歌い方にも挑戦していますよね。
内田:そうですね。今回の楽曲は、レンジがいつもより上なので、そういった意味でもかなり挑戦でした。もともといただいていたデモからキーを下げようという話もあったのですが、このぐらいのギリギリのラインを歌うことによって新たな挑戦ができると思い、このレンジの中で表現すると決めました。本当に息つく場所がなかったり、かなり息切れを起こしながら収録させていただいたんですが、その分限界ギリギリまで攻めた表現ができたんじゃないかと思います。
ーー今までに比べると大変なレコーディングだったんですね。
内田:普段は後ろに音を抜いたり、柔らかく音を響かせてリリースするという歌い方が多いのですが、「Over」は後ろから響いて空間を広く歌うというよりは、よりギュッと音の圧を集約して真っ直ぐ届けるようなイメージで歌っていて。それが力強く我武者羅に前に突き進んでいる感じに繋がったらいいなと思っていたので、いつも使わない音圧感を作るのに苦労しました。声優の仕事では、息のコントロールや響かせる場所の変化で人間の呼吸感を変えるということをやっているのですが、歌でもそういった表現を取り入れたいと思っています。今回はキーが高いため形にこだわり過ぎると声が出なくなってしまうので、その上手い塩梅を探しながら、ちょうど歌いきれる場所を探っていくのが大変でしたね。でも、いつもの自分とは違うアプローチは楽しかったです。
ーー内田さんは『アイドルマスター SideM』や『うたの☆プリンスさまっ♪』、『KING OF PRISM』シリーズなど、様々なキャラクターソングを歌われていますが、そのような楽曲とアーティスト・内田雄馬として歌うのはどのように違いますか?
内田:アプローチの形が違いますね。キャラクターソングは、内田雄馬という枠の中からどの部分がそのキャラクターに近いかを探って、その中で枠組みを決めて表現していくんです。例えば、声質や音域、さらにそのキャラクターがどれぐらい声が出る子か、ビブラートをかけようかなど、僕の場合はそういった表現の幅を持たせています。キャラクターの声質にはある程度レンジを決めるのですが、声質をこだわるというよりは、そのキャラクターがどういう歌い方をするかを考えて、最終的にキャラクター性に沿って歌うのがキャラクターソングだと思っています。そして、その枠組みを取っ払って歌えるアーティスト・内田雄馬としては、歌い方の選択肢は無限にあるんです。それぞれのキャラクターソングで培ってきたものを全部繋ぎあわせて、新しい表現に繋げていきたいと思っています。キャラクターソングでは、技術的にも細かいことを意識していて。ブレスコントロールや息をどれぐらい入れるのか、抜くのか、響く場所は胸にするか、それとも頭の方にするか、ということでもかなり違いますし、そのアプローチの仕方が各々のキャラクターソングで変わってきます。さらにロックを歌う時もあれば、ダンスミュージック、童謡唱歌もありますし、いろいろな歌を歌わせていただくことによって、様々なパターンを組み合わせることが可能になりました。
ーーなるほど。
内田:その上で、アーティスト・内田雄馬としては、いただいた楽曲が一番映える歌い方を模索して歌うんです。一つ芯としてある伝えたいことに対して、どういったアプローチをするのかを大事にしています。表現方法、歌い方はどんな形でもありだと思っていて、少なくともキャラクターソングでやってきた様々な表現は、どれを使っても内田雄馬になる。その選択ができるのは、今までキャラクターソングを歌わせていただいてきた経験のおかげだと思います。僕の中で根付いた歌い方もありますが、それだけだともったいないなと考えていて。伝えたいことは変えずに、表現は楽曲に合わせていろいろな形を試していくのが、アーティスト・内田雄馬らしいかなと思っています。
ーー「Over」は力強いメッセージを放つ楽曲ですけど、『あひるの空』という作品を通すとより歌詞とシーンが重なっていきますよね。
内田:楽曲を制作していただいたSHOWさんはTVアニメ『この音とまれ!』第2クールエンディングテーマだった4thシングル「Rainbow」も作ってくださった方で、今回も『あひるの空』の世界観を理解しながら、内田雄馬の音楽とリンクするような歌詞を書いていただきました。1stシングル「NEW WORLD」からお世話になっている方で、本当によく分かっていただいているなと嬉しい気持ちです。
ーー特に内田雄馬の音楽とリンクするような歌詞は?
内田:〈君がいればどこまでだって行けるさ〉ですね。僕のアーティスト活動は、チーム内田雄馬として表現したものを受け取ってくださるみなさんがいて、そのみなさんから僕らが挑戦し続けるエネルギーをもらっているからできるというのが前提としてあるんです。実際に僕らの思いを受け取って「新しいことに挑戦できました」とか、「海外に仕事に行くことになりました」と言ってくださる方もいらっしゃって。みなさんからそういったエネルギーをもらえたからこそ、次の新しいことに挑戦しようという力が芽生えてくるんです。音楽っていくら発信しても、聴いてくれる人がいないと完成しない、聴いてくださった方の中で楽曲が入り込んで完成するものだと思っています。その完成した思いを僕らに届けてくださっていて、そういうみなさんとの相互関係で今まで頑張ってこられたと思うんです。これは『あひるの空』にも通ずる部分で、才能がないと挫折して諦めてしまった人達がバスケが好きでもう一回挑戦したいと立ち上がる物語は、観てくださる人達にも挑戦するエネルギーを届ける。受け取った、響いた人がまた別の人に返していくことで頑張っていけるという形が、この「Over」の歌詞の中では描かれていると思います。
ーー歌詞がぴったりリンクしているんですね。
内田:アーティスト・内田雄馬が頑張ろうとしている人の光になったらいいなという思いがあるので、内田雄馬はどんな時だってチャレンジをし続けるという提示をしたいと思っているんです。ゴールがどこにあるか分からないけれど、諦めずに最後までやり続けてみれば、きっとチャレンジしてよかったなと思えるところにたどり着くはず。そこに行く姿を見て、自分もチャレンジしてみようと一歩踏み出してくださる人がいたらいいなと思っているので、この楽曲にはそんな思いが込められています。
ーーMVもバックバンドを従えたロックテイストの映像になりました。
内田:バンドのみなさんと一緒に撮るというのと、雨を降らすという2つのテーマが初めてのチャレンジでした。今までのMVではダンスを取り入れることが多かったのですが、それを一切なくしてロックの歌を届けるということで、YouTubeでいろんなロックバンドを観て研究しましたね。マイクのコードをロープみたいにしてみたり、マイクスタンドを蹴り倒してみたり、予定になかったことにチャレンジしました(笑)。
ーーサビの〈Oh oh oh oh oh〉の歌詞では、オーディエンスにマイクを預けるようなパフォーマンスをしています。
内田:その部分はみなさんでぜひ歌ってほしいという気持ちを込めています。そこに関しては、自分が歌ったカットは一回もないかもしれません(笑)。今までもみんなで歌えるアンセムと呼べるような楽曲を作っているのですが、この楽曲でもMVを見ながら一緒に歌いたいという気持ちになっていただけたらいいですね。
ーーライブの定番のパートになりそうですね。
内田:ライブでもここはぜひ歌ってほしいですね。かなりキーが高いんですけど……(笑)。女子はちょうどいいかもしれないですが、男子は全力で限界を超えて“Over”してほしいです。