CYNHN、新体制初シングル『水生』での決意 結成3年を経た心境の変化も明かす
CYNHN(スウィーニー)が自分たちの存在を賭けて歌うとき、青い光を放つ。2020年3月18日にリリースされる7枚目のシングル『水生』では、彼女たちが“ヴォーカルユニット”と名乗りはじめた2018年の傑作シングル『はりぼて』と同等、あるいはそれ以上の青い輝きを放っている。メインソングライターである渡辺翔が現在のCYNHNに書きおろしたのは、これまでにないほど激しく狂おしい「水生」だった。今回、これまでのCYNHNと異なることがひとつだけある。2019年12月31日をもって、メンバーの桜坂真愛が卒業したのだ。5人となったCYNHNは、「水生」に、そして2020年3月8日の恵比寿LIQUIDROOMからスタートする全国ツアーにどう臨むのだろうか。(宗像明将)
やっとグループ全員で同じ方向を向ける
ーー「水生」の音源を聴いて、すぐにディレクターさんに「めちゃくちゃいい」って連絡してしまったんですよ。
崎乃奏音(以下、崎乃):おおー(拍手)。「『水生』、一番いい! 大優勝!(拍手)」みたいなのがメンバーの中で一致した意見なんですよ。
ーー歌詞は、青い世界の中で息苦しい、でもここでしか生きられない……というような内容じゃないですか。みなさんが好きな歌詞はどこでしょうか?
百瀬怜(以下、百瀬):奏音ちゃんのソロパートで、〈泳げないならここを埋め尽くすくらい広がればいい/大きな絨毯になって君のことを運べるくらいにね〉っていうところがあるんですけど、そこがすごく好きです。包容力のある歌い方をしてくれていて、肯定されている気持ちになるので。
綾瀬志希(以下、綾瀬):私も落ちこんでるとき、そこのフレーズが思い浮かぶの! 私が最初に聴いたときに残ったのが、〈君から教わる言葉は毒みたいだった〉と、〈『もしも』深いとこで泡を吐いた〉と、〈大人に変われば必ず優雅になってると/疑い向けずにずっと待っていた〉っていうところです。(取材している会議室に響き渡る大声で)「……それっ!!」って感じ。
青柳透(以下、青柳):〈青の世界にいたら青には気付けない〉のところは、“そこにいたら自分では客観視できない”みたいな意味に感じました。アイドルも、グループにいたら、そのグループに染まっていって、そういう顔つきになるじゃないですか。外側から見ないと気づけない世界があるなと思いました。
月雲ねる(以下、月雲):うーん……サビの〈漂う『もしも』〉のところ……。「もしも」を言えないけど、言うんだったら……でもやっぱり言うのも違う、みたいな。あと、〈いっそ溺れたほうがまだいいや〉のところが、自分と似てる気がします。 この主人公の“言えないままでいいや”みたいな気持ちに共感したので、ここです。
崎乃:この曲は水中でもがき苦しんでいるような歌詞が多いと思うんです。CYNHNは、一般社会ではあんまり上手に生きられないような人々が集まってしまったので、重なる部分だと思ってて。〈この先で滲んでいる朝焼けへ〉っていう歌詞に、これからのCYNHNを重ねて、明るさを目指していきたいと思いますね。
ーー内容的にヘヴィな歌詞じゃないですか。なんでこのタイミングでこの歌詞が来たと思いますか?
綾瀬:〈もう君は行ってしまったのに綺麗だった〉って歌詞が好きなんです。めちゃめちゃ重いなっていうか、どう歌っていいのかわからない。
ーー桜坂真愛さんを思い浮かべたんですね。桜坂さんが休養を経て卒業をして、CYNHNが5人になってみて、思うところはあるでしょうか?
全員:……。
青柳:真愛ちゃんはすごくピッチが正しくて、透けるような声質だったから、ひとりいないだけでバランスが違うんです。だから「水生」は、自分のソロのところでは、天からパトラッシュが来たみたいな……。
ーー天から迎えが来るんですか?
青柳:いや、そういうわけじゃないですけど(笑)。天から舞い降りし雪みたいな、柔らかいイメージで歌っています。強めの声の人が増えすぎちゃうと(ユニットのバランスが)変だなって思って。
月雲:うーん……去年の11月のツアーもこの5人でやってたから、2020年になって自分的にはそんなに急に変わったところはないです。
百瀬:たまに切ない気持ちになるときがあります、6人だったときをふと思いだして。でも、自分たちがいつまでもそこに立ち止まらずに、変えていけたらいいなって思うんですけど、なんか難しいですね(笑)。2020年になったから「はい! 切り替えて!」みたいにはならないというか……。
青柳:いないって実感するよね……。
綾瀬:この曲をいただいたときは、正直すごく考えて。「これ真愛ちゃんのことだろうな」って、レコーディングの直前まで全然聴けずにいたんですよ……。どんな気持ちで歌えばいいのかなって。でも、やっと進んでいけるかもって気持ちになりましたあ!(急に元気な言い方になる)
崎乃:去年の夏に、まず最初に綾ちゃんが活動休止して5人になって、綾ちゃんが戻ってきて一瞬6人になったけど、次は真愛が活動休止して5人になってっていう、不安定な時期が続いて。ずっと残されていた身としては、やっとグループの全員で同じ方向を向けるのかなっていう気持ちもあります。CYNHNはエモさや勢いが魅力のひとつではあるんですけど、勢いがあるメンバーだけだったら“ヴォーカルユニット”として成り立たないんですよね。一人ひとりがグループのバランスを見て歌い方を変えなきゃいけないと思って。真愛は柔らかい声質で、でも少年みたいに中性的な声だったので、私はそれと対に歌うようにしてたんです。真愛の声が抜けてからは、私は柔らかめに歌うようにしていて、声をちょっと大人っぽくして、歌い方も耳障りのいいように変えたり。グループをピッチで引っ張らないといけないと思ったので、ボーカルトレーニングに通ったりして。それは2020年になったからじゃなくて、活動休止が続いた不安定な時期の中で私が考えて、グループを支えなきゃって思って取った行動です。
ーー「水生」は、百瀬さんがメインボーカルだった2019年の「wire」を超えるぐらい激しいじゃないですか。ベースもすごく鳴り響いているし。
青柳:(ベースを弾く真似をする)
ーー歌うなかで難しかったり、意識したりした部分はありますか?
百瀬:全部難しかったです……。あまりにもできなさすぎて、レコーディングが終わってから大泣きして、崎乃奏音に電話をかけるっていう(笑)。
崎乃:私が電話に出た瞬間「奏音ちゃ〜ん!」みたいな感じで(笑)。「次からはレコーディングの前に一緒に練習しようね」って言って、百ちゃんが「うん〜、ありがとう〜」って。
全員:あはは!
ーーいい話ですね。月雲さんはいかがでした?
月雲:サビの最後のパートを歌うんですけど、なんか締まりが悪い感じになってそうで……。
ーー本人的には意外な歌割りでしたか?
月雲:はい……。
崎乃:いや、私はここはねるちゃんだと思いましたよ。私は、「この子はこういう声でこう歌うだろうから、私はこういう風に歌ってグループのバランスを取ろう」と考えて、今回は聖母マリアを意識して(笑)。
ーーパトラッシュに続いて聖母マリア(笑)。
崎乃:〈泳げないならここを埋め尽くすくらい広がればいい/大きな絨毯になって君のことを運べるくらいにね〉っていうところは、もう聖母マリアとなって、みんなを包みこむような寛大な心で歌おうと意識しましたね。1番のサビで綾ちゃんが〈もう君は行ってしまったのに綺麗だった〉って歌っていて、ラスサビの同じ歌詞は私が歌ってるんです。「綾ちゃんはこう歌うだろうから、私は違うアプローチをできるようにしよう」って、表現の仕方を考えたのも楽しかったですね。
綾瀬:水みたいに跳ねるようなリズムを崩さずに、グルーヴ感を保ちながら歌うように気をつけました。あと、あまり真愛ちゃんのことを考えすぎないようにしてたんですけど、レコーディングのときに「もっといいんですよ! 引きだしてください、綾瀬さんの魅力!」みたいなことを言われたときに「これは考えるしかない」と思って、真愛ちゃんのこと考えて歌いました。
ーー振りきったわけですね。
綾瀬:そうですね。CYNHNの曲って、それぞれに物語があるので「この歌詞をどういう風に歌ったら伝わるだろう」と毎回考えて歌うんですけど、どこに気持ちを置いたら伝わるか考えて、表現の幅を増やせるように自分らしく歌いました。
全員:(拍手が起こる)
綾瀬:いぇいいぇい!
ーーそれ、そのまま文字にしますからね(笑)。青柳さんはいかがでしたか?
青柳:ここまで活動してきて、初めて落ちサビの担当をもらったんですよ。ファンも喜んでました(笑)。
ーー3年やってきてついに。
青柳:そう! 「ついに来たか、俺の番が!」みたいな。この曲は「はりぼて」を超える代表曲になってほしいぐらいに一番好きですね。だから、そんな曲で初めて落ちサビを歌えるのがとっても嬉しいです。