メジャー1stシングル『モノノケ・イン・ザ・フィクション』インタビュー
嘘とカメレオン 渡辺壮亮&チャム(.△)が語る、タイアップへのアプローチとバンドの核「必ず先に光があると信じる力はすごく強い」
昨年12月にアプリゲーム『BLEACH Brave Souls』のオープニングテーマとして書き下ろしたデジタルシングル「0」をリリース後、立て続けにメジャー1stシングル『モノノケ・イン・ザ・フィクション』をリリースした嘘とカメレオン。今回の表題曲はテレビアニメ『虚構推理』のオープニングテーマとして書き下ろされたもので、2連続でのタイアップ作品となる。
両曲ともじつに面白い曲に仕上がっている。そのバンド名そのままに、それぞれあまのじゃくにして変幻自在なサウンドで、そこからボーカル・チャムのピュアな想いがまっすぐに突き抜けてくる曲だ。とくに、クセの強いフレーズの応酬が魑魅魍魎感を生み出す「モノノケ・イン・ザ・フィクション」のなかで、〈誰かより不器用でもね/私には私なりの輝き 見つけたら/光に任せて〉と語りかけるように歌い上げるパートは、チャムの等身大の思いであり、また高い熱量で自分たちの音楽を信じて奏でる嘘カメの姿とも重なる。
彼らのタイアップ曲へのアプローチについて、また曲作りについて、曲とアレンジを手がける渡辺壮亮(Gt)とチャム(.△)(Vo)に話を聞いた。(吉羽さおり)
毎秒毎秒、世界と戦ってる感覚がある(チャム(.△))
ーー昨年12月の「0」、そして今年1月のシングル曲「モノノケ・イン・ザ・フィクション」と、タイアップ曲が続きましたね。いずれも書き下ろし曲ということですが、それぞれどのようにアプローチしていったのでしょうか。
渡辺壮亮(以下、渡辺):このふたつの作品のお話が、ほぼ同時期にきたんです。お互いの作品の世界観を掘り下げていかないと差異が出てこなくなってしまうので、そこは気をつけながら作りましたね。「0」に関しては、ゲームのディレクターさん自身が僕らのことを好きでいてくれたので、「嘘カメ流に好きにやっていただいて結構です」というありがたいお話でした。僕がひとりの人間として、その作品を味わうためにどういうかっこいい曲がほしいかに気をつけて。バトルの最中というよりも、バトルがはじまる瞬間、その舞に入った瞬間のかっこよさや刹那感が出たらいいなと思って作っていましたね。
ーー「0」は緊迫感のある、突き抜けるような曲になりましたね。チャムさんは作品とどんなふうに向き合って歌詞を書いているんでしょうか。
チャム(.△)(以下、チャム):私が歌詞で描いているのは、どういう気持ちで戦っていたんだろうというところですね。登場人物である黒崎一護がなくしたものを取り戻す、死神の力を取り戻したところを描いていたんですけど。なくしたものを取り戻す際の、ひとりの人間としての必死な感じとか、何かを守るために戦っている姿を描けたらいいなと思って。
ーーチャムさん自身としては、何か重なる部分はありますか。自分はどういうものに対して戦っていると感じていますか。
チャム:その戦うという感覚は、ずーっとあるんです。毎秒毎秒、世界と戦ってる感覚があって。自分がいまいち世界と調和していない感覚になることってあるじゃないですか。なんとなく居心地が悪かったりとか。そういうときも自分としては戦っているような気持ちになるし、もちろん制作面でも自分自身と戦って生み出すということにもなるし。そういう自分のなかのいろんな戦いを表現しています。
ーー何か違和感やズレを感じている、そこと戦っているというのは以前からですか。
チャム:“既成概念を壊したい”という歌詞は、これまでもよく書いてきたんですけど、そもそも既成概念のようなものが、自分のなかにまったくないんです。これが普通だっていうのがなくて。人を何かしらの枠に収めたいと思ったことがないから、自分がそこに当てはめられそうになるとすごく反発したくなるんですよね。だからこそ多分、音楽に行き着いたと思うんです。そのありのままの自分でいいんだっていう場所を許されているのが、バンドだったりとか、表現することだと思うので。
ーー怒りも違和感も、音楽でならば素直に表現できると言っても、嘘カメの曲はガチガチにアングリーな音にはならないのも面白いところですね。
渡辺:そこはニヒル感を持っておきたいというか。クールに決めたい日もあるじゃん? っていうね。そこは逆に人間臭いところかもしれないですね。
チャム:歌詞で尖ってることを言ってるのに、曲はキラキラなときとかもあるもんね。それが、嘘カメらしさのひとつでもあって。
渡辺:そういうあまのじゃくなところはありますね。ムカついているときほど、きれいな曲だったりするとか。
ーーシャープな「0」に対して、次の「モノノケ・イン・ザ・フィクション」は一筋縄でいかないアンサンブルが楽しめる曲です。これこそ、嘘カメのひねくれたところ、あまのじゃくさを全開で出した曲ですね。
渡辺:そうですね。これはもともと『虚構推理』というアニメ作品がひねくれたもので。ヘヴィな内容に反して、意表をつくタイミングでロマンスやギャグをひょいと入れてくるような小憎さが、僕はこの作品のいいところだなと思ったので。そういう小憎さはもともと僕らも持ち合わせているものというか。ちょっとあまのじゃくな部分が共鳴しあったのか、そういう要素が今までのなかでもすごく強い曲になったなと、自分では思っています。
ーーひねくれた部分があるということでは、泥臭さみたいなものっていうのはあまり表に見せなくないですか。
渡辺:泥臭くはやってるつもりなんですけどね。
チャム:どうしてもニヒルフィルターみたいなものがあるよね。
渡辺:俺、ニヒルフィルターがあるんだ(笑)。まあでも、俺は元来いろんな音楽が好きなので。入口がジャパンフュージョンだったり、80年代の彩りのあった時代の音楽を聴いてきたので。アプローチとしては、バラエティ豊かなのが僕の好みというか。
ーーちょっと洒落たこと、洒落たフレーズを差し込みたくなってしまうような。
渡辺:地盤がそれだったので、自分では洒落たものとは思ってはいないし、お洒落なつもりで書いてないんですよね(笑)。自分のなかではテンションコードとかも泥臭さを感じながら弾いてることが多いので。そのへんの受け取り方が人それぞれで、面白いところかなと思いますね。
ーーチャムさんはこの曲はどうアプローチしましたか。
チャム:私が『虚構推理』という作品でいちばんグッときたのが、主人公がひたむきなところだったんです。そこをよりサビで描けたらいいなと、主人公の気持ちになって書いていますね。この作品の主人公が本当に不器用なんですよ、私も言葉で自分の気持ちとかを説明するのが苦手なのでーー。
渡辺:へたっぴちゃんだよね。
チャム:そういう自分とすごく重なってきて。作品や主人公のことを書いているつもりが、いつの間にか自分が言いたいことを言っていましたね。それがいちばん、作品に寄り添っているし、嘘カメ節も全開になったのかなと思ってます。
ーー歌や言葉にすることで、改めて自分が浮き彫りになるものだなっていう。
チャム:そうです。例えば初めて人の優しさに触れたときや、好きなものが新しく見つかったときって、信頼できるものがもうひとつできたような気持ちになるじゃないですか。その心が溶けていく瞬間のような、その刹那を歌詞にできたらと思って。忘れかけていたものがフラッシュバックする感覚になる曲になって、すごく気に入ってます。
ーー今回のようにタイアップの話も増えていると思いますが、嬉しさがある反面、難しさというのもあるんですか。
渡辺:難しいし、普通に曲を作るよりも、手間が増えることもあるとは思うんですけど。
チャム:でも段々と、そのなかで面白さが出てきて。
渡辺:単に、良いか悪いかで大別するのはよくないかなと思っていて。タイアップというと、今回は何も言われなかったんですけど、いろんなオーダーが入ることがあるんです。で、いろんなオーダーを踏まえて困窮しまくった末に出てきたパンチが、逆に面白い! っていうミラクルが起きやすいのがタイアップでもあるので。そこをどれだけ楽しめるか、苦しみながらも楽しめるかをつねに意識しながら作っていますね。
ーー言葉の書き手としてはどうですか。
チャム:私は毎回、楽しいっていう感じです。作品ありきということで、ある種の不自由な感じもあると思うんですけど。自分がキャンバスと画材だけ渡されて、これで自由にやってと言われているような感じというか。自由なところが見えてくるようになったので。『虚構推理』だったら『虚構推理』の世界観に寄り添ってリスペクトをしているなら、自分たちをどれだけ出してもいいんだっていう考え方になりましたね。それで、のびのび描いてます。
ーーちなみに、制限や課題がある曲作りの反動でではないですが、どんどん別の曲ができるみたいなことってあるんですか。
渡辺:確かに。いろいろ考えてうわーってなって、好きな曲書く! って言って、アルバムとかカップリングに入れるような面白い曲がポロポロって出てきたりもするので。後々振り返るといいことばかりなのかもしれない。当事者としてはつらいですけどね。今回は好きにやらせてもらったので、逆にストレスフリーでできたかなと思います。