MISIA、気高いボーカルの根源とは 初期楽曲アレンジや堂本剛らとのコラボから紐解く“SOUL JAZZ”ベスト盤

『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』レビュー

 歌が上手い日本人アーティストと聞いて、あなたは真っ先に誰を思い浮かべるだろうか。筆者は断然、MISIA。彼女が表舞台に登場した1998年からおよそ22年間、その印象は揺らぐことを知らず、いつの日もナンバー1であり続ける。非凡すぎる歌唱力については言わずもがな、2019年末の『第70回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)でのパフォーマンスが大きな反響を呼んだように、ステージに生きるエンターテイナーとしての姿にも心を奪われるばかりだ。そして何より、R&Bやヒップホップといったクラブミュージックのカルチャーを、持ち前のポピュラリティを駆使して推進し続けてきた功績はあまりにも大きい。

 そんなMISIAが昨今、もっぱら熱を上げているのが“SOUL JAZZ”である。発端は2016年、日本人で初めて米<ブルーノート・レコード>と契約した経歴を持つジャズトランペット奏者、黒田卓也とのセッションだった。一日限りのライブではあったが、黒田をはじめ名だたるジャズミュージシャンらと取り組んだそれに、MISIAは強い感銘を受けたという。以後、『MISIA SUMMER SOUL JAZZ 2017』と銘打った全国ツアーを開催するなど、デビュー20周年の節目となる2018年を前に、MISIAはみるみるSOUL JAZZの世界へと没頭していくこととなった。

 MISIAとジャズの組み合わせを意外に感じる人もいるかもしれないが、その共通点は我々リスナーが思っている以上に多い。R&Bやソウルミュージックと同様に、ジャズもまたセンセーショナルなアイデアを原動力に時代を繋いできた音楽ジャンルだし、MISIAが敬愛するエリカ・バドゥらの活躍によって一世を風靡したネオソウルは、R&B、ヒップホップ、ジャズのハイブリッドとして誕生した背景がある。また、MISIAが惚れ込んだ黒田のアレンジにしても、スタンダードなジャズの流儀だけでなく、ブラックミュージックを含む多種多様なジャンルの要素がミックスされており、あらゆる音楽を吸収してきたMISIAとも難なくシンクロする。彼女がSOUL JAZZに行き着いたのは、本当にごくごく自然な流れなのだ。

 では、具体的にMISIAはSOUL JAZZとどのように向き合っているのか、その答えは、リリースされたばかりの最新アルバム『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』を聴けばおのずと見えてくる。黒田がアレンジプロデュースを担い、ニューヨークを代表するジャズプレイヤーが多数参加した本作は、既存楽曲のセルフカバーのほか、新曲も収録。シリーズ前作『MISIA SOUL JAZZ SESSION』の収録曲もあらためて提示し、文字通りベストなラインナップとなった。

 まず注目すべきは、錚々たる参加アーティストだろう。天才ベーシストとしてその名を世界に轟かせるマーカス・ミラーは、「オルフェンズの涙」でブルージーなスラップを披露。琴線に触れる素晴らしい演奏である。ブラジリアンなムード一色の「来るぞスリリング」では、自身もスモーキーな美声を持つラウル・ミドンが軽やかにギターをかき鳴らす。「CASSA LATTE」など他の楽曲にも言えることだが、SOUL JAZZの世界観で表現されるアップナンバーは例外なく溌剌としており、MISIAとミュージシャンたちの上がりきったボルテージに元気をもらうこと請け合いだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる