糸井重里が語る、木村拓哉の魅力と『Go with the Flow』 「木村くんは人が集まる“場”が作れる」

糸井重里が語る、木村拓哉の魅力

 木村拓哉が、1月8日にアルバム『Go With the Flow』をリリースした。木村のアーティスト活動始動となる今作は、自身のラジオ番組『木村拓哉 Flow』(TOKYO FMほかJFN系全国38局ネット)でのアーティストとの交流がきっかけとなり制作。同ラジオ最初のアーティストゲストとなった稲葉浩志をはじめ、川上洋平([ALEXANDROS])、LOVE PSYCHEDELICO、森山直太朗といった番組に登場したアーティストからの提供曲、それ以外にも槇原敬之、水野良樹(いきものがかり、HIROBA)、Uru、小山田圭吾(コーネリアス)らが参加、ラストには親交のあった忌野清志郎から生前に贈られた楽曲「弱い僕だから」が収録されている。

 そのリリースに際し、今回リアルサウンドでは、木村拓哉と20年来の交流のある糸井重里にインタビュー。木村拓哉との出会いから交友のエピソード、『Go With the Flow』について語ってもらった。本作からも感じるという木村拓哉ならではの親しみやすさや距離感、アーティスト活動で期待することなど、糸井重里が考える木村拓哉の魅力について話を聞くことができた。(編集部)

今も昔も、彼のほうが僕より数段も大人

ーー糸井さんは、昨年(2019年)7月、木村さんのレギュラーラジオ番組『木村拓哉  Flow』にマンスリーゲスト(7月7日、14日、21日、28日放送回)として出演されていました。その際にも話題に上がりましたが、あらためて木村さんとの出会いについてお話しいただけますか?

糸井重里(以下、糸井):当時、「いつか会えるといいな」と思っていたんです。と、いうのも、娘に、「もし会えたらサインをもらってあげる」と約束をしてしまっていたんです。

――番組で糸井さんは、多感な年頃だった娘さんに、「パパは君の応援団なんだよ」という気持ちを伝えたかったんだとお話しされていましたね。

糸井:そう。それで、一応やれるだけのことはやろうと、早朝にやっていた『ウゴウゴルーガ』いう生放送に出演した際、「このテレビを見ている人で、木村くんと親しい人いませんか?」と呼びかけてみたんです(笑)。そうしたら、たまたまその晩、『平成教育委員会』という番組に出たら、木村くんがいてね。収録中に話してみると、とてもいい感じの青年だった。そこでもらったサインを囮にして、スキー合宿で熱を出してしまった娘を迎えに行って「もう家に帰ろうね」と説得しました(笑)。

――その出会いから交流が始まったのですか?

糸井:たしか初対面の時に連絡先を交換して、その後、彼が僕の事務所に遊びに来るようになったんです。言うまでもなく彼は当時も、ものすごく忙しかったんだけど、夜、よくぶらっと顔を出してくれて。そこから、二人でいろいろなところへ釣りに行くようになりました。彼は子どもの頃から釣りをしていたようで、僕は「いつか始めたい」と思っていたので、良いタイミングの出会いでした。

――糸井さんは40代後半、木村さんは20代中盤でした。当時の木村さんへの印象は?

糸井:彼、とても行動的じゃないですか。おまけに当時からしっかりしていたし、ちゃんと人の世話を焼いてくれた。年下なのに、いつも引っ張ってくれるような頼もしさがありましたね。僕は当時、ちょっとあらゆることが面倒くさくなり始めていた頃だったんですが、彼を見ていて、「ああ、引きこもっちゃいけないな」と教えられた思いでした。

――その後、ややブランクがあって、番組出演時が約20年ぶりに交わされた長い会話だったそうですが、久々にお話しした木村さんの印象は?

糸井:話し始めてすぐ、スッと昔の距離に戻れました。「あの頃の俺じゃねえし」みたいな顔を全くしない。そこが彼の偉いところですね。僕は全く進歩していないですが(笑)、気の配り方も、昔よりさらに細かくなっていた気がします。今も昔も、彼のほうが僕より数段も大人なんですよ。

――さて、『Go with the Flow』、いかがでしたか?

糸井:大成功なんじゃないかな。僕は、そもそも“ソロアーティスト・木村拓哉”というのは、ものすごいハンディキャップを背負った歌手だと思っていたんです。

――ハンディキャップ、ですか?

糸井:彼はとても器用で、ラジオ、テレビドラマ、バラエティ、映画と、その気になれば何処ででも活躍できてしまう。言わば全方位型のアスリートです。でもね、それは木村拓哉の長所であり、不幸でもあると思うんです。例えばオリンピックだと、100メートルを10秒切って走る人は有名だけど、近代五種のエキスパートって、あまり知られていませんよね。どの競技でもトータルでハイレベルな成績を叩き出せる人は、どこか冷静な目で見られがちじゃないですか。

――確かにそうかもしれませんね。

糸井:彼は音楽でもどんなタイプの歌だって歌えてしまう。そんな全方位型のアスリートがいよいよ待望の独り立ちを果たすわけです。プレッシャーが大き過ぎて、もし歌う歌に迷っているようなことがあったら可哀想だなあと、アルバムを聴く前、ちょっと心配していたんですよ。普通は気張りたいし、気張りたくなっちゃうものじゃないですか。

――でも、そんな心配は杞憂だった?

糸井:そう。きっと全方位型のアスリートだからこそ、いわゆる“私家版”といった、プライベートな匂いのするアルバムを作りたかったのかなって。「聴いてください」と言うよりも、彼が自分のスタジオで開いたパーティーか何かにみんなが招かれていて、「こんなの歌ってみたんだけど、どう?」と歌っている感じがしました。「ここ、ちょっと狭いけどさ、歌を気に入ってくれたらうれしいし、もしそうじゃなかったら、お酒でも飲んでくつろいでいってよ」、「とりあえずお気に入りの歌を歌ってみるから、後で気に入った歌を教えてよ」という感じじゃないですか。彼からの“お裾分け”をみんなで共有しているような、親しみやすい距離感ですよね。いい正解だったと思います。このアルバムの木村くんは全く気張っていない。これは彼が長年かかって磨き上げた人間性の賜物だと思います。

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