糸井重里が語る、木村拓哉の魅力と『Go with the Flow』 「木村くんは人が集まる“場”が作れる」

糸井重里が語る、木村拓哉の魅力

リスナーとの“近さ”を自在に演出出来る

ーー今回のアルバムは、木村さんのレギュラーラジオ番組『木村拓哉 Flow』を起点に生まれたそうです。楽曲提供の作家陣にも、ラジオ番組にゲスト出演された稲葉浩志さんなど、近年、木村さんと親交があった方々が含まれています。

糸井:まさにラジオ番組が彼のプライベートなスタジオというか、秘密の小屋みたいな役割で機能しているんでしょうね。ジャケットやブックレットのビジュアルにも、それが表れていますよね。1曲目の「Flow」も、彼のスタジオの待合室にいるみたいですし。次の「One and Only」は「ようこそ」という曲ですよね。そしてすぐ、「I wanna say I love you」でアコースティックな曲に移るのはちょっと意外だった。そうかと思うと、次の槇原敬之さんの「UNIQUE」という曲はちょっと中性的で、どことなくSMAPっぽさもある。ハードなロック、ポップなナンバー、アコースティックなナンバーを自由に行き来して、さっきまで目の前のステージで歌っていたかと思うと、今度はすぐ隣で弾き語りをしてくれて。こんなにもリスナーとの“近さ”を自在に演出出来るなんて、やっぱり木村拓哉というソロシンガーはものすごい近代五種のアスリートですよ。

――その他の楽曲については、どんな印象を受けられましたか?

糸井:どの曲もいいと思いました。やっぱり木村くんはどんな曲でも上手く歌いこなせていますね。今は作詞も難しい時代です。しかも、男に歌ってもらう歌を書くのは、特に難しい。いまは昔の沢田研二の頃のようなカッコいい男を書いても、女性からそっぽをむかれそうじゃない?(笑)。僕も矢野顕子の作詞は今でも続けていますが、男が歌う歌は、もう難しくて書けないですね。そういう意味でも、今回の作家の皆さんは、本当に達者だと思います。水野良樹さんの「NEW START」は、彼としては珍しく男らしい曲でしたね。あとは「サンセットベンチ」。このものすごく“近い”距離感なんて、やっぱり木村くんのファンにとってはたまらないんじゃないかな。このアルバムの実質的なラストは、12曲目の「A Piece Of My Life」なんでしょうね。いまの木村くんが抱いている様々な思いが、この曲から読み取れるんじゃないかな。

――13曲目の「弱い僕だから(session)」は、木村さんとも親交があった忌野清志郎さんの曲です。1997年にリリースのSMAPのアルバム『SMAP 011 ス』で、木村さんのソロ曲として収録されていた曲を、新たにレコーディングしたものです。

糸井:このアルバムのなかでもちょっと特殊というか、特別な一曲ですね。そういえば清志郎を木村くんに紹介したのは僕でした。彼が何か落ち込んでいた時、清志郎の「君が僕を知ってる」(RCサクセション)を「聴いてみたら?」と勧めてね。その後、しばらくしてから木村くんと清志郎の交流が始まったんです――ここでまたハンディキャップの話になるんだけれど、ジャニーズの歌い手の声というのは、声がどこか大人になり切らないところにこそ魅力があると僕は思っていて。つまり、何歳になっても、声のどこかに、ちょっとだけ“少年っぽさ”が残っているというか。みんな声のどこかにずっと“ベイビー”を持っているんです。ところがこの“ベイビー”の要素って、今回の木村くんが迎えたような、満を辞して「よし」と動くようなタイミングにおいては、あまり有利に作用しないんです。何故なら、本来、「助けてあげたい」という声と「俺についてこい」という声は相反する種類のものだから。ソロシンガーというのは、群れの大小に関わらず、みんなの“ボス”じゃないと成立し辛いものです。

――なるほど。

糸井:でも、そんな矛盾する二つの要素が声のなかで見事に同居している人がいた。それが忌野清志郎でした。彼は政治的な問題に言及する歌も歌っていたけれど、大きな意味ではずっと“ベイビー”で、言わば“甘える”歌を歌う生涯だった。だから、この「弱い僕だから(session)」も、木村くんの「ついてこいよ」という男らしさと“ベイビー”を見事に繋いでいる。木村くんは器用だから、今回、あえて、ちょっとだけ清志郎っぽい歌い方をしていますよね。それも含めて、この曲がアルバムの裏解説を担っているというか、洋服のジャケットやコートで言うところの“裏地”になっているんだと思います。

――これまでに忌野清志郎さん、沢田研二さん、矢沢永吉さんなど、作詞や著述などを通して様々なソロアーティストの姿を見つめてこられた糸井さんは、“ソロシンガー・木村拓哉”の今後をどう予想しますか?

糸井:ライブでの木村くんの在り方も、きっとアルバムと同様に、ホストでありゲスト(出演者)なのでしょうね。それと、群れの“ボス”になる以上は、おそらく男性のファンも重要になってくる。そのための練習は、これからのライブでしていけばいいと思います。ちょっと上手くいかなくてもいいんですよ。「今に見とけよ」で。彼、負けず嫌いじゃないですか。それこそ芸能界の荒波をここまでくぐり抜けて人気者でいられるなんて、並大抵のことではない。きっと木村くんなら大丈夫だし、もしちょっとダメだったとしても、自分で感じた手応えで上手くアジャストしていくと思います。あとはもっと自分でも歌を書いてみるといいと思うんです。上手く書けなくてもお蔵入りになっても、そこから見えてくることは絶対にあるはずです。ちゃんとした大人だし、今から矢沢永吉や忌野清志郎をお手本にする必要もない。永ちゃんは昔からケンカが強かったような人で、清志郎は、ある意味ずっと“ベイビー”で生きられた人。そんな二人より、「ついてこい」という野生と“ベイビー”の理想的な同居で言えば、むしろ最近のお手本となる存在は羽生結弦選手なのかもしれないね(笑)。 

――最後に、今後の木村さんに期待することは?

糸井:昔、僕は彼に何度か、「一度、二年ぐらい休んでみればいいのに」と話したことがありました。結局、彼は休めなかったけど、かつてそれをやって、一旦、「何でもない誰かになる」ことを実践してみたのが宇多田ヒカルさんでした。でも、今の木村くんは、テレビや映画を通して多くの人々の前に出続けながら、同時にこうしたプライベートな雰囲気のラジオやアルバムという“場”を設けて、みんなを「ようこそ」と招けるようになった。いまの彼が、とてもしっかりとした大人だからこそ実現したプランだと思います。スケールの大小に関わらず、人が集まる“場”が作れるのは、とても素晴らしい能力です。きっとこの『Go with the Flow』から、いろいろなことを始められるんじゃないかな。あとは、いつかどこかの湖のほとりにでも、彼の仲間たちが呼んでもらえるようなプライベートなスタジオを本当に作ってくれたらいいですね。ボートを置いておけば、また近くで一緒に釣りもできるしね。

■リリース情報
『Go with the Flow』
2020年1月8日(水)発売
特設サイト

初回限定盤A(CD+豪華ブックレット仕様)価格:¥6,000+税
初回限定盤B(CD+DVD)特典DVD:One and Only(Music Video)、サンセットベンチ(Music Video)、Music Video Making 価格:¥4,000+税
通常盤(CDのみ)価格:¥3,000+税

<CD収録内容>
M1:Flow
作編曲:小山田圭吾

M2:One and Only
作詞:稲葉浩志 作曲編曲:多保孝一 ブラスアレンジ:村田陽一

M3:I wanna say I love you
作詞作曲:Uru 編曲:富樫春生

M4:Unique
作詞作曲編曲:槇原敬之

M5:New Start
作詞:いしわたり淳治 作曲:水野良樹 編曲:TAKAROT

M6:Leftovers
作詞作曲:川上洋平 編曲 川上洋平、佐瀬貴志、宗像仁志
(川上洋平from[ALEXANDROS])

M7:ローリングストーン
作詞:御徒町凧 作曲:森山直太朗 編曲:小名川高弘

M8:Speaking to world
作詞:前田甘露 作曲:Fredrik “Figge” Bostrom , 佐原康太 編曲:佐原康太

M9:サンセットベンチ
作詞作曲:Uru 編曲:富樫春生

M10:Your Song
作詞作曲:川上洋平 編曲:清水俊也
(川上洋平from[ALEXANDROS])

M11:My Life
作詞作曲:KUMI, NAOKI 編曲:LOVE PSYCHEDELICO

M12:A Piece Of My Life
作詞:西田恵美 作曲:川口進, Christofer Erixon 編曲:清水俊也

M13:弱い僕だから(session)
作詞・作曲:忌野清志郎 編曲:三宅伸治

■購入者限定プレミアムイベント
応募期間:2020年1月7日(火)10:00~2020年1月12日(日)23:59まで
※応募方法の詳細は「Go with the Flow購入者限定プレミアムイベント応募カード」にて

日程:2020年2月24日(月・祝)
場所:都内某所

■ライブ情報
『TAKUYA KIMURA Live Tour 2020  Go with the Flow』

東京
2月8日(土)国立代々木競技場 第一体育館 開演時間18:00
2月9日(日)国立代々木競技場 第一体育館 開演時間17:00
追加公演
2月11日(祝・火)国立代々木競技場 第一体育館 開演時間17:00

大阪
2月19日(水)大阪城ホール 開演時間18:00
2月20日(木)大阪城ホール 開演時間18:00

チケット料金:FC¥9,500(税込)・一般¥10,000(税込)
※申し込み詳細はJohnny’s netにて

■糸井重里 関連リンク
ほぼ日刊イトイ新聞
糸井重里 Twitter

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