まねきケチャ『あるわけないの』は4年間の集大成に?ーーアルバムに秘められた5つの要素を考察

まねきケチャ『あるわけないの』レビュー

 まねきケチャが、前作『きみわずらい』から1年10カ月ぶり、新体制となってからは初となる通算2枚目のアルバム『あるわけないの』をリリースした。資料にも“5人組のアイドルグループ”と書かれており、“顔面偏差値のお化け”と称されているというハイレベルなルックスにも異論はないが、彼女たちの歌声にはアイドルらしい可愛らしさやワイワイとした元気感に加えて、“感動”も備わっている。

 アイドルはあまり聴かないけれど、正統派ガールポップは大好きだという方にも自信を持っておすすめできる。ただ全力なだけでもないし、歌唱力が高いだけでもない。この歌を絶対に届けるんだという執念にも似た思いを感じて、胸にグッとくるのだ。その“感動”の正体は、きっと、「デビュー時より完全生歌にこだわってきた」というポリシーにあるのではないかと思う。

 2015年8月に結成されたまねきケチャは、間違いなく生歌で観客の心を掴んできたグループだ。翌年の夏には日本最大級のアイドルフェス『TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)2016』への出演をかけて、「TIFメインステージ争奪LIVE」に参加。〈君の名前呼ぶたびに〉という同じフレーズを5人それぞれの表現で歌い継ぎながら感情を高め、最後は抱き合うという泣ける名曲「きみわずらい」を情感たっぷりに歌い上げ、同フェス特命大使を務めていたでんぱ組.inc(当時)の夢眠ねむに「予選、本戦ともにぶっちぎりで勝ち抜いた」と言わしめるほどの人気で優勝。同年末には「きみわずらい」がアイドルファンのインターネットによる投票で選出される『第5回 アイドル楽曲大賞2016』の「インディーズ_地方アイドル楽曲部門」で1位に輝くなど、“エモさ”でアイドルシーンを席巻した。

 完全生歌でのライブパフォーマンスという実力をもって、その存在を世間に知らしめた彼女たちは2017年にメジャーデビューを果たし、『TIF2017』では最終日のメインステージの大トリ前に抜擢され、2018年9月には女性グループ史上、メジャーデビューより3番目の速さで日本武道館単独公演『日本武道館 de まねきケチャ』を開催。このライブをもって、藤川千愛が卒業したが、客席には空想委員会の三浦隆一に誘われたCIVILIANのコヤマヒデカズが観覧しており、デビュー3年で660回のライブを行い、武道館まで駆け上がった彼女たちの意志の強さ、ひたむきさ、儚さをに感銘を受け、のちに異色のコラボレーションが実現した。

 そして、同年12月に新メンバーとして篠原葵が加入。新体制での活動をスタートさせた彼女たちは、2019年8月には『@JAM EXPO 2019』でメインステージの初日のトリを務め、舞浜アンフィシアターで開催された結成4周年記念ライブでは自発的にバンド演奏に挑戦。「タイムマシン」「どうでもいいや」の2曲を披露し、踊りながらの“生歌”に加え、生演奏という引き出しを増やした。

 グループの中でも一番の成長株は1年目で新たな経験を得てきた篠原だろうが、2017年12月に加入した2年目の深瀬美桜、オリジナルメンバーで数多くのステージをこなしてきた宮内凛、中川美優、松下玲緒菜の4人からもシンガーとしての成長が見える。それぞれが持っている声の特徴や、切なくて甘酸っぱい雰囲気は残しつつ、より楽曲の世界観に溶け込んで、全体の物語の輪郭を際立てているのだ。特にアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の2019年10月クールのED主題歌に起用されたリード曲「あるわけないのその奥に」と同じく2018年4月クールのED主題歌である「鏡の中から」は、女の子の繊細さと激しさ、目に見えるものと見えないものが見事に演じきられており、この曲を契機にファン層がさらに拡大したことは想像に難くない。

まねきケチャ『あるわけないのその奥に』アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」主題歌(ED)
まねきケチャ『鏡の中から』アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」主題歌(ED)

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