ヴィジュアル系におけるメタルサウンドの移り変わり X JAPANからLUNA SEA、DIR EN GREY、DEZERTまでを総括

V系におけるメタルサウンドの移り変わり

 ヴィジュアル系は、ひとつのバンドどころかひとつの曲でさえさまざまな音楽的要素を取り込んでいることが多く、特定の音楽ジャンルに分類するのは困難だ。それでも、音楽的にいくつかの流れがある。そのうちのひとつがメタルだ。

 ヴィジュアル系の音楽性には当初からメタルが深く関わっている。X JAPANはもちろん、のちのヴィジュアルシーンに強い影響を与えたDEAD ENDやAIONはジャパメタシーンと紐付いていた。そして現在も、メタルはヴィジュアル系シーンで強い存在感をもつ。そこで、今回はヴィジュアル系をメタルという視点から整理していく。

1980年代~1990年代:メタル+ハードコア/パンク

 ヴィジュアル系黎明期に活躍した、X JAPANを代表とするエクスタシーレコードの面々は、HR/HMやスラッシュメタル、メロディックスピードメタル(以下、メロスピ)といった、欧米で1980年代~1990年代前半に興ったメタルと音楽的に共通点がある。たとえば、X JAPANの「BLUE BLOOD」(1989年)では、スラッシュメタル的なギターリフとスピード感が聴ける。また、「紅」(1989年)でのシンフォニックな疾走感は、Helloweenをパイオニアとするメロスピに通じるものがある。ただし、YOSHIKIのドラミングは“Dビート”と呼ばれるハードコア由来のものに近い。Dischargeが始祖となる、つんのめるようなこのリズムが、X JAPANにしか表現できない破滅の美しさのひとつの要因だろう。さて、X JAPANは、GASTUNKなどの日本のメタリックなハードコアバンドと交流があった。また、エクスタシーレコードに所属していたTOKYO YANKEESは日本のMotörheadと言われることもあるが、Motörheadはメタルにパンクを持ち込んだとされるバンドのひとつだ。この時期のヴィジュアル系メタルには、ハードコア/パンクの影響も強かったといえる。

X JAPAN『BLUE BLOOD REMASTERD EDITION』
Raining Blood
Helloween - Eagle Fly Free
Hear Nothing See Nothing Say Nothing

1990年代後半~:耽美系メタル

 ヴィジュアル系の始祖たちの風貌や行動と、“ヤンキー精神”とは共通点があるとよく指摘される。一方で1990年代後半になると、近世ヨーロッパなどの“非ヤンキー”的な耽美さをメタルに取り入れるバンドが登場した。パイオニアはMALICE MIZERだろう。「ヴェル・エール 〜空白の瞬間の中で〜」(1997年)でのツインギターは、ヴィジュアル系耽美メタルの幕開けを感じさせる。その後、「花咲く命ある限り」(1999年)などでHelloweenの影響を刹那的な表現で昇華したRaphaelや、やや時代を下って「闇より暗い慟哭のアカペラと薔薇より赤い情熱のアリア」(2005年)などでスラッシュメタルに歌劇的な要素を組み合わせたDが頭角を表した。また、2007年始動のVersaillesによる、イングヴェイ・マルムスティーンを代表とするネオクラシカルメタルの系譜にある美しいギターハーモニーと、演劇的な歌の組み合わせは、“薔薇の末裔”というコンセプトもあわせて、ヴィジュアル系耽美メタルのひとつの完成形といえる。2005年に始動し、初期には“新興宗教樂團”を名乗っていたNoGoDも、キャラクター性の高いメタルという点で彼らに共通するところがある。2007年結成の摩天楼オペラなどが得意とするシンフォニックな要素も、この流れの特徴のひとつだ。

Versailles / The revenant Choir [Official Music Video]
Yngwie Malmsteen - Rising Force

1990年代前半~2000年代前半:ツタツタ系

 エクスタシーレコードの一員だったLUNA SEAは、メタル以上にポジティブパンクの要素をもっていた。そのLUNA SEAの「SHADE」(1989年)に類する、黒夢の「親愛なるDEATHMASK」(1993年)は、高速ツービートに邪悪なフレーズと絶叫が乗る曲で、初期のブラックメタルに近い質感をしている。取りようによっては、デスメタルを高音側にスライドしたような曲でもある。この独特の音楽性は数々のフォロワーを生み、“ツタツタ系”というサブジャンルとして発展していった。

LUNA SEA「SHADE - ver.2011」

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