作詞家zopp「ヒット曲のテクニカル分析」第23回
作詞家zopp、ラグビーW杯テーマソングなどから考える“現代の応援ソング”の傾向
修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、比喩表現、英詞と日本詞、歌詞の物語性、ワードアドバイザーとしての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。
第23回目となる今回は、“応援ソング”についてインタビュー。ラグビーワールドカップのテーマソングの傾向の振り返りや、2020年のオリンピックにはどんな応援歌が生まれそうか、などzopp氏ならではの解説を聞くことができた。(編集部)
嵐「BRAVE」は昭和から平成初期の応援ソングを彷彿とさせる
ーー最近は、今年のラグビーワールドカップの盛り上がりに合わせて応援歌も話題になっていましたね。各テレビ局のテーマソングだった嵐の「BRAVE」やLittle Glee Monster(以下、リトグリ)の「ECHO」、またラグビーの日本代表応援ソングであるB'z「兵、走る」の歌詞に対してどのような印象を受けましたか?
zopp:昨今の応援歌は“低温”なものが多い印象でしたが、ラグビーのテーマソングに関しては、“高温”な歌詞が多いように感じました(注:以前zopp氏は本連載にて「ウルフルズの「ガッツだぜ!!」が100とすると、30~40くらいの“低温の応援歌”がもっと増えていく」と言及。記事はこちら)。
ーーそれは、歌詞の内容自体に熱さを感じるということでしょうか。
zopp:内容は基本的に同じなんです。悩んでいる人を勇気付けることが目的。勇気付け方が変わったんです。昭和時代は良くも悪くも根性論がありました。情報が限られていた狭い世界で生まれた価値観が、その人たちの“事実”だった。しかし、インターネットが普及したことで考え方が多角的になって、応援歌の軸も“答えなんてなくていい”、“頑張りすぎなくていい”という考え方に変わっています。昨今の傾向でもある“優しさ”に重点を置いた歌詞は、特に若い層から共感を得ているように思います。
しかし、「BRAVE」、「ECHO」、「兵、走る」は、昨今ではあまり見かけなかった熱さのある楽曲。それはラグビーに向けての応援ソングだからこそだと思います。ラグビーは泥まみれになりながら相手に立ち向かったり、ちょっとやそっとじゃ倒れないイメージが強いです。ラグビーならではの競技性に合わせて、応援ソングも高温になっているのではないでしょうか。
ーーなるほど。特に熱を感じたフレーズはありますか?
zopp:嵐に関しては、まず「BRAVE」(勇敢な/勇ましい)というタイトルから強い意志を感じます。また、〈荒野を切り拓く〉、〈泥に塗れても〉、〈何度も這い上がり〉などからは、昭和から平成初期の応援ソングを彷彿とさせます。また、リトグリの「ECHO」には〈叫べよ〉と訴えかけるワードがありますね。〈One for all, All for one〉というフレーズも、昨今の応援ソングで使われる機会は減っていたように思います。このワードは「BRAVE」でも使われていましたね。
応援ソングにもラブソングにも方程式があるんです。例えば、聴き手の背中を押すような楽曲を作ろうと思ったら、頑張れなくなっている人物を主人公にして因果関係を作る。そうすることで、聴き手にも共感してもらえる楽曲になる。「BRAVE」は、時代を背負っている重圧や泥に塗れてるという諦めそうなネガティブな状況(原因)から、チカラを合わせて行こうというポジティブな意志(結果)といった因果関係がわかりやすく描かれています。
ーー米津玄師さんの「馬と鹿」はどうでしょうか。この曲はラグビーをテーマにしたTBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』の主題歌でしたが、先ほど挙げた3曲と比較すると低温な歌詞であるように思います。
zopp:「馬と鹿」は、全体的に命令口調ではなく自問自答している感じがします。〈痛みは消えないままでいい〉〈誰にも奪えない魂〉というフレーズも米津さんらしいです。“痛み”だったら「痛みを乗り越えて」としたり、“魂”だったら「魂を燃やせ」としがちですが、彼の場合は違う。“強さ”よりも“優しさ”を感じるところからも「今の時代の詞」という感じがしますね。