作詞家zopp「ヒット曲のテクニカル分析」第21回
作詞家 zoppが予想する、令和に求められる歌詞の傾向 「“低温の応援歌”がもっと増えていく」
修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、ヒット曲を生み出した名作詞家が紡いだ歌詞や、比喩表現、英詞と日本詞、歌詞の物語性、ワードアドバイザーとしての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。
第21回目となる今回は、オリコンが発表した平成シングル売上ランキング TOP10を軸に、平成に流行した歌詞の特徴から、令和にどんな歌詞・曲が増えるのかについてまでをじっくりと聞いた。(編集部)
「平成はカラオケを意識している歌詞が特徴的」
ーー『オリコン平成30年ランキング』が発表されました。
zopp:CDのセールスランキングということで、ランクインしているのは90年代の作品が中心ですね。特にシングルランキングはドラマの影響が大きいと思います。“音楽先行型”だったのが、90年代からタイアップが音楽を活性化させることが分かって、タイアップが重要視されるようになっていきました。
ーーシングルTOP10はタイアップが付いているものばかりですね。
zopp:ドラマの脚本や原作をしっかり読んで作りこんだものと、「世界に一つだけの花」のようなまず曲があって後からタイアップが付いたもので歌詞に大きな違いがあります。前者はより具体的な歌詞で、歌詞を書く側としても、タイアップによってこれまでに作ったことのない歌詞が書ける。例えば失恋の曲を書いたことがなくても、失恋をテーマにしたドラマだったらそういう歌詞にチャレンジできたり。それまでは自分から湧き出たものしか作れなかったけれど、タイアップによって新しい扉が開ける。そこがタイアップの良さだと思います。
ーーDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」、CHAGE&ASKA(現:CHAGE and ASKA)の「YAH YAH YAH」と同じ言葉が3つ続いているタイトルが気になりました。
zopp:僕が作詞した「抱いてセニョリータ」(山下智久)も〈抱いて 抱いて 抱いて〉とサビで3回繰り返しています。日本人は「五・七・五」もそうですが、音感的に奇数を好む傾向がある。でも、タイトルや歌詞で同じ言葉を5回繰り返すのは多すぎるので3回なんだと思います。そういえば『HEY!HEY!HEY!』も3回でしたね。
ーー「LOVE LOVE LOVE」はハミングも印象的です。
zopp:当時海外で流行していたというのもあると思いますが、〈ルルルルル〉で相手に考える余地を作っている。カラオケではそこに自分の好きな言葉を入れられますし、面白い作りだと思います。デュエットで盛り上がれるCHAGE and ASKAもそうですが、こうして見ると平成はカラオケを意識している歌詞が特徴的ですね。また、平成の初期はラブストーリーを描いたドラマが多かったこともあり、ランクインしているのもストレートなラブソングばかりです。後期に入るとリスナーの知識欲が増して、ラブソングでも「失恋したらこうしよう」といった何かを学べる曲が増えていきました。とはいえ、時代は変われどラブソングは多い。人と人とのつながりを描いた曲はこれからも続くと思います。
ーー失恋ソングとポジティブなラブソングはどちらが多いのでしょう?
zopp:ポップスの6〜7割が失恋ソングという説がありますね。最終的にハッピーになる曲を書こうと思ったら、最初は悲しいところから始めますし、全編悲しい、もしくは楽しい曲ってなかなかない。どこにフォーカスするかによって変わってくると思います。ただ、ウォークマンが登場してから、移動する時に1人で音楽を聴くことが多くなった。車で皆で聴くときなどはハッピーな歌が多いかもしれませんが、1人だと悲しい歌を聴きたくなるんじゃないでしょうか。
ーー昭和と平成でその割合は変わったんでしょうか。
zopp:昭和は激動の時代で、ポップスはポジティブなものが、演歌は悲しいものが多かった気がします。平成に入って、演歌がメインストリームから離れて、ポップスに悲しい歌が多くなった。平成は悲しい出来事も多かったので、そういった時流も反映されているんじゃないでしょうか。