眩暈SIREN×しづ『spinoid』の世界観はリスナーに何を与える? 主題歌「滲む錆色」MVから考察

眩暈SIREN『滲む錆色/紫陽花』レビュー

 眩暈SIRENが今年2月に発表した『夕立ち』に続くニューシングル『滲む錆色/紫陽花』を10月9日にリリース。同作から制作された「滲む錆色」のMVが、非常に興味深い仕上がりとなっている。

 「滲む錆色」はマルチメディアプロジェクト「カゲロウプロジェクト」にてキャラクターデザインを担当するしづが、初めて手がけるオリジナルアニメ『spinoid』第1章の主題歌に抜擢。しづはシングル『滲む錆色/紫陽花』のアートワークを描き下ろしたほか、全編アニメによる「滲む錆色」のMV制作も担当しており、8月末には主題歌映像が公開、10月に入ってからは冒頭で『spinoid』の映像が使用されたMVティザー映像も公開され、その一部をいち早く楽しむことができた。

spinoid主題歌「滲む錆色 / 眩暈SIREN」

 眩暈SIRENといえば京寺(Vo)の描く厭世的な歌詞の世界観とバンドの直情的で激しいトラックで「日常の閉塞感や息苦しさやそれを覆う無力感」を表現する個性的な存在。ネガティブな表現やそこから生まれる虚無感は、聴き手に「救い」を与えるのではなく、日々の「終わらない苦しみ」を共有しようという意思が感じられ、日常生活で孤独を感じる多くの若者から支持を集めている。

 しづは今回のコラボレーションに際し「自分が元々眩暈さんのファンで曲をいつも聴かせて頂いていたので、歌詞や音作りから今の創作活動に多大なる影響を受けていると感じています」とコメントを寄せており、しづ自身も眩暈SIRENにシンパシーを抱いてることが伺える。そんな2組がタッグを組んで生み出したスペシャルな映像は、先にも記したようにとても印象に残る内容で、解釈によっていろいろな捉え方ができる作品だ。

 MVはシングル通常盤のジャケットに登場する謎のキャラクターと、黒いフードを被った中身が不定形のキャラクターを軸に進行していく。謎のキャラクターは鳥のくちばしのようなものがフードから飛び出し、ツノようのようなのも見受けられる。黒い服装の中からは肉体ではなく骨が浮かび上がっており、その姿は死神のようにも見える。そして天にまで伸びた赤い紐も特徴的で、MV冒頭では〈「汚れてしまえ」と鉄を噛むよう 瓦礫の海に溺れた〉という歌詞にあわせて、天まで伸びた赤い紐がもう一人の黒いフードのキャラクターを引き寄せる。もしこの謎のキャラクターが本当に死神だとしたら、赤い紐で引き寄せる様は「死期の迫った者を手繰り寄せている」ようにも解釈できる。紐を彩る赤は、どこか血をイメージさせるところもあり、生と死をつなぐ最後の手綱が血の色というのも頷けるものがある。

 赤い紐で手繰り寄せられた黒いフードのキャラクターは、中身が不定形なこともあり匿名性が高い。これはもしかしたら明日の自分の姿かもしれない……「滲む錆色」の歌詞と相まって、気づけばMVの中のキャラクターと自分が重なって見えるというリスナーも少なくないのではなかろうか。

 ところが、しづによるとこのキャラクターは『spinoid』に登場する「あるもの」の象徴とのこと。MV中に挿入されるカットの数々は、その「あるもの」に関連する作中での史実を表現しているという。つまり、今回のMVはリスナーの「自分との対峙」を表したものであると同時に、『spinoid』という作品のヒントも隠されたスピンアウト的な役割も果たしているわけだ。「滲む錆色」と『spinoid』という2つの作品を通して見えてくる世界は、果たしてリスナーに何を与えるのか。いや、もしかしたら今とは何も変わらないかもしれない。それでも、我々は眩暈SIRENが作り上げる世界観から抜け出せないし、そんな我々だからこそ「滲む錆色」後半の〈こんなに傷つけ合ってしまえるのは僕等が同じ様に願うから〉というフレーズが強く響くのだから。

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