気鋭の劇伴作家 未知瑠が語る、テレビアニメ『BEM』サントラ制作と作品の中で生きる音楽

劇伴作家 未知瑠が語る、作中で生きる音楽

 9月25日、現在放送中のテレビアニメ『BEM』(テレビ東京ほか)のサウンドトラック盤『UPPERSIDE』がリリースされた。

 このサントラを手がけるのはドラマ&映画『賭ケグルイ』やテレビアニメ『終末のイゼッタ』『ギヴン』『三ツ星カラーズ』などの音楽担当としても知られる未知瑠。彼女は今回、共同制作者であるSOIL & “PIMP” SESSIONS(SOIL&“PIMP”SESSIONS 社長が語る、『BEM』音楽での挑戦やサントラ制作がバンドに与える影響)とともに、1968年のアニメ『妖怪人間ベム』のリブート版『BEM』の世界を、曰く「スタイリッシュながらもドロドロした」楽曲群で彩っている。

 今回、リアルサウンドではこのサントラ盤がリリースされたことを記念して未知瑠を直撃。気鋭の劇伴作家はいかにして新しいベムワールドに音を与えたのか? 話を聞いた。(成松哲)

「とにかく未知瑠さんらしく!」と、皆さんに言われた

——『BEM』の原案となった『妖怪人間ベム』ってご覧になったことは?

未知瑠:リアルタイムでは観られていないんですけど、大人になってからDVDや配信で観たことがあったし、今回「『BEM』のサントラを」というお話をいただいたあとにあらためて観直しました。

——そのオリジナル版と『BEM』を比べてみた印象は?

未知瑠:最初に企画書やキービジュアルを見せていただいたときはビックリしました。オリジナル版のあの独特のおどろおどろしさからかなり変わって、洗練された大人で都会的なビジュアルになっていたので。こういう切り口で新しい『BEM』が作られていくのか! と驚きましたね。ただ、ベムたちが、人間になりたくて人間のためにがんばるけど報われない、という悲哀は、『妖怪人間ベム』のリブート版であるゆえんと言いますか、根幹部分が変わらないことに安心しました。

——そしてその『妖怪人間ベム』の本質を押さえつつも、ビジュアルやストーリーは一新された『BEM』に音を与える仕事をなさっているわけですけど、今回のサウンドトラックはSOIL & “PIMP” SESSIONS(以下、SOIL)との共同名義。未知瑠さんとSOILの作業ってどのように分担なさったんですか?

未知瑠:最初の打ち合わせの時に音響監督の亀山さんから音楽メニュー表というものをいただいたんですけど、その段階で未知瑠用とSOILさん用のメニュー表が用意されていたので、私にご依頼いただく時点で監督さんや音響監督さんの中で棲み分けをされていたんだと思います。

——未知瑠さんに求められていた音って具体的に言葉にできたりしますか?

未知瑠:心情や状況を語る音楽、バトルの状況を描く音楽などが主な部分でした。そしてSOILさんは『BEM』全体の世界観を音楽で作り上げていく役割だったのかな、と理解しています。

——未知瑠さんとSOILでは当然作風が違うはずなんだけど、アニメの中ではすごくシームレスに繋がっている。どちらの音も『BEM』の世界で鳴っていておかしくない音になっています。

未知瑠:それは私自身も放送をみて驚いた部分で(笑)。SOILさんの方が先に劇伴レコーディングを終えられたと聞いて、私が劇伴を作っている時に、「SOILさんはどんな曲を作られたんだろう?」ってすごく気になって。音楽プロデューサーの福田(正夫)さんに「聴かせてほしい」ってお願いしたんですけど、一切聴かせてもらえなかったんですよ。

——であれば、なおのこと未知瑠さんの音とSOILの音がケンカすることなくアニメの中で共存していることに驚かされます。

未知瑠:そのとき福田さんには「一切心配しないで未知瑠さんらしくやってほしい」と言われまして。おそらく、SOILさんの劇伴を聴いてしまうことで私の表現の幅が狭まってしまったり、なにかに囚われたりしないように、という意図だと思うのですが。だから最初から福田さんの中に『BEM』の世界で鳴っている音楽のイメージがあった上で私とSOILさんというまったく違う二者に依頼されたのでしょうね。

——実際、未知瑠楽曲とSOIL楽曲をDJのようにノンストップで繋いでいるシーンがあるけど、違和感はないですもんね。

未知瑠:本当に上手くステムなどを使ってシームレスに繋いで下さってる感じがします。自分でもどこまでが自分の曲だったかわからなくなることがあるくらい(笑)。

——福田さんとはお付き合いは長いんですか?

未知瑠:『終末のイゼッタ』(2016年)というアニメで初めてお世話になったのですが、そのときから「未知瑠さんのオリジナルのソロアルバムの世界観から拡張したような音楽を作ってほしい」というような事をおっしゃっていて。つまり、ソロアルバムのような世界観に基づきつつ、アニメの世界に向けて、思いきり好きにやってよいんだな、と解釈しています。

——未知瑠さんに全幅の信頼を置いている福田さんと、その信頼に楽曲で応える未知瑠さん。すごくいい関係ですね。

未知瑠:さっきお話ししたように、音楽メニュー表には「こういうシーンに当てる曲」「このバトル向けの楽曲」「このキャラクターのテーマ曲」というように、音楽がほしい場面についてと、その各場面の音のイメージも書いてはあるんです。たとえば今回であれば「レゲエのリズムで」といったオーダーが書いてはあったんですけど……。

——サントラを聴かせていただく以上、レゲエの曲なんかないですよね?

未知瑠:そうなんです(笑)。音楽メニュー表を書かれた音響監督の亀山さんも「このオーダーはマストではない!」「違和感のあるバトル曲であれば自由!」とおっしゃって。全体的にメニュー表のオーダーはむしろ忘れて「とにかく未知瑠さんらしく!」と、皆さんに言われたので。

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