NICO Touches the Wallsは可能性を追求し続ける 新作“NICO盤”“ACO盤”に込めた真意とは

NICO、“NICO盤”“ACO盤”に込めた真意

 NICO Touches the Walls(以下、ニコ)が6月5日にリリースする7thアルバム『QUIZMASTER』は、バンドスタイルの“NICO Touches the Walls盤”(以下、NICO盤)と同じ曲のアコースティックバージョンを収録した“ACO Touches the Walls盤”(以下、ACO盤)の2枚組である(※ライブ映像が付属される初回生産限定盤は3枚組)。彼らが“バンドスタイルと同曲のアコースティックバージョンの2枚組”という形式でリリースを行うのは、2017年の『TWISTER -EP-』、2018年の『OYSTER -EP-』に続き3作目だ。

 そもそもニコがアコースティックに力を入れるようになったのはいつ頃からなのか。遡ると彼らは、2011年12月リリースの『HUMANIA』以降のいくつかの作品で、初回限定盤特典としてアコースティック編成でのスタジオライブ映像を封入している。2015年2月には、全曲アコースティックアレンジのベスト盤『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』をリリースした。

 そして2015年以降、アコースティックでの活動が盛んになるにつれて通常編成での演奏もさらに自由度の高いものに。そして『TWISTER -EP-』発表と同年の2017年以降は、これまで共同プロデューサーとして彼らの音源に携わっていた浅野尚志がしばしばサポートメンバーとしてライブに参加するようになる。バイオリンやキーボードなど従来の編成にない楽器を弾ける彼の存在も、バンドの振れ幅を広げるうえで欠かせないものとなった。

 ニコのメインソングライター・光村龍哉 (Vo/Gt)は小学生の頃から曲作りを行っていた人物である。クリスマスプレゼントにJamiroquaiのアルバムを買ってもらうような子どもだった、というエピソードからも彼の早熟ぶりが分かるが、インタビュー記事などを読む限り、今日まで(そして現在でも)洋邦問わず幅広くインプットしているようだ。

 キャリアの積み重ねによりバンドの演奏技術および表現力が向上し、コアな音楽リスナーである光村の脳内に広がるイメージを体現するために選べる手段が増えたこと。それこそが、現在ニコがバンド編成とアコースティック編成の二輪駆動状態で走っている理由であろう。また、a flood of circleの佐々木亮介、Base Ball Bearの小出祐介がそうであるように、インプットが豊富なタイプのミュージシャンの場合、バンドとは別にアウトプットの場を持っているケースが多いが、光村は現状バンド一本である。それも現在のニコの状況に影響しているのかもしれない。

 『QUIZMASTER』のNICO盤とACO盤を聴き比べると、このバンドの引き出しの多さが分かることだろう。例えば、「マカロニッ?」はNICO盤では2ビートで疾走感溢れる曲調だが、ACO盤では食ったリズムのジャズアレンジになっている。「別腹?」はNICO盤ではミディアムバラードだが、ACO盤ではボサノバになっている。また、サウンドのテイストだけでなく、なかには曲の構造自体が変化している曲も。ACO盤での「3分ルール?」は2番以降がカットされているし、「2nd SOUL?」はNICO盤とACO盤でキーが違う。

 バンドのアコースティックアレンジというと、テンポを落としてバラード風にしたものを思い浮かべる人が多いかもしれないが、ニコのアコースティックアレンジはその限りではない。だから面白い。さらに面白いだけでなく、リリースを重ねるごとにバンド編成の演奏もアコースティック編成の演奏も洗練されてきている。先に書いた浅野をサポートに入れていた件もそうだが、『TWISTER -EP-』『OYSTER -EP-』では足し算のアプローチにより“4ピースバンドにできること”を拡張させている印象があった。一方、『QUIZMASTER』は前2作と比べて全体的に音数が少なく、その分、一つひとつの音がかなり太い。これまでの経験を経て今回はあえて調味料の種類を減らしているような、バンドという素材本来の味で勝負しているような印象があるのだ。

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