ハルカトミユキ、ベストアルバムに刻んだ成長と変わらぬ軸「強くなった2人の姿を見せていきたい」

ハルカトミユキ、ベスト盤インタビュー

「やっと自分で自分を“ミュージシャン”って言える」(ミユキ)

 2015年の活動再開後、休止の反動からか、2人は一気に全速力で駆け出すこととなる。12カ月連続の新曲配信リリース、日比谷野音でのフリーライブ(自らチケットの手配りも行った)、さらには、47都道府県ライブ。動き続けることで、自らの殻を破り、状況の打開を図る中、「17才」にも通じる光量の多いポップサイドの原点とも言うべき「世界」が生まれたり、外部のプロデューサーとのコラボによって、テクノ路線のフィジカルなダンスナンバーを完成させたりと、新境地を開拓した。また、『ひとり×3000』という野音フリーライブのタイトルは、普通の一人ひとりの側に立つことを改めて宣言するものであり、〈ひとりで生きる勇気 君に。〉と歌う「肯定する」は、この時期のテーマソングとなった。

 しかし、“ゆとり世代の逆襲”という言葉に象徴される「外見はクールだが、中身は熱い」というアーティストイメージから、熱量むき出しの活動スタイルへと変化していったことに、彼女たち自身が戸惑い、葛藤を抱えていたことは想像に難くない。2人は「今になってやっと、あの時期が大事だったと思える」と話しながらも、「正直仲は悪かった」と笑う。

「ミユキはミユキのしんどさがあったと思うけど、当時は歌詞も曲も基本的には私が作っていたので、それで精いっぱいでした。でも、私が『もうやめたい』って言ったときに止めてくれたのは、ミユキだったんですよ。しんどいながらも、『どうにかしなきゃ』って気持ちがあったんだろうなって。あれがなかったら、ホントにやめてたと思う」(ハルカ)

「実際途中まで作曲に関しては任せちゃってる部分があったし、ハルカからしたら、『こいつ何にもやんねえな』って思ってたと思うんです(笑)。もちろん、私も曲作りに貢献したいと思いつつ、でもなかなか上手くできなくて、いろいろ悩んでたときに……フレディ・マーキュリーに出会ったんですよ。音楽性というよりも、人が持ってるパワーに動かされて、もう一度自分のルーツを辿り、自分が好きなものを再確認したら、曲を作る自信が出てきたんです。なので、あの出会いがなかったら、私が『やめる』ってなってたと思う。そこから2人のコミュニケーションが増えて、新たに信頼が生まれたのかなって」(ミユキ)

ミユキ

 こうして逡巡の季節を通り過ぎると、2016年にミユキがソングライティングの面でも大きな貢献を果たした2ndアルバム『LOVELESS / ARTLESS』を完成させ、2度目の日比谷野音公演を成功させた(ちなみに、ミユキのQueen好きはファンの間ではよく知られていたことだが、昨年は『ボヘミアン・ラプソディ』を3回観に行ったそう)。

ハルカトミユキの表現と時代がアジャストした2017年

 2010年代も後半に突入すると、様々な価値観が緩やかに変化の兆しを見せ始める。ロックフェスの画一的な盛り上がりに疑問符が投げかけられ、“同調圧力”がたびたび議論の的になったのがこの頃。また、2010年代前半においては、自由に自分の意見を発表できる場所だったはずのSNSが、度重なる炎上騒ぎや言葉狩りによって、言いたいことを言えない場所にもなっていた。そんなタイミングだからこそ、2017年に発表された3rdアルバム『溜息の断面図』が再び“怒り”を題材とした作品だったことには意味があった。〈白か黒しかわからない 想像力のない奴ら〉〈どうせ言ってもわからない 言葉を飲み込めば思う壺〉と歌う「わらべうた」は、ハルカトミユキの表現が時代とアジャストしたことを物語る。

「『溜息の断面図』には昔書いた曲をもう一度アレンジし直して入れたりもしていて、初期にやりたかったことをアップデートしてできた作品というイメージなんです。なので、時代を意識してというよりは、『ずっと言いたかったことがやっと言えた』みたいな感覚なんですよね。昔は言いたいことだけが先走ってたけど、それをちゃんと音楽にできたっていう達成感も大きかったです」(ハルカ)

「結成当時から怒りや葛藤を音楽にしたくて、でも感情と本能のままにやることしかできないから、ライブではとにかくノイズを出したりしてて。でも、『終わりの始まり』とかは、その頃の感覚をちゃんと音楽として表現できたと思います。2ndアルバムのときはまだ衝動的な部分が大きかったけど、3rdアルバムは自分のやりたいことが曲に落とし込めたので、やっと自分で自分を“ミュージシャン”って言えるかなって」(ミユキ)

 結成時からの“怒り”を音楽作品に初めて昇華させ、ミュージシャンとしての成長を確かに刻んだ『溜息の断面図』には、同時に〈青いままの春 今も続いてる〉と歌い、大人になり切れなかった自分を肯定する「宝物」が収録されている。それは誰しもがステレオタイプな“大人”という型にハマる必要なく、“特別”である理由もなく、あるがままに生きることを肯定しようとする、多様性の時代の賛歌のようにも聴こえる。「自分は自分にしかなれない」という絶望が、「自分は他の誰でもない自分である」という希望に到達した瞬間だ。

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