アルバム『君に会いに』インタビュー
むぎ(猫)が語る、メジャーデビューと音楽活動への思い 「やさしい気持ちにさせたい」
猫が木琴を叩きながら歌い踊るシュールな様子と、真っ直ぐなメッセージが込められた胸に響くシンプルな歌が話題となって、『FUJI ROCK FESTIVAL ‘17』や、昨年の『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018』など夏フェスでも人気のむぎ(猫)が、3月20日にアルバム『君に会いに』でメジャーデビュー。一度は永眠したものの2014年に天国から舞い戻り、人を楽しませることに新たな“ニャン生”を賭けるむぎ(猫)。なぜ木琴なのか? どんな思いで歌っているのか? 「いつも命について考えている」という言葉からは、アーティストとしての真剣な姿が見えた。(榑林史章)
“出オチ”にならないように!
ーーむぎさんが、音楽活動を始めたきっかけは何でしたか?
むぎ(猫):天国から帰ってきたときは、音楽活動をするつもりはまったくなかったんです。カイヌシも、ただ街中をお散歩させてくれるだけだったんですけど、あるときからSNSで「猫のイベントをやるので出てもらえませんか」というお声がけが増えていって。最初に声をかけてくださったのが、喫茶店で開催する猫のイベントでした。むぎもただ立っているわけにもいかないので、じゃあそこでライブをやろうと思って、その日に向けて曲を作って練習したのが最初です。
ーーライブでは、木琴を演奏していますね。
むぎ(猫):そもそも木琴は、カイヌシのゆうさくちゃんの得意楽器で、むぎはそれを教わって、レコーディングやライブでも使っているんです。カイヌシは、もともとピアノを習っていて、木琴を習い始めたのは10歳のとき。東京の音大に入るために沖縄から上京してきて、ホームシックになったときにむぎを飼い始めたそうです。
ーー木琴を選んだ理由は、何だったんでしょうか?
むぎ(猫):すごく不純な理由だったみたいですよ(笑)。カイヌシは6歳からピアノを習っていたのですが、周りの男の子はサッカーや野球をやっていて、ピアノをやっていることに女々しさを感じたらしくて。自分のできることで、何かもう少し格好いいことはないかと探しているときに、「木琴のレッスンをしませんか」というチラシを見つけて。「こっちのほうが格好いいんじゃないか?」、つまり「モテるんじゃないか?」と思って、10歳から木琴を習い始めたんです。
ーー実際にモテたんでしょうか?
むぎ(猫):いえ、まったくみたいです(笑)。やっぱりスポーツマンには勝てなかったみたいです。
ーーメジャーデビューすることについては、どういう心境ですか?
むぎ(猫):沖縄で音楽をやっていたときは、まさかメジャーの道にくることまでは想像していませんでした。確かにライブのオファーは途切れることはなかったですし、沖縄のライブハウス界隈では、むぎの存在はほとんど知れ渡っていましたけど……東京の事務所の方と出逢ったり、頻繁に東京でライブをするようになるとは、考えてもみなかったです。でもいろんなところでライブをするのは楽しいし、事務所に誘ってもらったことも、いろんなところでライブをするのと同じくらい嬉しかったので、お誘いを受けようと思いました。だから、面白そうだと思うことを続けていたら、自然とメジャーデビューの道に繋がっていった感じです。
ーー道が繋がっていったのは、むぎさんに魅力があればこそだと思いますが、むぎさん自身は何が魅力になっていると思いますか?
むぎ(猫):いちばん力を注いでいるのは、ライブです。絵を描いたり動画を作ったり、いろいろなことをやっていますけど、みんなの前で演奏してみんなが笑顔になってくれる、その反応を直接見られるのがライブです。そこでみんなを飽きさせないようにして、楽しませることに力を注いでいます。
ーー見た目でとてもインパクトがあるので、出てくるだけでみんながパッと笑顔になりますよね。そのぶん曲に対するハードルが、上がるようなことはありませんか?
むぎ(猫):それは、もちろんあります。“出オチ”にならないようにということは常に考えていて。イントロを短くしたりして、1曲が長くならないように意識していますし、すぐ次の展開がくるようにとか、間奏で間髪入れずマリンバソロに行くとかは考えて作っていますね。そのぶん休む暇がなくて、それがライブ中の息切れにも繋がっていますけど(笑)。「無視できない虫」という曲のイントロは、一般的には決して長くはないんですけど、むぎの曲の中では長いほうで、曲の冒頭で〈この曲、ちょっとイントロが長いですよね〉と自分で突っ込んでいます。
ーースマホ世代には、イントロにインパクトがあったり、サビまでの展開が短いほうが入りやすいという話を聞きます。時代の流れに則した曲作りかもしれないですね。
むぎ(猫):むぎも、そういう話は聞きますよ。でも決してスマホ世代に向けた意識はなくて、単にライブの現場で聴いてくれる方をがっかりさせたくないという気持ちの結果です。「次に何が起きるんだろう?」と、ワクワクさせたいんです。曲に入る前に小芝居をやることもあるんですけど、それも毎回同じではなく違ったところから曲に入ったりとか、常に試行錯誤していますね。
ーーライブを重ねるごとに反省点を改善したり、ブラッシュアップして、今の楽曲やライブのスタイルがあるんですね。
むぎ(猫):最初のころのライブは、自分で音出しもやっていたんですよ。でも、「ちょっと待ってね」と、モタモタして“変な間”が空いてしまっていて。その“間”によって空気感が崩れてしまうのが嫌で、音出しをスタッフさんにお願いしてからはスムースになりました。ただ、「モタモタしている“間”が良かったのに」とか「ぎこちなさが好きだった」と言う方もいて、そこは難しいところですね。ーーまあでも、“むぎ(猫)”という世界感にいかに引き込むか、というところを考えているわけですね。
むぎ(猫):自分で言うのも何ですが、むぎは口が動かないし、ライブ中は常に何かをしていないと、お客さんの観る場所がなくなるんです。見た目はこんなにインパクトがあるのに、それが最初だけで終わっちゃうのが怖いから、飽きさせないようにすることを常に考えます。