結婚、恋愛・既婚者可オーディション、韓国デビュー…アイドル新動向が示す日本社会の前向きな兆し

 少し議論の風呂敷を広げると、それぞれのアイドルのこういった動きは、2020年代以降の社会にとっての前向きな兆しと捉えられるべきものなのではないかと思う。

 2010年代のアイドルシーンは日本中にアイドルグループが乱立する形で活況を呈したが、一方で若い女性のメンタルに過剰な負荷が加わる状況を娯楽に昇華する手法には常に賛否両論が渦巻いていた。また、「接触」を中心に据えた大量のCDを売るシステムが浸透したことで、日本の音楽ビジネスはストリーミングサービスが世界中で起こしたパラダイムシフトに乗り遅れることとなった。

 女性をコンテンツとして消費するような態度、および海の向こうから隔絶された内向きな姿勢。こういったテーマは、2010年代後半において日本の社会全体で急速に問題視されていったものである。そう考えると、2010年代のアイドルシーンは、日本の社会のあり様を悪い意味で先取りしていたと言える。

 そんなアイドルシーンにおいて、アイドルを「自立したひとりの人間」として捉え直す動きが顕在化し、さらにはドメスティックな市場から海外につながる道が開かれた。こういった動きは、女性が若さ一辺倒ではない価値観の中で年を重ねられる、そして誰もが大きな視野を持って暮らすことができる、次の時代の社会のあり方をリードするものとして機能する可能性を秘めている。

 もちろん本稿で取り上げた動きは現状ではあくまでも「特殊例」であり、結婚や卒業といった展開に辛い思いをしているファンがいることも想像に難くない。また、いまだ混乱のさなかにあるNGT48に関する一連の出来事を筆頭に、アイドルカルチャー全体に明るい光が見えているなどと言うのは無邪気すぎることも理解しているつもりである。それでも、自分たちの信じる道を進むアイドルの生き様が、我々を次の時代に導いていってくれることを信じたいと思う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。Twitter(@regista13)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる