『第61回グラミー賞』で象徴的だった人種と女性問題への提起 受賞作やスピーチなどから解説

第61回グラミー賞が象徴した“女性のパワー”

 『第61回グラミー賞』には、始まる前から泥がついていた。主役であるはずの主要部門候補ラッパー、ケンドリック・ラマー、ドレイク、チャイルディッシュ・ガンビーノが揃ってパフォーマンスを拒否。そして開催直前、出演予定を取り下げたアリアナ・グランデが番組プロデューサーを糾弾。2015年以降ほぼ毎年そうであったように、今回も不評に終わるだろう……そう思われたディケイド最後のグラミーであったが、フタを開けてみると意外も意外、それなりに好評だった。アワードが抱え続けてきた人種と女性の問題が少しばかり緩和したのだ。

ガンビーノの受賞は「新しいグラミー賞」の象徴?

 音楽賞としての話題は、とにもかくにもチャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」の主要2部門獲得だろう。ここ4年のグラミー賞は、主要部門で本命とされたビヨンセやラマーが敗北しつづけたこともあり「黒人は受賞できない賞」だと糾弾されてきた。アワードとHIPHOPカルチャーの軋轢の歴史は長く、たとえばラップ部門が新設された1989年開催の第31回においても、同部門ノミニー5組のうち3組がボイコットしている。その20年後となる2019年、ついに「This Is America」がHIPHOPジャンルとして初の最優秀楽曲賞受賞に輝いたのだ。この快挙は、グラミー賞の転換点になりうる。主要部門の投票権を持つレコーディング・アカデミーの会員は高齢白人男性ばかりとされてきたが、近年はダイバーシティを意識した増員が行われていると報じられている。ガンビーノの勝利は、そうした投票者層の変化を表す最初の受賞結果かもしれない。

 筆者個人としては、去年はエド・シーラン、今年はテイラー・スウィフトという「主要部門で強いが受賞したら炎上しそうなアーティスト」をノミネーション時点で除外する施策も功を奏したと感じたりもするが……。

女性パワーの年

 近年のグラミー賞で人種問題と並んで問題視されてきたのが、女性への冷遇だ。2013年から2018年の年間のノミネーションは約91%が男性であり、女性は1割にも満たない(参照)。そして2018年、この問題について、アカデミー会長ニール・ポートナウが口を開けた。「女性が音楽産業のトップに就きたいのなら、女性側がステップアップしなければいけないよ。業界は歓迎するだろうから。個人的に、女性を阻む壁を感じたことはないが……」もちろん、この発言はP!nkやレディー・ガガを筆頭とした多くの人に批判された。ポートナウは2019年をもって会長職から退くことを発表している。

 スキャンダル後となった『第61回グラミー賞』は、内実ともに「女性のパワー」がメインテーマとなった。司会は14年ぶりの女性であったし、ケイシー・マスグレイヴスを筆頭とした女性受賞者は前年比82%増の31組に至った(参照)。男性ラッパー3人の拒否も影響し、パフォーマンスも女性アクトが目立ったと言える。新星の才能を知らしめたH.E.R.やカーディ・B、中堅スターとして豪華舞台を作り上げたジャネール・モネイとレディー・ガガ、大御所の貫禄を証明したダイアナ・ロスにドリー・パートン……印象を残したステージを挙げればキリが無いだろう。

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