ANARCHY、13,000円の新アルバムで問う“音楽の価値” サブスク時代に与えるインパクトを考察

ANARCHY、13,000円の新ALで問う“音楽の価値” 

 SpotifyやApple Music、AWA、そして新たに市場参入したYouTube Musicなど、音楽市場におけるサブスクリプションサービス、ストリーミングサービスは増加と拡散の一途を辿っている。他方では、iTunes Storeにおける音楽ダウンロードの撤退のニュース(これについてはAppleが否定の声明を出したが、幾度となく撤退の予想が流れるところをみると、終了はなくとも縮小はあり得るだろう)のように、音楽の“ダウンロード販売”という文化はそう遠くない未来に、旧世代の手法となるだろう。それは、レコードやCDというフィジカルが現状、そうなっているように。

 また一方で、若年層に音楽の話に聞くと、音楽との接点はやはりYouTubeが中心になっている。その流れは、今までのようにシングルや、アルバムのいわゆる推し曲についてMVが作成されるのではなく、楽曲の制作とMVの制作が根本的に紐付いており、発表と拡散の手法、およびマネタイズが、YouTubeやSNSと完全にリンクしている状況とも、軌を一にしているだろう。

 そのような流れを受けて、“音楽の価値”が問い直されているという言説が多く見られる昨今。しかし、そこで語られるのは音楽業界の不振やマネタイズといった、“音楽に貼り付けられた値札”という資本主義的な価値観、経済物品としての音楽パッケージであり、当然のことながら、音楽というモノが生み出す感動や喜びといった“根源的な感情の動き”の価値は、それがどんな形であっても変わらない。

 そういった幼稚でナイーブとも思われるような考え方を、個人的には常に根本には置きたいとは考えているが、現代において音楽が産業の一部であることは間違いない。実際に、筆者もこうやって音楽に携わる原稿を書くことでギャランティを受け取っている訳で、この原稿にだって値札はついている。しかし、この原稿を読むにあたっては、ネットの通信量などは発生しているが、読む限りにおいては読者は“無料”だろうし、冒頭で話したストリーム配信についても、YouTubeは基本無料であり、Spotifyのようにフリーという機能を持つものもある(もちろん有料への動線ではあるが)。

(ANARCHY / Run It Up feat. MIYACHI)

 その意味でも“アルバム3000円/シングル1000円”といった、「それが普通」とされた産業界的なルールがなくなり、無料であったり、安値で広範な音楽が聴くことが日常になった現状において、ラッパーのANARCHYが3月にリリースするアルバム『The KING』につけられた“13,000円”という価格は、かなりショッキングなモノであろう。

 しかし、翻って考えれば、ANARCHYは常にシーンに新しい刺激と与え続ける存在であった。2006年リリースの1stアルバム『ROB THE WORLD』や、2008年発売の自叙伝『痛みの作文』では自身の出自である“京都の団地というゲットー”を作品に落とし込み、そういった状況の存在を可視化させた。またフリーダウンロードとして発表されたアルバム『DGKA (DIRTY GHETTO KING ANARCHY)』は「DatPiff」などの音楽配信プラットフォームでチャートトップを獲得、一方でavexからのメジャーデビューを発表したり、俳優として『HiGH&LOW THE MOVIE』に出演するなど、ハードコアラッパーという軸足はぶらすことなく、新しいアプローチを常に展開し続けている。

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