橘慶太の「composer’s session」:Yaffle(小島裕規)
w-inds. 橘慶太×Yaffle(小島裕規)対談【前編】 楽曲制作におけるアレンジの重要性
3人組ダンスボーカルユニット・w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。彼がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載「composer’s session」の第3回は新春特別企画として、リアルサウンド音楽とテックの2サイトをまたいだ前編・後編でお届けする。
今回のゲストはソングライター/プロデューサーのYaffle(小島裕規)。小袋成彬らと<Tokyo Recordings>を設立し、水曜日のカンパネラ、SIRUP、iriなどのアーティストやCM&映画などへの楽曲提供やアレンジから、自身もトラックメイカーとして活躍するなど幅広い制作活動を行っている小島。橘慶太たっての希望で実現した本対談では、両者が楽曲制作で意識していることや、音作りの現場におけるさまざまな“説”に対する疑問などが率直に語られた。【前編】(編集部)
それぞれのDAWの特性は? 今の制作環境に至るまで
橘:曲はいつから作ってるんですか?
小島:中1の時に『S.W.A.T.』って映画が中1無料のキャンペーンをやってて、それを見た時に劇伴を聞いて「こういう曲作れそうだな」と思ったのがきっかけですね。あまりにもシンプルな進行ばっかりだったんですよ(笑)。それでフリーソフトで作り始めて、歌っぽくしたのは高校の時に軽音でバンドをやり始めてからですね。
橘:早いんですね! 一番最初はどのDAWで作ったんですか?
小島:その時はLogicでした。Appleがすごいってホームページで言ってたので。Logicが最高のソリューションだって(笑)。
橘:(笑)。最初がLogicの人は多いですよね。
小島:そうですね。Macのソフトですし。で、そのあと「プロはPro Toolsらしい」っていうのでPro Toolsにして曲を作ってたんですけど、もうちょっとMIDIまわりでいいものがあるというのを聞いてAbletonに手を出した感じです。Studio Oneも使ったことがあるんですけど、Cubase系のDAWはあんまり馴染まなかったですね。それにStudio Oneを使ってる俺ってどうなんだろうとも思って(笑)。DAWにもブランディングがあると思っていて。そう考えるとAbletonはブランディングとしてもいいんですよ。
橘:いいですよね。Pro Toolsもたしかにブランディングでいうとちょっと違うかも?
小島:でもPro Toolsでトラックメイクしてるっていうのは尖ってていいと思うんです。だってそこにブランディングはないですから。
橘:たしかに(笑)。
小島:Pro Toolsもわりと好きなんですよね。もともとは業務用というところも含めて。橘さんは何を使ってるんですか?
橘:僕はずっとLogicで曲を作っていたんですけど、Daft Punkが「Get Lucky」をファレル・ウィリアムスと作った時にあのタイミングでファンクだったのが悔しくて。それでDaft Punkが何のDAWを使ってるか調べたらAbletonで。「これでこの音を作れるんだったら俺にもできるはずだ」と思ってAbletonにして(笑)。それからしばらくしてチャーリー・プースの「Attention」のベースの空間がすごく良くて、曲作りの動画を見てたらPro Toolsを使ってて。
小島:あれはTrilianでしたよね。
橘:そうなんです。で、AbletonでTrilianを使って同じようになるかやってみたんですよ。でも個人的に空間が全然違うように感じちゃって。もちろんミックスも関係あるとは思うんですけど。
小島:チャーリー・プースは音めちゃめちゃいいですよね。
橘:めちゃめちゃいい。それからPro Toolsで同じようにやってみたらリバーブの感じに奥行きが出て。チャーリー・プースに近づくにはPro ToolsじゃないかってことでPro Toolsにしたんです(笑)。
小島:(笑)。
橘:だから僕はDaft Punkに憧れてAbletonにして、チャーリー・プースに憧れてPro Toolsにした感じです(笑)。
小島:いいじゃないですか。Daft Punkの『Random Access Memories』のインタビューを読みましたけど、先にテープで録ってPro Toolsに戻した方がいいのか、Pro Toolsで録ってからテープに戻した方がいいのかを先に実験して、テープで録ってPro Toolsに戻した方がいいことが判明したってありましたね。テープに興味は?
橘:憧れはありますけど、DAWで完結させたいタイプなんで、なるべくそちらにはいかないようにしてます。でも人にお願いする時はありますね。アナログも好きですし。憧れあります?
小島:昔はありましたけどね。オープンリールを使って、最後マスターに通してみたいな。でもハイとローのつっぱった感じがくるけど、結局何が起きてるのかなんとなくわかっちゃうから魔法感がないんですよね。
橘:今の音楽でいうと必要ないかなとは思いますよね。今は空間を大切にするし、音がないところが狭くなっちゃうから。
小島:4ピースバンドとかならいいと思うんですけど。
橘:そう。ぎゅっとするにはいいけど今の感じにはね。そういえば、小島くんがトラックを作ったiriの「Only One」良かったです。最高でしたね。
小島:ありがとうございます。あれはドラマーからインスパイアされた曲で。
橘:かなり揺れてますもんね。ビートが。
小島:そう。揺らしてみようと思って。デュア・リパの「New Rules」を聞いて「すげー今っぽい、あの年齢っぽいな」と思って俺も使いたくなったんですよ(笑)。
橘:それであんなに808ベースをベンドさせてたんだ! デュアリパもそうだった(笑)。
小島:「あのビヨーン、俺もやりたい!」って(笑)。ビヨンビヨンが生きる感じにしました。
橘:つながった(笑)。ピッチベンド系もAbletonはやりやすいですよね。
小島:808 Warfareっていう音源なんですけど、あれはこれだけでもうグライドなんです。
橘:サンプルを使ってるんじゃないんですね。
小島:そうなんです。Producers Choiceって会社が作ったソフト音源というか、コンタクトで。
橘:それか、僕も持ってる! あれめっちゃいい音ですよね。
小島:いいですよね。手弾きで弾いて「楽しいー!」みたいになってました(笑)。
サウンドは“一番気持ちのいいところ”に向かっている
橘:けっこうノリノリで作るタイプですか?
小島:ノリノリで作って後悔したところをどんどん整理して、最終的に間抜きしていく感じです。
橘:最初に音を重ねていってあとで使わない音を抜くことがある?
小島:だいぶありますね。ミックスでもありますもん。ミキサーにミックスの時に「ちょっとこれいらないと思うんで」って頼んでなくしてもらったり。
橘:一番最初にトラックが出来上がる時はトラック数が多いってこと?
小島:音数は多いと思いますね。
橘:そうなんだ! 意外。音数が少ないイメージだったから。
小島:本当は少なくしたいんですよ。なりたい自分はめっちゃ音数が少ない自分なんです。でもほっとくとどんどん足しちゃうんで。あとミックスの頭になった時に減らすことも多いかもしれないです。マスキングというか。
橘:これがこの音を邪魔してるみたいな。
小島:そう、そういう作業が好きなんですよね。EQを使うよりも先にマスキング。すべてがマスキングだと思うんですよ。音の悪い原因って。
橘:間違いなくそう。
小島:キックのレイヤーも個人的に最近グッととこなくて。キックでいい音があったとするじゃないですか。いいと思ってる音を入れていいと思えないんだったら他がマスキングしてるってことなんですよね。だからここでマル秘スーパーローが出るテクニックとか言ってるんじゃなくて、他のローを削れと(笑)。
橘:足すんじゃなくてね。だから最後にはけっこう音を抜く。
小島:そうですね。エンジニアさんともよく話すんですけど、エンジニアの仕事ってマスキングしちゃってるものをどうにかしなきゃいけないじゃないですか。そこにフラストレーションがあるみたいで。歌にギターにアコギが入って、さらにストリングスが入って、もうどうしたらいいのかわからないみたいな。中域に音が集まってる時は大変ですよ。
橘:そこが重なると実際辛いですよね。変な話、J-POPあるあるですけど。あれってなんでなんでしょうね? 派手に感じちゃうのかな?
小島:結局ローが出るスピーカーで聞くとスカスカに聞こえるんですけどね。
橘:それってやっぱり日本人がビートを聞いてないってことなんだと思うんですよね。
小島:日本だけメインストリームの音楽が20年くらい変わってない気はします。
橘:僕もそれが大問題だと思ってるんですよ。海外に行く人みんなが言うことなんですけど、止まってるのは日本だけ。アジアに行っても、アフリカに行っても変化してますもん。
小島:ドレイクとか最近の潮流ってどんどん真ん中の音を抜いてるじゃないですか。声とローだけというか。
橘:もうないっす(笑)。ブーン、ラップ、チキチキの3つ(笑)。
小島:ハイと真ん中とローの3人しかいない。
橘:そうそうそう。
小島:個人的に音楽の進化とか変化って、よくブームって言われますけど、ブームとかじゃなくて、大きな流れとしては音響効率がいい方に向かってるんだと思うんですよ。それこそグレゴリオ聖歌から始まって、どんどんオケが大きくなって、ローがほしくなって、ロックになって、EDMにいって、トラップにいって……どんどんまんべんなく帯域がきれいになっていると思っていて。トレンドとか関係なく進化の方向としては、一番気持ちいいところに向かってるというか。
橘:みんなが理解し始めたというか。
小島:そうですね。10年後にミドルしかない音楽が流行るとは思えないんですよね。
橘:海外とは聞く環境が違うっていうのもあるけど、はたしてそれだけで片付くものなのかというのはありますよね。まあ逆にいうと同じようなジャンルをやってる人があんまりいなくてありがたいんですけど(笑)。
小島:それはわかります。作り手としてはあんまりマスになられても困るかも(笑)。