川谷絵音×ちゃんMARI対談 バンドが起こす化学変化の面白さ「想像できなかった方向に進んでいる」
前回のインタビュー(「川谷絵音が語る、“新しい音楽”を求め続ける理由「いつの時代も作る人は絶対にいる」)以降、年末年始に限っても、稲垣吾郎のソロシングル「SUZUNARI」への楽曲提供、テレビを含む様々なメディア出演、サガミオリジナル20th PROJECT・「originals」の作詞作曲など、多彩な活動を続ける川谷絵音。また、ゲスの極み乙女。のメンバー休日課長が『TERRACE HOUSE OPENING NEW DOORS』に出演し、毎話話題をふりまいている。
そんな川谷個人としてもゲスの極み乙女。としても注目を集める今、今回は川谷とちゃんMARIの対談を行った。両者の出会いからゲスの極み乙女。の結成秘話、楽曲制作における一貫したスタンス、海外展開への思いなど、これからの活動についてたっぷりと語ってもらった。(編集部)
もう、論理がわからなくて(笑) (ちゃんMARI)
ーーちゃんMARIさんが最初に川谷さんの楽曲制作の過程に触れたのは、いつのことですか?
ちゃんMARI:ゲスの極み乙女。を始めたときなので、2012年です。最初はバンドをやることも決まっていなくて、ただ一緒にスタジオに入ってセッションする、という感じでしたね。そのあとに実際に曲が作られていくのを見て、衝撃を受けたんです。私は自分の家である程度、形にしてから聴かせるのですが、川谷くんは最初のリフくらいで、あとはリアルタイムで作っていくので。
ーーなるほど。川谷さんはざっくりと、メンバーの前でアイデアを披露しながら作っていく、という感じでしょうか。
川谷絵音(以下、川谷):いえ、何も考えていないことが多いと思います。別にリアルタイムで作るのが好きなわけじゃなく、その場で考えるしかない、という状況に追い込まれているだけなんですけどね。
ーーその場でギターを鳴らしてみて、という感じですか?
川谷:そうですね。ただ、必ずギターというわけでもなくて、初期(2013年)の「私、跳び箱6段跳べたのよ」のときは、シンセサイザーだったり。
ちゃんMARI:あ~、そうだ! 私が持ってきたシンセサイザーで、最初のリフを作って。
川谷:「いけないダンス」なんかも、鍵盤で作ったね。まあ、ほとんどはギターですけど。
ーー以前、indigo la Endの方はリズム隊で固めて、ゲスの極み乙女。のほうはわりとメンバーみんなで作ることが多い、と語っていましたね。
川谷:そうですね、indigo la Endは最初にリズムをガチガチに決めちゃうので。ゲスの極み乙女。は、わりとリフを決めてから、リズム決めよっか、みたいなことが多いです。パーツを作って組み上げるというより、イントロ、Aメロと順番に作っていく感じで。
ーーなるほど。ちゃんMARIさんから見て、どんな部分がユニークだと思いますか?
ちゃんMARI:作っているときは、その曲が面白いかどうかわからないんですよ。わりと楽曲ができあがってから、「あ~! こうなってたか!」って、面白さに気づくというか。作っているときはただ夢中で、完成図がどうなっているかわからずにやってます。
川谷:俺も分かってないんで(笑)。最後に歌が乗って「お~!」みたいな感じになることが多いですね。
ーー歌詞もないことが多いんですか?
川谷:そうですね。たまにサビだけフレーズがあったりして、「ロマンスがありあまる」なんかは、〈ありあまる〉という言葉が、僕の中にあったりはしました。
ちゃんMARI:だいたい、作っていく過程でサビのコードを何回かまわして、そのときにメロディと歌詞を作ったり。
川谷:レコーディングのときに変わることもあるけどね。
ーーなるほど。ちなみに、一曲あたり、メンバーでのやり取りにはどれくらい時間がかかるんですか?
川谷:早いときは、1時間くらいで全部できちゃうし、そこまで時間がかかることはないですね。最後に詰める作業みたいなものはある程度、時間がかかったりはするんですけど。
ーー曲づくりでは、ちゃんMARIさんがアイデアを出すこともあれば、休日課長さんやほな・いこかさんがリードすることもあるわけですよね。
川谷:基本僕がアイデアを出します。例えば「キラーボール」は口でピアノのリズムを説明して、ちゃんMARIに弾いてもらったり。最新曲の「ドグマン」は、PARKGOLFというトラックメーカーの家で、ほぼ全て作りました。
ーーみなさん揃ってやるんですか?
川谷:この曲に関してはほとんど俺とちゃんMARIですね。ただ、休日課長は部屋にはいました。いるだけでもベースをどう弾くか、というイメージが湧きますからね。
ーー「できあがるまでわからない」というお話もありましたが、音楽理論を学んできたちゃんMARIさんの立場からすると、思いもよらないことも多い?
ちゃんMARI:そうですね。もう、論理がわからなくて(笑)。単純にメロディや歌詞の乗せ方が面白いなと思うこともあって、例えば「颯爽と走るトネガワ君」という曲だと、〈颯爽と走るトネ〉で、一度切れるんですよ。これは思いつかないなって。
川谷:あれ、本当は「出木杉くん」だったんですよ。ただ、そこでアニメ『中間管理録トネガワ』のオファーがあって、文字数は一緒だなと。
ちゃんMARI:いけるなって(笑)。
川谷:そのときも〈颯爽と走る出木〉で切れてましたね。自分としては特に何も考えず、普通に自然なメロディで切ったら〈トネ〉〈ガワくん〉になったので、それはそれでいいのかな、という。
ーー「颯爽と走るトネガワ君」も最新アルバム『好きなら問わない』に収録されていますが、どの曲もいい仕上がりでした。ちゃんMARIさんから見て、川谷さんの曲は1stからどう変化していますか?
ちゃんMARI:大人になったというか、円熟味が増しているな、と思います。最初のころは最初のころで好きなんですけど、最近の曲は前の感じも残しつつどんどん洗練されて、グレードアップしていて、もっといいなと思っています。
川谷:そりゃそうだ、っていう感じもありますけどね。これで俺がずっと変わっていなかったら、逆にすごいでしょ。
ちゃんMARI:まあ、やばいね(笑)。
川谷:大人になるというか、自分が好きな音楽はちゃんとあるので、それをゲスの極み乙女。の文脈でどう成り立たせるか、みたいなことは必要だと思うんですよ。ただ、そんなに考えてないですけどね。「トネガワ君」なんかは、確かに昔っぽさもあるし、どこか変わっていて、円熟味は出ているかなと思いますけど。
ちゃんMARI:あとは「ホワイトワルツ」のadult ver.で、サックスを入れていたり。これも初の試みでした。
ーージャズテイストで、まさにちゃんMARIさんが好きなサウンドというか。
ちゃんMARI:そうですね。休日課長のベースもよくて、これも川谷くんが最初のリフを指定して、できていった感じです。
川谷:たぶん、俺のいいところって、みんなのいいところを「つまむ」のが上手いところなんですよ。だから、みんなが普通に弾いていて気がつかないところに気づいて、「あ、これだ」って曲に生かすことが多くて。リフも、けっこうもともとみんなの中にあるものなんですけど、それをここに使う、という精度が上がっているのが、だんだん洗練されていっているポイントだと思います。耳が育っているというか。
ーーメンバーそれぞれのプレイに対しても、耳がよくなっていると。
川谷:そうですね、わりとみんなの得意な部分を分かってるつもりで。こんなに楽器がガンガン目立っているバンドも、東京事変以降、なかなかいないですよね。歌ものだけど、楽器が目立つもの、というのは変わらずにやっているかな。
ーーちゃんMARIさんもステージでは常に目立ってますよね。川谷さん、バンドにとってちゃんMARIさんはどんな存在ですか?
川谷:ちゃんMARIも感性豊かなので、自分が思っているラインよりも、もっと上のアイデアが出てくることがあるんですよ。「こういうの」って伝えたら、自分が思っていたものより、もっと新しいものがフィードバックされる時がある。あとは、ちゃんMARIの鍵盤を聴きながらメロディを作ることも多いですね。どうしてもメロディを考えるとき、ギターを弾いていないことが多くて、いつもベースとピアノとドラムに回してもらっているところで考えているので、ちゃんMARIの鍵盤で導き出されているものがけっこうあります。あとは、弦アレンジなんかは僕が大枠を作りますが、具体的な積みなんかの専門的な部分はちゃんMARIにやってもらいます。
ーー「アオミ」あたりの曲はサウンドのバランスがすごくよくて、大きめのスピーカーで聴くと最高ですね。
川谷:いまファンクラブで曲への投票をやっているんですけど、普通、けっこう古い曲が上位にくるなかで、「アオミ」はトップ10に入っているんですよ。なんかいいな、って思いました。
ーー「キラーボール」「サリーマリー」などもそうでしたが、ちゃんMARIさんの鍵盤でクラシックの楽曲を一部取り入れるのも、曲のアクセントになっていると思います。これはどういう経緯で始まったんですか?
川谷:もともとMUSEのマシュー(・ベラミー)が曲の間にクラシックを弾くことがあって、俺はMUSEのコピーバンドもやっていたので、クラシックを途中で入れるの、いいな、と思って勝手に取り入れました。「キラーボール」を作っているときに、「これにショパンが入ったら面白いかも」と思ったのは、完全にその影響ですね。
ーーショパンの「幻想即興曲」でしたね。
川谷:ちゃんMARIに「なんか弾ける?」って聞いたら、「幻想即興曲なら」と。
ちゃんMARI:もう、これしか弾けないみたいな。かなり胃痛でした(笑)。
川谷:衝撃的だとよく言われますが、俺からすると「MUSEがやってたし」というところなんですけどね。ただ、こういうバンドは全然いないから。