『愛と芸術とさよならの夜』インタビュー
豊田道倫×澤部渡が語る、パラダイス・ガラージのポップ性「ドキドキする感覚が久々に戻ってきた」
二人が目指す理想の“ポップ”像
豊田:この間映像監督の岩淵弘樹くんと話してて、日本と台湾、中国、韓国と、いいバンドが多いじゃない。でもだいたい情報の共有があるからみんな同じなんだよね。突然変異なものが生まれにくくなってて。唯一次に違うものが出てくるとしたら、アメリカなのかな? って。アジアは景気もいいし、調子もいいから、同じようないい感じのシティポップが流行って。次、もっとヤバイものはどこか違うところから出てくるような気がしてるんだよね。
澤部:たしかに。今のアジアの感じは、ある種、アメリカの70年代産業ロックの感じに図らずとも近づいてるのかもしれないというか。
豊田:いいんだけど、もうちょっとゴツい音楽が聞きたいなって。スカートはゴツいのはないじゃん。
澤部:そうっすね……がんばります!(笑)。
豊田:暗黒的ななにか……暗黒ジブリみたいな(笑)。
澤部:はははは。暗黒は今やりづらいですよ。どうしてもファッション的になっちゃうんで。
豊田:タバコも吸ったらダメだもんね(笑)。
澤部:そうそうそう(笑)。もしアメリカでなにかが起こるんだったら、70年代後半イギリスで起こったようなニューウェーブのムーブメントみたいなものが起こるのかなという気もちょっとしてきますけどね。シンガーソングライターって言われる人たちが60年代、70年代とギターを手にしてきたように、PCだけじゃなくiPhoneとかでも音楽を作る人が増えていますしね。パラダイス・ガラージの新作は、そういった流れの中での日本からのひとつの回答なような気がしますよね。
豊田:ところで、澤部くんがポップスで一番初めにいいなって思ったのはなに?
澤部:幼稚園の頃の光GENJIですね。記憶があると同時に光GENJIを好きになっていたので。
豊田:俺、ポップス体験で強烈なのがある。小学生の頃、祖父母の家が岡山で、岡山から大阪までの新幹線が1時間くらいであるんですね。正月の帰省ラッシュで俺は家族と通路に立ってて。で、客席に座ってる男性がラジカセでずっと大瀧詠一さんの『ロンバケ』を流してたの。あれが多分ポップスっていいなって思った瞬間かな。今では考えられないけどね。気持ちよかったし、センチメンタルにもなったり。他の客も心の中でこれいいね、次の曲いいね、みたいに思ってる感じ(笑)。
澤部:それはなかなか強烈ですね(笑)。
豊田:当時はラジカセ持ち歩いてる人も多かったからね。
澤部:それが豊田さんのポップスの原体験っていうのは、意外でもあり、納得いく部分でもあるんですよ。豊田さんは大瀧さんの「Blue Valentine's Day」をカバーしていたという過去もありますけど(『ROCK'N'ROLL 1500』再発盤に収録)、あのアルバムも視点は違えど音響的だと思うんですよね。それは自分の中でも1本つながった部分かなと。
豊田:なんかああいうゆるいヴォーカルが好きなんだよね。
澤部:力のぬけた張らないような……。
豊田:新作でもそれは意識しました。
澤部:だからこそ〈愛も芸術もさよなら〉のリフレインが効いてくる感じがしますね。
豊田:ヴォーカルの話でいうと、ポップスのヴォーカリストっていびつな人が多かったよね。ユーミン、サザン、山下達郎もクセがあったし。今はあんまりそういう変な人がいない。ポップスのそういう危うさとかいびつさって、意外に紙一重だったりするじゃん。大瀧詠一さんもはっぴいえんどの時はクセがあったけど、『ロンバケ』で王道ポップに聞こえちゃったりして。反転する時があるんだよね。俺自身もそうだと思ってるんだけど(笑)。
澤部:今回かなり反転してると思うんですけどね。
豊田:もっとセールスも反転したい!(笑)。澤部くんもメジャーだし、大森靖子もどついたるねんもメジャーだし。みんなすごいなーと思って。
澤部:我々はパラガ・チルドレンですから。がんばらないといけないなと。すぐそばでずっと曲を作り続けて発信し続けてる人がいるのは心強いです。僕が豊田さんを見始めたのって2005年の高円寺・無力無善寺だったんですけど、その時の1曲目が「I Love You」、その次が「Forever Love」っていうすごいライブだったんですよ。その頃は豊田さん、ポップが爆発してて。行く度に新曲をやって、それがとんでもない曲っていう時期で。少し人と違うアンテナを持とうと努力した若者が豊田さんを見つけるんですよ、めざとく(笑)。それが僕だったり、岩淵くんだったり、昆虫キッズの高橋翔くんだったりしてたと思いたいんですけど。やはり豊田さんはそういう人を惹きつけるなにかがあるんだと思うんです。
曽我部恵一さんも言ってましたけど、豊田さんのやり方って真似しやすいんです(笑)。でもそれからどうやって真似しないで自分なりにパラダイス・ガラージを自分の心に住まわせてポップをやるかっていうことを僕はなるべく考えてやってたんですけど、豊田さんはやっぱり……ポップスターなんですよ。ポップスターにはしかるべきものが集まってくるのと同じことだと思うんですよね。若い才能が集まっていく。豊田さんのアルバムってジャケットもエンジニアも、誰にも見つかってないようなかっこいい人がどんどんやっていくイメージがあって、実際、今回のオートモアイさんもはまってるし。そういう才覚があるんですよね。今、オートモアイさんを使って、CDのジャケットではまるってすごいことだと思います。旬という意味で言ったら、永井博さんとある種対くらいですよ。
豊田:ま、偶然だけどね。自分から出会おうとはしてないですよ。澤部くんなんて俺より儲けてるし、才覚もあるから、これから有無も言わせない大ヒットを出してくれたらいいなあ。『めざましテレビ』で朝映ってるようなね。
澤部:もし今後自分がヒットを出すとしたら、yes, mama ok?やパラダイス・ガラージに対しての恩返しを絶対したいんです。それが日本の音楽シーンに貢献するっていう意味だと思うところもあり。……これ、本気すぎてすごい恥ずかしいんですけど(笑)。
豊田:ちょうどこの間テレビを見てて「なんでこんなのが今注目のって出てて、ほんとつまらんな、この世の中は」って思ってたから。バンドだけど、歌ってるやつの顔以外ほぼ映らないんだよね。それはやっぱり表層的な日本の音楽シーン、メディアの未熟さでもあって。それこそビートルズのジョン・レノン、リンゴ・スター、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンみたいなバンドっていないよね。mtvBANDはビートルズみたいなバンドを作りたいから、あとはジョージ・マーチンみたいなプロデューサーを待ってるところもあるし。
澤部:あのバンドに関して言うと、The Who的なもののような気がしますけど(笑)。
豊田:とにかく澤部くんが思ってないところでなにかの事件が起こるときがチャンス!
澤部:そう、そこなんですよ。その時がきたら迷わずにいきます!
豊田:そして日本の音楽全体が成熟していってほしいね。もっともっと面白くなるように。
(構成=久蔵千恵/写真=山本華)
■パラダイス・ガラージ リリース情報
『愛と芸術とさよならの夜』
発売:10月12日(金)
価格:¥ 2,400+税
<収録楽曲>
1. paradise garage band
2. 果てるなどして
3. やられちゃったおじさん
4. ぼくは愛していた
5. マクドナルドの前で待っている
6. 居酒屋たよこ
7. 飛田の朝ごはん
8. TOKYO GIRL'S BLACK BAY
9. ソフトランディング
10. 君の往く道、私の喫茶店
豊田道倫 Tumblr
『愛と芸術とさよならの夜』の紹介ページ
■豊田道倫 ライブ情報
MT & HEADZ present
豊田道倫『サイケデリック・ラブリー・ラスト・ナイト』発売記念GIG
出演:豊田道倫 & mtvBAND
2018年12月29日(土)
TSUTAYA O-nest
開場18:30/開演:19:00
前売3,000円+1D/当日3,500円+1D
<チケット>
ぴあ(Pコード:136-981)、ローソン(Lコード:70166)、e+
O-nest店頭
HEADZ (info@faderbyheadz.com) (前売予約)
※入場は前売チケット購入者、前売予約、当日券の順
お問い合わせ:HEADZ
■スカート リリース情報
メジャー2ndシングル『君がいるなら』
2019年1月23日(水)
<収録曲>
M1.君がいるなら(映画『そらのレストラン』主題歌)
M2.花束にかえて(映画『そらのレストラン』挿入歌)
M3.すみか
価格:¥1,200+税
※紙ジャケ仕様予定
<CDショップ早期予約・購入特典>
スカート近年のライブ音源を集めたブートレグCD
※特典タイトル、収録曲未定
■スカート ライブ情報
『Major 1st Single「遠い春」リリースツアー
"far spring tour 2018"』
11月18日(日)宮城・仙台enn 2nd
開場17:30/開演18:00
11月25日(日)札幌・KRAPS HALL
開場17:00/開演17:30
12月2日(日)福岡・INSA
開場17:30/開演18:00
12月14日(金)大阪・Shangri-La
開場18:30/開演19:00
12月16日(日)愛知・名古屋TOKUZO
開場17:30/開演18:00
12月19日(水)東京・キネマ倶楽部
開場18:00/開演19:00
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