スカート澤部渡が語る、メジャーデビューまでの音楽史「同じようにやり続けられるのは価値がある」

スカート澤部×姫乃たまが語る“音楽史”

 テン年代の東京インディーズシーンを牽引し続けてきた澤部渡さんのソロプロジェクトでありポップバンドの「スカート」が、清涼感と甘いやり切れなさ、愛くるしいルックスを持って、今秋、メジャーシーンに進出していきます。

 今回リアルサウンドでは、澤部さんに単独インタビューを行い、10月18日にリリースを控えたメジャーデビューアルバム『20/20』の全曲解説とともに、これまでの音楽史を振り返ります。(姫乃たま)

「自分が歌わないといけないんだ」と気がつくように思い始めた

澤部渡、姫乃たま

ーー100億回言われたと思いますが、メジャーデビューおめでとうございます!!

澤部渡(以下:澤部):いえーい!(ぱちぱちぱち)

ーーいえーい!(ぱちぱちぱち)……どうなんですか?!

澤部:まだアルバムがリリース前なので実感がないんですけど、本当に嬉しいです。

ーーこんなに周囲から祝福されているメジャーデビュー、素晴らしいです。

澤部:なんだか否定的な意見が全然なくて、強いて言えばドラム(サポートメンバーの佐久間裕太)に、「見損なったよ!」って言われました。「気合の入ったインディー野郎だと思ってたのに!」って(笑)。

ーーにゃははは! 澤部さんって活動当初から関係者が「子供らしくない!」って叱るくらい音楽に詳しくて、でも澤部さんが作る音楽は新しいじゃないですか。それが不思議で。

澤部:いや、これがまったく自覚がなくて、一応新しいものは作ってるつもりなんですけど、古い音楽の焼き増しだと思われててもおかしくないなと思ってます。

ーーえっ、意外です。今日は澤部さんの曲作りのメソッドを聞こうと思っていたのですが、小学6年生でギターを手にした時のことから、音楽について聞いていってもいいですか。

澤部:自分の声がコンプレックスだったから、最初はインストばっかり作ってました。それがどういうわけか、自然と自分が歌わないといけないんだって気がつくように思い始めたんです。

ーー歌詞も書きたい欲求があったのでは。

澤部:詩はすごい書いてました。絶っっ対に読み返したくないですけど。

ーーにゃははは! 当時は自分が書いた曲を人に歌ってもらう選択肢はなかったんですね。

澤部:友達もそんなに多くなくて、特に音楽を志してる人はいなかったから、無理やり歌わせるのも違うなと。大学3年生で(キーボードの佐藤)優介に会うまで音楽活動は孤独だったかな。高校生から主にずっと宅録してました。でもココナッツディスクの池袋店で店長やってる中川くんっていう人がいて、よくレコードの貸し借りしてました。はちみつぱい買ったから、それ貸してとか。

ーー澤部さんは音楽も漫画も大好きですけど、小説や映画も好きですか?

澤部:好きですけど、音楽とか漫画に比べるとペースが遅いです。でも小説も映画も自分の中にずっとある大事な作品はあります。ボリス・ヴィアンとか、高校生の時に読んでなかったら人生がもっと違っただろうなって。yes,mama ok?の金剛地武志さんに勧めてもらったフランスの小説家で、『うたかたの日々』『日々の泡』とか出版社によってタイトルが違うんですけど、ひどい話が多くて、そんなのばっかり読んでた気がします。

ーー今回のアルバムタイトル『20/20』も鴨田潤(イルリメ)さんの小説『てんてんこまちが瞬かん速』から取られていて、なんというかスカートの音楽にはセンスよく様々な文化の要素が混ざっているので、流しているだけで生活の文化度が向上するのを感じます。ほとんどアロマディフューザーと同じ。

澤部:はははは! 嬉しいです。

スカート『20/20』

ーー『20/20』のジャケットは前作の『CALL』に引き続き、久野遥子さんが描かれているんですね。

澤部:これまで一作ずつ違う漫画家さんにお願いしてきたので、初めての二作連続です。

ーーインディーズでリリースされた前作と、良い意味で地続きの意味があるのでしょうか。

澤部:それと、『CALL』ともまた違う音源が作れたっていう気持ちもあります。それなら久野さんにもう一度頼むのはすごくいいことなんじゃないかなって思えました。

ーー『CALL』を越えていく制作は大変だったと思いますが、良い意味で今までと変わらず、同じ道でまた一歩を踏み出していて素敵です。久野さんの線も素敵ですよねえ。

澤部:ぺたっと色が塗られているようで、実は繊細に塗られているところとか、すっごい良いですよね。『CALL』のジャケットはダークな雰囲気だったので、今回は開けた感じにしたくて、この絵をお願いしました。

ーー2曲目に収録されている「視界良好」がビジュアルイメージのキーになってるんですね。せっかくなので是非アルバムの1曲目から、色々とお話聞かせてください。

澤部:1曲目の「離れて暮らす二人のために」は、映画(『PARKS パークス』)の挿入歌として書いた曲です。

ーー撮影中の映像を観てから書かれたんですか?

澤部:脚本を読んで書きました。どのシーンで使われるかだけ教えてもらって、作詞もしたんですけど、緊張しましたね……!

ーー詞先ですか?

澤部:曲が先です。今回、詞先で書いたのは「わたしのまち」だけでした。

ーーたしかに「わたしのまち」だけ、ほかの曲と歌詞の質感が違いますね。

澤部:制作の途中にアルバム全体を見ていたら、自分視点の私小説っぽい曲があんまりなくて、絶対あったほうがいいと思って書き始めました。

ーーアルバム全体のコンセプトは最初に設定されてましたか?

澤部:これが毎回ないんですよ。僕の場合はコンセプトを設けることで、不自由になっちゃう気がしていて……アルバムってもっと雑多なものだと思ってるので。

ーーなるほど! 澤部さんは作詞も作曲もされるので、統一感が大幅にばらけることはないんですよね。2曲目の「視界良好」はアルバム全体の開けたムードを保っている重要な曲ですが、何曲目くらいに完成しましたか?

澤部:遅かった気がします。

ーー不安でした?

澤部:不安でしたねー……。ただでさえリード曲がない状態だったから、結構頑張りました。でも頑張った曲が上手くできたことで、もうちょっと音楽やれそうっていう自信になりました。「CALL」(アルバム『CALL』の表題曲)も遅く完成した記憶があります。後ろから数えたほうが早いくらい。

ーーどうやってこんなに最高な曲ができたんですか。

澤部:ずっとギターのリフだけがあってどうしようか悩んでて、メンバーに相談したんです。たまにスタジオで(サポート)メンバーに、「前奏だけ出来たから聴いてくれー」ってお願いする時があるんですけど、「視界良好」の時は(パーカッションのシマダ)ボーイが助けてくれましたね。リフを弾いたら、CDに収録されているのと同じようにパーカッションを入れてくれて、「これだ!」って確信しました。

ーーリフだけがあって、パーカッションから曲ができていくって面白いですね。

澤部:それに続いてみんなが演奏に入ってきて、すっとAメロに入れたんですよ。あっ、これだ……と思って。

ーーなんですかそのバンドっぽいエピソードは! かっこいい!

澤部:バンドっぽいでしょう! それで曲はできたんですけど、作詞が大変だった……。

ーーあら、どの辺が……?

澤部:ケータイに歌詞のネタ帳があるんですけど、そこに書いてある文章がもう暗くて……。「視界良好」は今までにない明るい曲調だったので、どの言葉も合わなくて、普段はメモに書いてあった文章を中心に置いて、そこに合わせて言葉を足す形で作詞していくんですけど、ゼロから作らないといけなくなったんです。

ーーほああ、いつもはそうやって作詞されてるんですね。

澤部:ちょうど福岡でライブがあって、僕だけ一日多く滞在していたので、ホテルでカンヅメになって頭から作詞したんですけど、3、4時間かけて、4行しか書けなくて。

ーーうわあ、辛い。

澤部:それをリハーサルの時に佐久間さんに話したんですよ。「4行しか書けなかった。もっと作詞早くなりたい」みたいなことを。そしたら佐久間さんが、「一生歌うかもしれないんだから、3、4時間で4行進んだらいいほうじゃん」って言ってて。

二人:いいこと言うーーー!

澤部:ですよねー。

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