『愛と芸術とさよならの夜』インタビュー
豊田道倫×澤部渡が語る、パラダイス・ガラージのポップ性「ドキドキする感覚が久々に戻ってきた」
自分の好きなことにしか興味がない(豊田)
澤部:あと「飛田の朝ごはん」で月亭可朝さんの留守番電話の声が聞こえますけど、これは? その前後がわからなくて読み取りきれなかった部分がちょっとあって……。
豊田:なにもないよ。思いつきで入れてみて「入ったなあ」って。この曲は編集なしでエンディングまでずっと弾いてるの。
澤部:そうなんですか!
豊田:それでどうしようかなーと思って。なんも考えずに編集もしないでポンポンっと入れて、終わった後のタイミングとラップがハマったから、「ああ、もうこれいいな」と思って。あんまり合わせるタイプのものじゃないから。
澤部:感覚的な……。
豊田:やってみて合わなかったらもうやめるしね。まあいいちゃうんって。まあでもアルバムの中では唯一自分以外の声だからね。
澤部:そうそうそう。だから余計ドキッとして、一体どういう意味合いがあるんだろうと……。
豊田:意味なんてないよ。
澤部:わははははは。
豊田:音楽界隈では1年前まで月亭可朝さんとしか仕事してなかったな。まわりからは「なんで可朝さんとやってんの?」って言われたりしてたけど。俺は自分の好きなことにしか興味ないし、自分の好きなことにしか身体がいかないだけ。可朝さんって関西弁だけど、父親と母親がこっちの人なの。可朝さんも生まれは実は葉山。だから大阪だけどちょっと上品でしょ。
澤部:ほかの人が下品ってわけではないですけど、たしかにコードのループの中にすごい馴染むというか。
豊田:桂米朝のさすがの弟子だよね。芸人さんは表向きとふだんが変わる人もいるらしいけど、可朝さんはなんも変わらなくて。ずっと「さん」づけで呼んでくれてね。可朝さんが亡くなられてしばらく落ちこんでたけど、「豊田さん、そろそろ自分のこともやってくださいよ」と言われてる気もしてね。ちょっとやろうかなあと思ったのはあったかもしれない。
澤部:今回しばらく使っていなかった名義を改めて使うことにして、昔の自分の作品は参考にしたりしたんですか?
豊田:しないね。ほとんど手元にないし。澤部くんは自分の作品は聞くの?
澤部:僕は聞いちゃうんですよね。
豊田:聞いちゃうんだ。いいね(笑)。今回のは聞けるほうだけど、前のは聞けないんだよね。怖くて。
澤部:豊田さん、またパラダイス・ガラージはやるんですか?
豊田:レコードはやらないと思うよ。
澤部:えー! ほんとですか! もったいない。
豊田:じゃあ……やろうか(笑)。
澤部:やってください! やってください! これは1枚で終わらせたらもったいないと思うんですよ。
豊田:あとは堕ちるだけ(笑)。もう無理だね。
澤部:それぐらい濃厚なアルバムだし、これ以上パラダイス・ガラージって名称が似合うものが今後できるかというとわからないですけど……。この間の『愛と芸術とさよならの夜』発売記念コンサートで、昔の曲を「City Lights」と「スーパーマーケットハニー」と「I love you」しかやらなかったじゃないですか。しかも、ときどき柴田聡子さんが入ったりしながら、「I love you」にむかって4人の男たち(豊田、久下惠生、宇波拓、柳澤一誠)が血反吐を吐きながら登っていくような壮絶なものに見える瞬間があったんです。すごいポップなライブなのに。あれを見たら、さっきあとは堕ちるだけとおっしゃってましたけど、正直堕ちていく豊田さんも見たくなる(笑)。
豊田:なんだよそれ。もう堕ちきってるからね(笑)。
澤部:それと最近の豊田さんの歌ってフォークソングとまでは言わないけれど、生活と地続きな歌が少し多かった気がして。今回の「居酒屋たよこ」も一見フォークソングかなと思うんですけど、〈君が〉の部分の言葉を詰める感じとかがめちゃくちゃポップですよね。
豊田:……そうだっけ? なんも意識してない。
澤部:それが豊田さんのポップセンスなんです。『実験〜』でも「中之島図書館」が入っていたりとか、少なからずアコギ1本で歌っても成立する歌が入っていた印象もあったので、それを踏襲してるのかなともちょっと思いましたね。
豊田:まあけっこうM6「居酒屋たよこ」とM7「飛田の朝ごはん」は考えたね。選曲からはずしてもいいんちゃうかなって。リズムは入ってないけど、隙っていうか、30分のアルバム全部にリズムが入っていてもしょうがないし、ちょっと抜こうと思って。
澤部:その6、7を抜いたらそれはそれで濃密なアルバムになったと思うんですけど、あえてそれをやらないで隙を作ったというのも、今の時代だとあんまりやれないことだと思うのでかっこよく見えました。
豊田:あとはライブで歌ってるときに客が座れる曲というのも考えたかもね。うちのファン、本当に厳しいから。大阪行っても怖い顔して見てるんだよ。なんで俺東京からライブしに来て男たちに睨みつけられてるんだろうって(苦笑)。なかなか拍手もしてくれないし。
澤部:僕がシアターPOOに足しげく通ってたときも、そういう雰囲気でしたよ(笑)。でも、豊田さんのライブに行くとかわいくて若い女の子がちょいちょいいるっていう現象があるじゃないですか。アルバムのレコ発にもけっこういて、豊田さんのセクシーさは健在だなって思いましたね(笑)。