演歌/歌謡曲シーンが遂げつつある独自進化 純烈、美良政次、藤井香愛ら新世代歌手の台頭を読む
9月に放送された『演歌の乱』(TBS系)で、若手演歌歌手の徳永ゆうきが米津玄師の「Lemon」を歌い、ネットでは「演歌の底力を観た」「本家を越えた」など、その歌の上手さと表現力の高さが話題になった。演歌はお年寄りの聴くものと、一般的にはくくられがちだが、演歌の道を志す若者は今も途絶えることなく、ビジュアル系演歌歌手の美良政次、特撮系出身俳優中心のグループ・純烈、元『egg』読者モデルの藤井香愛など個性的な若手が台頭し、演歌/歌謡曲のシーンに新しい風を吹かせている。
他にも、2012年にデビューした3人組で、シンガーソングライターばりにストリートライブを重ねて、じわじわとファンを増やしているはやぶさ。韓国出身の爽やかイケメンで、料理のレシピを多数公開し、その腕前も話題のパク・ジュニョンなど、今では個性豊かな演歌歌手が百花繚乱だ。今、演歌に何が起きているのか?
日本の伝統を保ちながら新しさを求めて融合する音楽
そもそも演歌というジャンルは、実はそれほど歴史が古くはなく、戦後の歌謡曲が発展する中で生まれている。音楽的な特徴としては、ペンタトニックスケール(ヨナ抜き音階)と呼ばれるコードが多く使われていることくらいで、定義があいまいであるぶん、非常に懐が深く柔軟な音楽だとも言える。ちなみにこのコードは、日本古来の民謡などにも共通することから、日本人が聴くと「和風だ」とか「懐かしい」と感じる人が多く、現代ポップスでも米津玄師をはじめ、きゃりーぱみゅぱみゅや星野源などの楽曲にも多く見られる。つまり表現方法やスタイルの違いこそあれ、演歌の中にも、若者に浸透しヒットを生むポテンシャルが秘められているということだろう。
実際に70〜80年代には、八代亜紀「雨の慕情」、山本譲二「みちのくひとり旅」、吉幾三「雪國」、石川さゆり「天城越え」、日野美歌「氷雨」、テレサ・テン「時の流れに身をまかせ」など、演歌のヒット曲が多く誕生し、子どもから大人まで世代を越えて、誰でも口ずさめたものだ。中でも森進一「冬のリヴィエラ」は、日本のポップス/ロックシーンを牽引した、元はっぴいえんどの松本隆と大瀧詠一が作詞作曲を務めたことで、演歌に革命を起こした。1989年には、秋元康の作詞、「すみれSeptember Love」のヒットで旋風を巻き起こした一風堂の見岳章の作曲によって、美空ひばりの名曲「川の流れのように」が生まれ、今も伝説のように歌い継がれている。
2000年代に入って以降は、声優アーティストの水樹奈々が演歌歌手を志していたことがファンの間で有名で、元AKB48の岩佐美咲もアイドルから演歌歌手に転身した。さらに演歌の大御所歌手=小林幸子は、ニコニコ動画などネットの世界でラスボスと呼ばれて人気を集め、新天地を見いだした。最近では山内惠介が、平井堅や東方神起を手がけた松尾潔や松井五郎を作詞に迎えて楽曲を発表。アイドル歌手から演歌歌手に転身した丘みどりが、昨年末にNHK『紅白歌合戦』初出場へと上り詰め、一躍時の人になったことも記憶に新しい。つまり演歌とは、日本の伝統や昭和の香りを保ちながら、常に新しさを求めて融合していく音楽だと言えるだろう。