演歌/歌謡曲シーンが遂げつつある独自進化 純烈、美良政次、藤井香愛ら新世代歌手の台頭を読む
新しい世代に演歌を広めるキーワード
そんな演歌の枠を越えて、ひときわ熱い視線を集めているのが、以下の3組だ。まず“純烈”は、元戦隊ヒーロー出身の俳優を中心に構成された5人組グループ。平均身長183センチのイケメン揃いで、5人組という人数を活かしたコーラスワークと、元戦隊ヒーローならではのダイナミックなパフォーマンスが持ち味で、近年増加するボーイズグループと遜色のない存在感を発揮している。2016年にシングル『幸福あそび/愛をありがとう』が、オリコン週間演歌・歌謡曲ランキングで1位を獲得。昨年の『愛でしばりたい』は、オリコンデイリーCDシングルランキング1位獲得。2月にリリースした最新曲「プロポーズ」は、メンバーの小田井涼平とLiLiCoの結婚というトピックも手伝って話題を集め、夏には同曲の『感謝盤〜紅〜』と『感謝盤〜白〜』をリリースした。2010年のメジャーデビューから10年越しの『紅白』出場という、悲願の達成に向けて期待が高まっている。
次に、6月に『未練橋』で演歌歌手としてデビューした美良政次。元ビジュアル系という異色の存在で、かつてGACKTも在籍したMALICE MIZERのリーダーManaが結成したバンドMoi dix Moisでボーカルを務め、海外でも人気を博した実力者だ。「未練橋」は、他界した父親への想いを込めて自身が作詞を手がけた。ヴィジュアル系バンドで培った低音ボイスとビブラート、メランコリックなギターを中心にした泣きのバンドサウンドは、演歌のテイストがありながら、ロックバラードにも通じるエモーショナルさで演歌に馴染みのない世代にも聴きやすいだろう。作曲をベッド・インや96猫などを手がける黒崎ジョン、サウンドプロデュースを女優・知英としても活躍する元KARAのJYが務めていることも注目ポイントだ。和服をモチーフにアレンジした衣裳も艶やかで、ビジュアル系の持つ美と演歌の美が、見事に融合されている。
そして、新世代の歌謡歌姫として注目を集めているのが、高校生時代にギャル雑誌『egg』の読者モデルを務めていた藤井香愛だ。19歳の頃には、東京ヤクルトスワローズ公認のサポーターダンスボーカルユニット・DAD’Sのメインボーカルとして活動した経歴を持つ。昨年開催されたオーディション『徳間ジャパンコミュニケーションズとラジオ日本主催の演歌・歌唱曲新人アーティストオーディション「歌姫、歌彦を探せ!!」』で、2500名の応募者の中からファイナリスト12名に残ったことでも、実力は折り紙付きだ。7月にリリースされたデビュー曲「東京ルージュ」は、低音のハスキーボイスが印象的で、大人の女性としての色香が、そこはかとなく漂っているのが魅力的だ。
“若者の演歌離れ”と言われるが、果たしてそうなのだろうか? かつての日本の一般家庭は、ちびまる子ちゃんの家のように、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らす家庭が多く、家庭内ではさまざまな世代の音楽を共有することができていた。その中には、もちろん演歌もあったわけだが、核家族化や個食化が進んだことで、演歌と触れる機会が極端に減ったことが、若者が演歌を聴かないことの一因になった。つまり若者は演歌から離れたのではなく、そもそも演歌に触れたことがないということだろう。前述の通り演歌はヒットのポテンシャルを多く秘めている。聴けばきっと日本人のDNAが揺さぶられ、その魅力に気づくことができるはず。あとは、触れるきっかけ。演歌を聴かない世代との接点になる、インパクトのあるフックをどれだけ持てるかが、新しい世代に演歌を広めるキーになるだろう。
(文=榑林史章)