V系シーンに“メンヘラ”ブーム広がる ユーモアと冷静な視点を持つバンド、甘い暴力の魅力
雑誌『ROCK AND READ 079』に、「ヴィジュアル系は今『メンヘラ』が完全なるトレンドとなっている」(『ROCK AND READ』079/2018年9月18日発行)とあったが、近年、ヴィジュアル系には、「メンヘラ」「病み」といったワードをストレートに曲名や歌詞に使うバンドが多い。中でも、甘い暴力というバンドは、バンギャルのちょっと複雑な心情や、バンドマンとファンの依存関係など、扱いにくいテーマを取り上げながらも、表現にユーモアが感じられ、また、ヴィジュアル系を俯瞰で捉えた視点もあり、興味深い。本稿では、「メンヘラ」ブームの中でも気鋭のバンド・甘い暴力を紹介する。
近年の“メンヘラ”ブーム
元来、ヴィジュアル系には、美しいものや、激しい音楽が好きという嗜好を持つ者を惹きつけるだけでなく、重く痛々しい歌詞が、傷つきやすく繊細なリスナーの内面に深く寄り添うという面もある。寂しがりやで構って欲しい心を素直に表せない、不器用なリスナーたちの受け皿になっているのだ。
2010年代のヴィジュアル系シーンでは、そのような、いわゆる“病んでいる”面を、包み隠さず表現した作品が目立つ。代表的なものが、R指定の「アイアムメンヘラ」(2012年)、「青春はリストカット」(2013年)、「病ンデル彼女」(2014年)だろう。このあまりにもストレートな曲名と歌詞は、多くのバンギャルたちの共感を得た。以降、the Raid.の「病んでる君に贈る歌」(2016年)や、0.1gの誤算「溺愛ヤンデレボーイ」(2017年)、「有害メンヘラドール」(2016年)、そして甘い暴力の「ガチメンヘラ」(2017年)など、“メンヘラ”“病み”といったストレートな言葉を使うバンドが増えた。
“メンヘラ”をユーモラスに表現する甘い暴力
甘い暴力は、ex.少年記のメンバーを中心に、2016年に結成され、関西を拠点に活動を続けている。彼らの特徴は、“病み”や“メンヘラ”をテーマとしてはいるが、深刻になりすぎず、かといってネタまではいかないギリギリのラインで、ユーモラスに昇華している点だ。
心配されたい 構ってもらいたい
ちやほやされたい
嫌だ嫌だ あいつの本気の病んでるアピール
「ファッションメンヘラ」(2017年)
例えば、この歌詞は、まさに「病んでいる」心を歌った曲ではあるが、そこに、〈嫌だ嫌だあいつの〜〉というツッコミの視点もあるため、思わずクスッと笑えてしまう。この曲には、“病んでいる”者の心情と、それを嫌悪する者の両方の視点があるのだ。その、嫌悪する者の視点は、言い換えれば、ヴィジュアル系を俯瞰する視点とも言えるだろう。
また、バンド名も示唆に富んでいる。“甘い暴力”というと、舘ひろしがいたロカビリーバンド・クールスの同名曲を思い浮かべる人もいるだろう。クールスの「甘い暴力」が、何も持たない若い男が、彼女への恋心を歌った曲だとすれば、ヴィジュアル系バンドの甘い暴力は、バンドマンとバンギャルの関係を“甘い暴力”と揶揄しているように感じる。ライブでは、ヒモのバンドマンとそれに貢ぐバンギャルの寸劇を披露して、フロアを笑わせることもあるし、「君、依存、タトゥー」(2017年)で描かれる、悪い男だと分かっていながらも、その関係に依存する女子の姿は、バンドマンとバンギャルの複雑な関係を彷彿とさせる。