8thアルバム『IN-FINITY』インタビュー
韻シスト BASI&TAKUが語る、結成からのブレない核「20年経っても根本的な気持ちは変わらない」
韻シストが、8thアルバム『IN-FINITY』を8月1日にリリースした。
生演奏ヒップホップバンドのパイオニアとして、今年で結成20周年を迎えた韻シスト。6月にはChara、kenken、フジファブリック、PUSHIMらをゲストに迎えたライブ『20th ANNIVERSARY ~NeighborFood SPECIAL3DAYS~』をなんばHatch(大阪)で3日間に渡って開催し、ファンやアーティストと共に20周年の祝杯をあげたばかりだ。
リアルサウンドでは、メンバーのBASI(MC)とTAKU(Gt)にインタビュー。結成から現在までの歩み、韻シストにとって転機となった瞬間を振り返りつつ、さらなるスキルの向上を突き詰めたという『IN-FINITY』の制作秘話、そして20周年以降のビジョンについて語ってもらった。(編集部)
「夢中になってたら気づけば20年経っていた」(BASI)
ーー韻シスト結成20周年おめでとうございます。まず20年という節目を迎えたお気持ちを聞かせて下さい。
BASI:20年続くとは思ってなかった……というより、長く続ける、続けないということ自体をあんまり意識してなくて。ただ、1998年に結成してから変わってないのは、ただヒップホップが好き、バンドが好きっていう気持ちですね。そしてプレイヤーとして、ええライブ、ええ作品を積み重ねて、それを生み出すことに夢中になっていたら、気づけば20年経っていたというのが、正直な気持ちです。だから、続けることがテーマではなかったし、周りから20年経ったんだねって言われて、やっとそこで一つの節目に立っていたことを認識するというか。だから達成感も強くはないし、ここで心が落ち着く感じもないですね。
ーーある意味、初期衝動のまま、現在に至っているというか。
BASI:98年にヒップホップがオモロイな、バンドでやってみようかと思って結成したところから、根本的な気持ちは変わってない。そして、良いライブをしてお客さんを楽しませよう、良い音源を作ってリスナーに楽しんで貰おうというのは、デビューの時も、最初にメジャーに行った時も、インディーズでリリースし始めた時も、 <Groovillage>からリリースしてる今も、変わっていない。それが韻シストの連続性になってると思いますね。でも、その中で得たスキルや技術、知識の蓄積は、20年の中で蓄えられて、いまのバンドに反映されてると思います。
ーーTAKUさんは、まずリスナーとして韻シストに触れ、その後に途中加入されましたね。
TAKU:だから、今回のインタビューで「20周年ですね」という話になると、「俺、途中加入やから、20周年について話すのはなんかセコない?って。僕は入って12、3年なんで、7~8年分、なんかズルしてる感じになっている(笑)。
ーーそんなこともないと思いますが(笑)。その意味では、リスナーとメンバーという両面から韻シストを見てきたことになりますね。
TAKU:そうですね。でも韻シストに加入してからの時間で考えると、僕も夢中でやってきたて山あり谷ありはありましたね。例えば、2010年にMCのFUNKYMICとサックスのKENJIが抜けた時は、ライブで出来なくなった曲もあったし、これからどうなるんやろってリスナーも心配していたと思う。自分達としても「これはピンチやな……」っていう、大変な雨の時期やったんですね。でも結果、いま振り返ると、そこで雨降って地固まって、加速していったんですよ。
ーーそれは具体的にはどんなタイミングですか?
TAKU:2011年に『BIG FARM』を作ったときですね。そこで新しい韻シストが始まったし、そこでページが変わったと思う。
ーーそれはリスナーとしても本当にそう思いますね。韻シストのヒストリーを考えると、『BIG FARM』以前/以降という区切りは絶対にあると思う。
TAKU:間違いないですね。いまライブに来てくれているお客さんも、9割ぐらい『BIG FARM』以降のリスナーだと思いますね。
ーー2008年の『GOURMELOGIC』から11年の『BIG FARM』までは、リリースが3年開いたのに加え、メンバーの交代もあり、ライブはあったものの、リスナーとしては正直、停滞期だと思っていて。だから、『BIG FARM』がリリースされた時に、「韻シストはまだ続くんだ」と思ったんですよね。
BASI:リアル意見ですね(笑)。
ーーでも『BIG FARM』を聴いて、韻シストはこう変わったんだとも思ったし、内容が非常に良かった。ここから改めて、リスナーとして韻シストを改めて聴き始めた感触もありました。
BASI:グループとしても、20年の中で一番大きな分岐点だったと思いますね。実は、『GOURMELOGIC』から『BIG FARM』の間に、アルバムを1枚作ってるんですよね。でも、それはリリースもされなくて。
ーー完全にお蔵になってるアルバムがあるんですね。
BASI:メンバーの脱退で出す訳にもいかなくなって。すごい労力かけて作った1枚が出されへんようになって、バンドの形も変わって……っていう、状況と展開のヘビーさに、心と身体のバランスがエグくなってしまって。自分でも“危なかった時期”って言ってるんですけど、どんどん悪い方に考えてしまって、バッドマインドに支配されてたんです。しかもそういう状況だから、他の誰がまた抜けてもおかしくない雰囲気もバンド内にあって。
ーーその中で作られたのが『BIG FARM』だったと。
BASI:状況は最悪だったけど、バンドが好きで、ヒップホップが好きで、音楽が好きでっていう気持ちは、みんな変わらずに、ピュアに持ってたんですよね。だから、5人の意識が「やるしかない」って固まってからは、制作は早かったです。実際、『BIG FARM』は、今までの韻シスト作品の中で、一番早く出来たアルバムなんですよ。作業でいったら、ひと月ぐらいで作ってるんですよ、実は。
ーー「やるしかない」と思えたのは?
BASI:「やるしかない」って気持ちは、ある種、ネガティブを反転させた気持ちだとも思うんですよね。ネガティヴが過ぎて、そういう気持ちになった部分もあると思う。
ーーリリースして心境は変わりましたか?
BASI:完成した時は、朦朧とした気持ちの中で作った感じもあったけど、やりきったという手応えもあって。そして『BIG FARM』を出したら、リスナーからもミュージシャンからも反響があって、いろんなところから声をかけてもらえるようになって。そこで意識が変わった部分はありますね。だから、意識が変わったとしたら、皆さんの温かいリアクションで変わっていったんだと思います。
TAKU:『BIG FARM』を作って、韻シストの活動が“楽しい”に変わったんですよね。雰囲気がまず明るくなったし、スタジオに入る前は「今日はどんなんなるんやろな」ってワクワクするし、終わったら「オモロかったな~」って。曲を作るのも、それまでは「じゃあ次の曲のコンセプトは……」て重くなりがちだったのが、「こういこうや!」でポンポン決められるようになって。それまで決まるまで1時間かかってた事柄が、冗談抜きで1分で終わるようになったり。その意味でも、すごく健康的になったんですよね。フットワークが軽くなったというか。いま振り返ると、それが今の韻シストに繋がってると思います。
BASI:ホンマに、韻シストの歴史の中でも、大きなターニングポイントだったと思いますね。『BIG FARM』までは“会話してサウンドを決める”だったのが、以降は“サウンドで会話する”という感じになったと思います。ラップとバンド、楽器と楽器、サウンドとサウンドで会話するように切り替わったと思う。そこにプラスして、陽気なバイブスが広がっていって。「ちょっと沖縄で録らへん?」みたいな。そういう陽な部分がどんどんデカなって、いまに至ってる。