miwaのソングライティングはどんどん“自由自在”に メロディやコードから楽曲面の変化を辿る

miwa楽曲面の変化を辿る

 2010年にデビューを果たし、平成生まれのシンガーソングライターとして初のオリコンアルバムチャート1位を獲得するなど、大きな支持を集めてきたmiwaが、自身初のベストアルバム『miwa THE BEST』をリリースした。

 2枚組となる本作には、デビュー曲「don't cry anymore」から最新シングルまでの全てのシングル曲はもちろん、未発表の新曲なども収録。「ギター1本だけで47都道府県を制覇する」という目標を掲げ、デビュー直後にスタートした『acoguissimo』ツアーが、今年6月10日の神奈川県・横浜アリーナ公演にてついに「完走」したこのタイミングでのベスト盤リリースは、彼女にとって「新たな章」へ向けての総括といえるものだろう。

 リアルサウンドではちょうど2年前、彼女が通算20枚目のシングル『Princess/シャンランラン』をリリースしたタイミングで、表題曲をはじめデビュー曲「don’t cry anymore」や、3枚目のシングル「chAngE」など代表曲5曲をピックアップして、コード進行やメロディラインなどソングライティングの魅力について分析した(参考:miwaの楽曲は「ハッとする仕掛け」がポイント?)。今回は、本作『miwa THE BEST』の中から「Princess」以降の楽曲を中心に、彼女の作風がどのように変化・進化したのかを確認していきたい。

 まずは通算23枚目のシングル「We are the light」から。この曲は、松田聖子&クリス・ハート「夢がさめて」で日本レコード大賞企画賞を受賞したほか、NEWSや乃木坂46、WHITE JAMなど数多くの楽曲を手がけてきたヒロイズム(her0ism)と、Tova Litvinとの共作によるもの。シンセサイザーによるシーケンスフレーズと、力強い打ち込みキックのサウンドが印象的なエレクトロチューンで、コード進行は基本的にE - F# - G#m - BonD#の繰り返しとなっている。Bをキーにしたいわゆる循環コードだが、これをAメロ、Bメロ、サビと全てに用いているのだ。

 以前のコラムで筆者は、miwaの楽曲の特徴について、以下の3点を挙げた。

(1) Bメロからサビへの唐突な転調(「chAngE」、「片想い」など)
(2) サスフォーとアドナインスの浮遊感(「don’t cry anymore」、「ミラクル」など)
(3)オーギュメント、マイナーフラットファイブなどの不安定な響き(「君に出会えたから」、「Princess」など)

 つまり、シンプルなメロディに対してコードの響きや展開によって変化をつけていくというケースが多かったのだが、この「We are the light」は逆に、繰り返されるコード進行の中で、メロディを様々に展開させている。あえて乱暴な言い方をすれば、「洋楽っぽい」「ダンスミュージックっぽい」作りになっているのだ。

 実は、この曲と非常によく似た構造を持つのが、2013年4月にリリースされた「ヒカリヘ」だ。フジテレビ系・月9ドラマ『リッチマン、プアウーマン』主題歌であり、彼女がNHK紅白歌合戦に初登場した時に歌った曲。それまでになかったアプローチで、本人も「miwaの曲として受け入れてもらえるかドキドキした」とコメントしていたが、結果的にオリコン週間チャートで自己最高となる4位を記録するなど、彼女の代表曲となった(もちろん、本作『miwa THE BEST』にも収録されている)。

 「ヒカリへ」は、キーがG。AメロとBメロがCadd9 - Gの繰り返しで、サビはC△7 - D - Em7- G - C△7- D- Em7- Em7となっている。そう、サビのコード進行は「We are the light」も「ヒカリへ」も、「Ⅳ - Ⅴ -Ⅵ -Ⅰ」という循環コードなのだ。シンプルなコード進行だけに、メロディにはテンションノートを使って浮遊感を出しているのも2曲に共通した特徴である。例えば「We are the light」のAメロには9th、Bメロには6th、サビには4thの響が用いられ、同じコード進行なのに、景色がガラッと変わったように聴こえるのだ。実は「ヒカリへ」でも、サビのEm7のところで9thのノート(ファ#)を使って聴き手をハッとさせていた。つまり「We are the light」は、「ヒカリへ」の浮遊感をさらに突き詰めた楽曲といえるだろう。

 2018年5月9日にリリースされた、通算24枚目となるニューシングル「アップデート」は、これまでのmiwaらしい楽曲。サビから始まるが、キーはFで、F- F - ConE - A - Dm7/FonC - B♭ /FonA - Gm7- Gm7onC /C - F - ConE/A - Dm7/FonC - G7 - Gm7/FonA - B♭△7/FonA - Gm7/ FonA -E♭。1段目と2段目でメロディは同じだが、コードの進むスピードが変わったり、AやG7などダイアトニックから外れたコードを挿入したり、出だしの30秒でトリッキーな仕掛けを散りばめる。続くAメロで、キーがD♭へといきなり転調。コード進行は、前段がD♭ - D♭ - G♭△7 - G♭△7 - B♭m7 - E♭7 - A△7 - A♭で、後段がD♭ - D♭ - G♭△7 - Cm7(-5) /B♭m - Cm7(-5)/ B♭m - E♭onG / E♭ - A♭sus4 - A♭となる。かなり目まぐるしくコードチェンジをする上に、掛け合いのコーラスがまるでクイーンのようだ。さらにエンディングでは、サビのキーが半音上げ。シンプルな「We are the light」の次に、こんな「全部のせ」状態の楽曲を持ってくるところが多作な彼女らしい。

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