ジョルジャ・スミス、ジェイミー・アイザック……2018年に更新されるアーバンメロウ4選
今回のテーマは「2018年に更新されるアーバンメロウ」。ヒップホップとダンスミュージックが全盛の現代に生まれ落ちた、メロウでハイブリッドな歌モノを5作選びました。つい最近も『シティ・ソウル ディスクガイド』(DU BOOKS)が刊行されたように、この切り口自体は2010年代以降に手厚くフォローされており、「アーバン」や「メロウ」はここ数年ヒップなタームであり続けているわけですが、シーンの景色や作り手側の意識はここ1、2年でガラリと変わった気がします。
ポストダブステップ、アンビエントR&B、ネオソウルを通過した現代ジャズ、もしくはトラップ、はたまたシティポップetc.……2010年代前半〜中盤をメロウに彩ったトレンドは、いまやすっかり一周した印象。それらを「目新しいおもちゃ」として楽しむ時期はとっくに過ぎ去り、現在は必修科目としてインストールしたうえで、「自分たち(アーティスト)はさらに何が表現できるのか?」が問われている段階なのでしょう。その回答として、ceroの新作『POLY LIFE MULTI SOUL』は実に鮮やかでしたし、彼らに影響を与えたロバート・グラスパーも、自身が率いるスーパーバンドR+R=NOWの『Collagically Speaking』で次のフェーズに向かったようです。
参考1:ceroフリーライブに感じた、『POLY LIFE MULTI SOUL』のダンスミュージック的な側面
参考2:クリスチャン・スコットに聞く、R+R=NOW結成の経緯 「全員がこの時代のバンドリーダーだ」
そのなかで、風通しの良さを感じるのがUK発の動き。最近だと、トム・ミッシュがデビュー作『Geography』でジョージ・ベンソン風のジャズギターを奏でたあと、Gorillazが新曲「Humility」でジョージ・ベンソンを起用し、「そこが今はアリなんだ!」とシンクロの妙に驚いたものです。新たなムーブメントが起こるときは、サプライズと文脈の書き換えが付き物。最近そこかしこで言われているように、ラップ(グライム)やR&B、ジャズ、ロックなどUK発の新譜はオールジャンルで底上げされており、非常に勢いが感じられます。
ジョルジャ・スミス
この流れで、UKの新たな歌姫ジョルジャ・スミスをまずは紹介しましょう。ドレイク『More Life』やケンドリック・ラマーが監修した『Black Panther: The Album』を筆頭に数々の客演を経て、最高のタイミングで発表されたデビュー作が『Lost & Found』。余計なゲストは一切なしで、エイミー・ワインハウスの遺志を継ぐソウルフルな歌声を堪能できる、正統派のR&Bアルバムに仕上がっています。
そんな彼女の才能を、British GQ誌が「グライム以降に生まれたローリン・ヒル」と評しているのは大いに納得。本作のサウンドは大きく捉えれば、90年代後半のUS産R&Bを、UKの今日的視点からアップデートしたもの。初期グライムの第一人者、ディジー・ラスカルの曲をサンプリングした「Blue Lights」を筆頭に、「Teenage Fantasy」「February 3rd」など王道のアーバンソウルが揃う一方、「On Your Own」でのダビーな展開や、トム・ミッシュが手がけた「Lifeboats (Freestyle)」でラップを繰り出すくだりは底知れぬポテンシャルを感じさせます。どの曲も曇り空のようなメロウネスが漂っており、そこがまたUKチック。
もうひとつ印象的なのが、シンプルなアコギ弾き語り「Goodbyes」。ローリン・ヒルによる「MTVアンプラグド」での名演をサンプリングしたエイサップ・ロッキー「Purity」や、ポスト・マローンによるOasis風の弾き語り「Stay」など、USヒップホップの最前線でも「歌」にまつわる興味深い動きがあったばかりなので、妙なシンクロを感じてしまう……というのは深読みしすぎにせよ、歌の強度だけで勝負できるシンガーの台頭は喜ばしいかぎり。彼女はサマソニ出演も決定しています。
ジェイミー・アイザック
97年生まれのジョルジャに続いてUKから紹介するのは、94年生まれのジェイミー・アイザック。この連載で以前紹介したキング・クルールとは学生時代の同期で、フォーキーな歌心とジャズピアニストの素養に加えて、J・ディラ譲りのビートメイクとジェイムス・ブレイク以降の音響構築まで兼ね備えた、次世代型のソングライターとして注目されてきました。そんな彼の才能が、この2ndアルバム『(04:30) Idler』で全面開花しています。
万能型のチルアウトサウンドに、本作で新たに接続されたのはボサノヴァ。スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルトに影響されたというジェイミーの最新モードは、白鳥のようにしなやかなオープナー「Wings」に集約されています。そこから流麗なピアノと奥ゆかしいサックス、繊細な響きのエレクトロニクスを織り交ぜ、真夜中にしっとり聴きたくなるナンバーを連発。とりわけ素晴らしいのはアルバム終盤で、tofubeatsとのコラボでも知られるカナダの奇才、ライアン・ヘムズワースも参加した「Melt」〜「Drifted / Rope」では、厳かな歌声と実験的なプロダクションが高次元で融合しています。
このアルバムを聴いて、真っ先に浮かんだのはEverything But the Girlでした。チェット・ベイカーの系譜に連なる抑揚の少ないボーカル、体温低めで陰影に富んだグルーヴ、汗の匂いがしない漂白されたトーンは、往年のネオアコにも通じるもの。あるいは、USの現代ジャズ文脈からは生まれることのなかった、ブルーアイドソウルの新たな夜明けにも思えます。そのささやかなインパクトや、「午前4時半の怠け者」という美しいネーミングも含めて、個人的には2018年上半期ベストの一枚です。