安室奈美恵、最前線を走り続けるポップスターとしての功績 東京ドーム最終公演を振り返る

安室の功績をライブから振り返る

 今年9月16日に引退する安室奈美恵が、6月3日に東京ドームでファイナル公演『namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~』を行った。あれから、2週間と数日が経過した。

 安室奈美恵がエンターテインメント史に残した功績は計り知れない。彼女のファッションを真似したフォロアーを指す“アムラー”は、90年代を代表するムーブメントとなり、1997年にリリースされた『CAN YOU CELEBRATE?』は、229万枚を売り上げ女性アーティスト・シングル歴代売上1位を記録している。さらに、ずっとトップを走り続け10代、20代、30代、40代とそれぞれの年代でミリオンヒットを達成するという偉業を成し遂げたこともあり、熱狂的ファンも多く、幅広い世代に支持されていることで知られている。

 アーティスト安室奈美恵の大躍進は1995年10月、小室哲哉プロデュース第1弾シングル『Body Feels EXIT』からはじまった。2カ月後、第2弾シングル『Chase the Chance』で初のチャート1位となりミリオンセラーを記録。年末には『第37回日本レコード大賞』にノミネート。『第46回NHK紅白歌合戦』へも初出場している。驚くべきスピード感だ。

 快進撃は、翌年も勢いは止まることを知らず、シングルでは3月『Don't wanna cry』、6月『You're my sunshine』、11月『a walk in the park』と立て続けにミリオンセラーを記録。安室人気を決定づけたアルバム『SWEET 19 BLUES』はトリプルミリオンを突破した。ここで注目したいのが、ヒットシングルを多数収録しつつも彼女のアーティスティックな精神性を、見事に音楽を通じて伝えることとなったブラックテイストなR&Bを取り入れた圧倒的な作品力の高さだ。

 1995年、音楽プロディーサー小室哲哉に、ブラックテイストなR&Bの才能を開花させたきっかけは安室奈美恵の趣向だ。その後、音楽シーンでは2年の時を経てDOUBLEの登場やMISIAのデビューシングル「つつみ込むように…」が大ヒット。そして、宇多田ヒカルを迎え入れることとなる。小室哲哉は“宇多田ヒカルの登場が自分を終わらせた”と、昨今音楽番組などで語っていたが、その入り口を作ったのは小室自身であり、安室奈美恵であったことは歴史が証明している。宇多田ヒカルが幼少期の頃、「Get Wild」を好んで聴いていたというのも何かの縁だろう。

 アルバム『SWEET 19 BLUES』は、のちの音楽シーンに多大なる影響を残している。安室が敬愛するジャネット・ジャクソンからの影響もあり、楽曲の間に短いインタールードを挟む試みは当時のJ-POPシーンでは斬新だった。結果、アルバム作品ながら19曲という膨大なトラック数となっている。さらに、100万枚プレスするごとにジャケットを変えてCDリリース(336万枚突破で計4種類)されたことも話題となった。近年サカナクションによってヘッドフォンで聴くと音が立体的に聞こえるバイノーラル録音が注目されているが、実は安室はバイノーラル録音を22年前、アルバム『SWEET 19 BLUES』でいち早く取り入れていた。そう、今の時代につながる仕掛けはここからはじまっていたのだ。

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 あらためて注目したいのが、今回の東京ドームでのファイナル公演において、会場の雰囲気をガラッと変えた歴史的名曲「SWEET 19 BLUES」だ。のちにシングルカットされた人気ナンバー。この楽曲、よくよく聴き込めば、当時、ギャルが闊歩していた渋谷カルチャーが飽和状態に陥った空気感を、切なさで表現した作品なのだ。

 友達と別れてから帰路へ着くまでに感じた寂しい思いを、当時日本では流行前のブラックテイストなR&Bでブルージーに表現している。1996年、安室奈美恵は19歳。コドモとオトナの境目だ。楽曲タイトルである“SWEET”と“19”に“BLUES”を掛け合わせるという、可愛さと不良性を包み込んだネーミングセンスも絶妙だ。

 小室は後に「作詞と歌詞を両方やっているからこそ出てくる歌詞なんですね。作曲をやっていると、歌詞に合わせてメロディを切ったり、もっと言葉を付けたかったらメロディを増やすことができるんですよ。実はこれって創作において自由度がとても広がるポイントなんです。ラスト、“誰もみたことのない顔、誰かに見せるかもしれない”っていう言葉で終える、その先の物語を想像させるエンディングにもこだわっています。(小室哲哉ぴあ TK編より引用)」と語っていたことが印象に残っている。

 その後、彼女はプロデューサー小室哲哉と離れ、FIRSTKLAS(ZEEBRA+今井了介)やVERBAL (m-flo) らと共にSUITE CHICプロジェクトでさらなる才能を開花。活動は加速し、ソロアーティストとして“Queen of Hip-Pop”な安室奈美恵という新スタイルを確立。

 ライブ本編でも印象的だったのが、風変わりでアッパーなダンスロックチューン「Mint」や、コンセプチュアルなEP『60s 70s 80s』に収録され、最新型のレトロ的価値観を音楽とファッションで提案した「NEW LOOK」、エレクトロなテイストでリメイクされた「WHAT A FEELING」というナンバー。ミステリアスなギターフレーズがインパクトの強い「Break It」など、様々な時代を代表する楽曲でファンを魅了してくれた。そう、彼女は定期的に記憶に残るヒット曲を生み出し続け、ファンとの距離感を最も大切にライブ活動を軸とする成熟期を経て、引退を発表したのだ。

 今年2月、名古屋ドームからスタートした最後のツアー『namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~』は6月の東京ドームまで17公演を展開。さらに中国、香港、台湾のアジアツアーを合わせると国内外23公演で約80万人を動員。国内ソロアーティスト史上最多動員記録を樹立した。今ツアーの応募総数は510万件を超える応募が殺到したという。

 東京ドームのファイナルは、まさにそんな数々の名曲が披露されたステージだった。そんな中、最も心に突き刺さったのが本編ラストに歌われた新曲「Do It For Love」だ。感じている想いをそのままに、これからはじまる自由を高らかに宣言し、ありえないほどの高音ボイスをドーム中に響かせた圧巻のナンバー。安室奈美恵は最後の最後まで進化し続けたことを証明する最新曲である。そう、彼女は最後の最後まで挑戦を諦めなかった。その答えが、この楽曲に秘められている。

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