安室奈美恵、時代を超えて愛される魅力 最後の紅白のステージで見せた“穏やかな強さ”

安室、時代を超えて愛される魅力

 世の中がアムラーで溢れていた頃に10代を過ごしていたにもかかわらず、ブルースとアングラ昭和歌謡ばかりを聴いてきた私と安室ちゃんとの出会いは随分遅れてやってきました。

 2002年、画家の奈良美智さん(音楽好きで知られミュージシャンとの交流も深く、現在ラジオ番組を持ちロックフェスに度々出演、自身の展覧会オープニングでDJイベントも行っていました)が流していた、SUPER MONKEY'S 4名義でリリースされた若さ弾けるキュートなニュージャックスウィング「ダンシング・ジャンク」。可愛らしさと力強さが共存する歌声にハートを射抜かれ、その瞬間に、私の中の安室ちゃんのイメージは鮮やかに塗り替えられました。

 小室哲哉さんのプロデュースから離れ安室ちゃんが自分の道を歩き始めていたその頃、私はようやく「ダンシング・ジャンク」などの東芝EMI時代、小室哲哉プロデュース以前の楽曲をまとめたアルバム『ORIGINAL TRACKS VOL.1』を入手し、最初期の安室ちゃん楽曲の素晴らしさに遅ればせながらハマっていったのです。

 その1曲目に収録されている、デビュー曲の「ミスターU.S.A.」。米軍基地で働く青年との儚い恋が沖縄の女の子のキラキラした可愛らしい歌声で歌われる、歌詞の美しさと切なさに胸が締め付けられると同時に、自然と踊り出したくなってしまいます。涙が出るほどの切なさと、弾むような楽しさが、同時に存在することもあるのだということを教えてくれました。

 アトリエに籠って絵を描いていると、どうしてもやる気が出ないこともあります。そんなグテッとした自分の気持ちをアゲるために、このアルバムはずっと私の側にありました。

 東芝EMI時代はトランスやユーロビートの印象が強い安室ちゃんですが、私が大好きな曲は小森田実さんや松井寛さん、馬飼野康二さん、小西貴雄さんら、その後のavexディスコファンク楽曲の流れを作る人々が手がけたものばかりだったと、この記事を書くためにクレジットを読み直して気づきました。

 そして2017年。安室ちゃんの歌手活動25周年目の記念すべき沖縄凱旋ライブ『安室奈美恵 25th ANNIVERSARY LIVE in OKINAWA』の様子は、テレビのワイドショーでも大々的に放映されました。そこで映った「ミスターU.S.A.」。デビュー当時の映像がバックの巨大スクリーンに映り、その前で現在の彼女が歌う姿は、テレビで流れたほんの数十秒間でも心に突き刺さり、初めて聴いた時以上の衝撃が走りました。

 その直後に発表された、2018年9月の引退……今頃になって私はライブ映像やドキュメンタリーを一生懸命追っています。

 沖縄凱旋ライブで22年振りに「ミスターU.S.A.」を披露するにあたってのインタビューで、こんな言葉がありました。

「リハーサルしてる時に鏡を見て、自分の姿を見た時に、何かが昔と違ったんですよ。年齢とかそういうことではなくて、何が違うんだろうなって思ったら、あ!(昔は)ちゃんと16ビートを刻んでたんだなって。その頃レッスンでも「16ビート16ビート」ってすごく言われていた時だったので、今の私には16ビートを刻むのが足りなかったなって。で、刻んだら! なんか、昔に戻れた感じがすごくあったんですよね(笑)」(『安室奈美恵 平成の歌姫』日テレ/Hulu)

 今や存在そのものがダンスクイーンである安室ちゃんが、久しぶりにデビュー曲をやってみたけれど何かしっくりこない、デビュー当時の「16ビートを意識して踊る」ことに一生懸命だった気持ちを思い出し、それはまた初心に還るスイッチでもありました。衣装でもメイクでも髪型でもなく、「ダンスに対する意識」が安室ちゃんの中のスイッチであったことは、彼女がずっと歩いて来た道を象徴するようなエピソードでした。

 2017年大晦日、安室ちゃん最後の『NHK紅白歌合戦』、足跡を振り返るVTRの後に、これまで乗り越えてきたいくつもの出来事をイメージしたかのような、真っ白な門が連なるセットが組まれたスタジオから生中継で登場しました。とても緊張している様子で、何度も手をパタパタさせて自身のお顔を扇ぐ仕草がとてつもなく可愛くて、録画した映像を延々とリピートしてしまいます。

安室奈美恵 / New Single「Hero」Music Video -short ver.-

 司会者とのトークでは時折涙ぐんでいましたが、「Hero」は声を詰まらすことなく堂々と歌いきっていました。直前に流れた活動復帰後最初のステージだった1998年の紅白、涙でほとんど歌えなかった「CAN YOU CELEBRATE?」とは違って、そこには20年の時を経て得た菩薩のように穏やかな強さがありました。

 それにしても、私は「ミスターU.S.A.」が大好きで、その魅力に気付くのが随分と遅れてしまった遅刻魔ではありますが、引退までのあと一年弱の間に安室ちゃんが「ミスターU.S.A.」を歌う姿をこの目で見ることは叶うのでしょうか……。

■松村早希子
1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。
ブログにて、アイドルのライブやイベントなどの感想を絵と文で書いています。
雑誌『TRASH-UP!!』にて「東京アイドル標本箱」連載中。
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