嵐が『「untitled」』で表現した“未完成”さ 映像作品から伝わるクリエイティブな姿勢
嵐が、昨年末から今年にかけて開催した『ARASHI LIVE TOUR 2017-2018 「untitled」』のDVD/Blu-rayを発売した。今回のドームツアーは、札幌、東京、福岡、名古屋、大阪の5会場で計18公演が行われ、映像に収められたのは東京ドーム公演。そして通常盤の最後には千秋楽の京セラドーム大阪のみで披露された「感謝カンゲキ雨嵐」が追加収録されている。
今回のライブは、そのラストに収められた千秋楽での松本潤の言葉がすべてを集約していたように思う。
「未完成なもの、実験的なものを、自分たちのこの先を見据えてもう一度フラットに挑戦するというスタンスで、新しいものを作ってみるとどうなるかということを考えながらやったライブ、アルバム作りだった」
「“untitled”。タイトルが付いてないんで。これは、おのおのが今日どういう風に感じたか。それによって、タイトルを付けることで、完成します」
昨年の10月に『「untitled」』と題したアルバムを発売した嵐。そのアルバムで表現されていたのは、デビュー以降の自分たちの活動を一旦、総括するような内容であった。そして、あえてそれを“完成形”とはせず“未完”の状態で世に放つ。それが例えば、あらゆるコンセプトの楽曲を「統一感を持たせずに詰め込んだパッケージング」であったのだ。筆者だけかもしれないが、「ディスクをPCで読み込んでもタイトル情報を取得できず、自ら入力しなければならなかった」のも関係しているのかもしれない(参考:嵐が2017年に意識した“リスナーの存在”というテーマ 荻原梓の『「untitled」』評)。
そうした意味では、アルバムのコンセプトをそのまま具現化したライブであった。過去を振り返り、嵐の今後をファンと一緒に考える。そういう“ひと区切り”のようなコンセプトを、アルバム制作からツアー演出に至るまでトータルで作り上げたのだ。
ユニット曲を通して見えてきた嵐というアイドルの本質
さて、今回の公演ではそのコンセプト通り、4つの「Junction」が設けられている。「出逢い」「愛」「別れ」「未来」と題されたその箇所では、大型LEDビジョンにそれらをイメージしたフレーズと映像が映し出され、その後にそれぞれのテーマに即した楽曲を披露した。
特に、「出逢い」の直後に披露された相葉雅紀と二宮和也の2人によるユニット曲「UB」は序盤のピークであった。この曲で両者が見せた必死な姿や真剣な眼差し、複雑なダンスのあいだに2人が目を合わせる一瞬の破壊力はこのツアーでしか味わえないものだろう。(その後のMCで大野智が「なんか感動しちゃうんだよな」と言って会場の笑いを誘っていたが、不覚にもあのシーンでは筆者も涙腺が緩んでしまった)。
ソロ曲を無くし、代わりにユニット曲で挑んだ今回。それによりメンバーの個の魅力というよりはむしろ、メンバー間に漂う独特の雰囲気であったり、メンバー同士の仲睦まじさ、あるいはペアリングそれぞれで微妙に異なる空気感のようなものが楽しめる。「バズりNIGHT」で相葉、大野、櫻井翔の3人が子供のようにはしゃぐ姿も彼ららしくて微笑ましい場面であった。嵐というグループの本質はそこにあるような気さえする。「嵐」というグループ名の激しく強い言葉とは裏腹に、彼らが醸し出すおだやかで、人懐っこいイメージ。決して激情することなくスマートに歌いこなす姿。19年という長い月日を経て培った、グループ活動を穏便に進めていくスキルなのだろうか。他メンバーへの尊重の空気が全体を包んでいる。そうしたものを踏まえて、彼らは社会性のあるアイドルなのだとつくづく思わされるのだ。