嵐が2017年に意識した“リスナーの存在”というテーマ 荻原梓の『「untitled」』評

 ここ数年の嵐は、秋にアルバムを発売→冬にツアーを回り→春から夏にかけてイベントやライブを開催、という流れを一年間で一周するルーティンワークのようなスタイルで活動を続けている。まるでサラリーマンのように仕事をまっとうする中で、毎年コンセプトを変化させ様々なイメージをまとってゆき、いわば”年輪”のように嵐は成長してきた。『THE DIGITALIAN』(2014年)、『Japonism』(2015年)、そして去年の『Are You Happy?』(2016年)と立て続けにコンセプチュアルな作品を発表し、デジタルとの融合、嵐と日本のエンターテイメント、嵐にとっての思いっきりハッピーなアルバム……というように、その時々の世の中の空気を敏感に察知しながら狙い澄ました各々のテーマを、嵐というグループ像を器にしてひとつの作品にまとめ上げてきたのである。そして今年2017年は、彼らにとって重要な年であったことは間違いないだろう。単刀直入に言えば、SMAPという偉大な先輩グループの解散劇を目の当たりにした直後の一年であったということだ。彼らがそれについて直接的に言及しているわけではないが、あの一連の流れを少なからず自分たちにも重ね合わせ考えはしたはずである。松本潤は言う。「じゃあ今年何をしようかと話してた時に、過去を振り返ったりして。これからの嵐がどういうことをやっていくと良いかと言った時、まずこれからの自分たちを探すための時間というか。こういうことを形に出来たら面白いよねっていうのをある意味、実験的にやれないかなと」(初回盤DVDより)

 今回のアルバムの題名は、『「untitled」』だ。今まで見せてきた”嵐と○○”、あるいは”嵐が○○を表現したら”というようなタイトリングではなく、むしろそうしたものをすべて取っ払った真っ新なイメージが飛び込んでくる。実際にアルバムに耳を通してみると、一つ一つの楽曲のスタイルや方向性は固めているものの、それをある種ごった煮のような形で一枚のディスクに収めたベストアルバム的な楽曲の強さがある。全体としては終始アドレナリン全開のような、曲一つ一つが巨大な石像のようにそびえ立っていて、それらが次々にこちらへと襲い掛かってくる感覚だ。リードトラックの「『未完』」がほとんど一曲でそれを象徴していて、エレクトリックなイントロから、リズムが激変してブラスファンクなAメロを通過し、その後日本の伝統的な和楽器の音色が出現したり、サビを終えるとモーツァルトの交響曲が何の脈絡もなくいきなり挟み込まれたりする。次の曲「Sugar」もアッパーチューンで、序盤から引き継いでいる高揚感や豪快さは6曲目の「ありのままで」でやっと一息つく。再度アクセルを踏み直すロックナンバーの「風雲」、ジャジーなテイストを取り入れた「I’ll be there」、スウェイビートの「抱擁」など多種多様なサウンドで中盤を一気に駆け抜ける。

 このように、個々に独立した楽曲の詰め合わせによるパッケージングを可能にしたのが、やはり今回のタイトルに象徴されるテーマ設定の部分にあるだろう。櫻井翔曰く「何も決まっていないってすなわち何でもできるってこと」(初回盤DVDより)というように、コンセプトという名の檻をあらかじめ取り外しておくことで”何をしてもいい”ということを可能にしているのだ。それは、”実験的”という言葉をメンバー自身も使う通り、単にバラバラなだけだと言われ兼ねない諸刃の剣的な試みではある。

 だからこそ、前半から中盤にかけての怒涛の展開をさながらクールダウンするような形で、曲間の繋がりが急に生まれだす後半部、そして10曲目あたりから漂いはじめるアルバム終盤の雰囲気は圧巻の一言だ。ストリングスの音色が美しいミドルバラードの「Pray」、ゴスペル風のコーラスが多幸感をもたらす「光」、そして「彼方へ」へと繋がってゆく流れを聴くと、嵐ほどのトップアイドルが今もなお音楽に力を注いでいてくれていることに感謝すら覚えてしまう。何十年と続くジャニーズ事務所に所属する彼らが<今日の陽が昇るまで 音楽がコトバ以上 真心(こころ)伝うこと 幾度となく見てきた>と歌うことの説得力は計り知れないものがあるだろう。そして11分間に及ぶラストトラック「Song for you」は、これまでの嵐を振り返るような内容のミュージカル調の楽曲である。走馬灯のように場面が移り変わってゆき、これまでの彼らの活動を総括するような壮大な展開を経た後、最終的には<This song for you>とこの作品をリスナーへと投げかけることでアルバムは終わる。

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