嵐が『「untitled」』で表現した“未完成”さ 映像作品から伝わるクリエイティブな姿勢

圧巻のパフォーマンス「Song for you」

 ライブが後半に差し掛かると、アルバム曲を離れて往年の人気シングル曲を続けざまに披露した。「君のために僕がいる」「PIKA★★NCHI DOUBLE」「ハダシの未来」「Believe」「Monster」と嵐の過去から現在に至るまでを駆け抜けるようなセットリストを経て、デビュー曲「A・RA・SHI」へと繋ぐ。移動式の舞台やトロッコに乗って会場を周遊しファンの目と鼻の先まで近づくことで、ファンは“今の嵐”を間近に感じることができただろう。

 そして、その後に静かに幕を開けた「Song for you」は間違いなくこのツアーのクライマックスであった。ここまでロックやユーロビート、EDMやファンクなどあらゆるサウンドを見せてきた後に、オーケストラアレンジの施された壮大なミュージカル調の楽曲が終盤に用意されているという構成そのものにも舌を巻くが、最後の最後に豪華絢爛な衣装に身を包み、華麗にメンバーが踊る様子は、エンターテインメントを知り尽くした彼らの、まさに真骨頂と呼ぶべき光景だ。

 彼らの長い歴史を振り返るのに十分な大きさの画面と、それを目一杯に利用した“走馬灯”的な映像。そしてこの日一緒にライブを盛り上げたジャニーズJr.たちが総動員で魅せるステージングに、広いドーム会場でやる意味があった。“This song for you”の文字が映し出され会場のペンライトの光と星空の映像の光がシンクロしたとき、彼らとファンの心が一体となった。今回のツアーの目的は、おおかたこの「Song for you」が成功した瞬間に達成されていたように思う。

 ちなみに、特典のマルチアングル映像では2083インチあるという超ワイドスクリーンを一望できる固定カメラからの映像が収録されている。“特等席”から堪能できる彼らのパフォーマンスは一見の価値有りだ。正直、これを観るためだけでもDVD/Blu-rayの購入を検討するべきである。

本編の終え方と徹底したこだわりから見える彼らの姿勢

 こうして彼らの本質的な魅力から、アイドルとしての本来の姿まで引き出された今回のツアー。驚くべきは、今回のツアーを彼らが「これが嵐だ」ではなく、「これを見たあなたがタイトルを決めてください」で終えるところだ。それは先述した松本の言葉にも表れているし、「Song for you」の後に「『未完』」という曲でライブ本編を終えている点からも受け取れる。完成させたものを見せるのではなく、未完成の状態で投げかける。それが今回彼らが目指したスタイルだ。

 考えてみれば、このDVD/Blu-rayのアートワークの円盤は欠けている。よく見ると“untitled”の文字でくり抜かれたような跡のこのジャケットもまた、非常にメッセージ性があるだろう。アルバムからツアー、そして映像作品に至るまで、一貫して“未完成”を表現していたのだ。そこには、彼らが作品作りに徹底してこだわり、さらにファンとともに作っていこうという、クリエイティブかつファン思いな姿勢が表れている。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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Twitter(@az_ogi)

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