Bird Bear Hare and Fish、初ワンマン『BBHF』から伝わった新たなスタートへの興奮

BBHF、初ワンマンレポ

 2016年に活動を終了したGalileo Galileiの元メンバー、尾崎雄貴、佐孝仁司、尾崎和樹の3人と、武道館での彼らの最終公演を含む様々な現場でサポートを務めたDAIKIの4人で結成した新バンド、Bird Bear Hare and Fishの初のワンマン公演『BBHF』が、5月10日恵比寿リキッドルームで開催された。5月2日に初の音源作品となる1stシングル『ページ/次の火』をリリースしたばかりの彼ら。この日はバンドが初めて観客の前でライブパフォーマンスを見せるお披露目の機会であり、ライブタイトルの『BBHF』もこのバンドの略称となっている。つまり、まさにBBHFの全貌をいち早く体験できる貴重な機会となった。

 すでに世に出ている楽曲は現状2曲のみとあって、どんなセットリストになるのかは完全に未知数。開演前から不思議な期待感に包まれた会場にメンバーが登場すると、まずはシューゲイザーのような音響美とパワフルなドラムがぐんぐん加速する新曲「ウクライナ(仮)」でライブをスタート。尾崎雄貴のソロプロジェクトwarbearのライブではGalileo Gailei時代の楽曲もアレンジを変えて披露していたものの、この曲の〈きみの好きな曲はやらない/彼らはやらないよ〉という歌詞にも象徴的なように、この日は先駆けてリリースされた「ページ」「次の火」の2曲とカバー曲1曲を除いて完全に未発表の新曲を揃えたセットリストで、このバンドがGalileo Galileiの延長線上にあるというよりも、4人のメンバーによるまったく新しいバンドとしてスタートしたことを印象付けるようなオープニングになっている。

 続いて4カウントで「ダッシュボード(仮)」に突入。この曲は近年のThe War On Drugsを筆頭にしたR&B的な感覚も取り入れたモダンなアメリカンロックの系譜に位置する雰囲気だ。ここで「今日は新曲ばかりですけど、僕らと一緒に楽しんでくれたら嬉しいです」というMCを挟んで80年代風のドラムが鳴りはじめ「もしや!?」と驚いていると、New Orderの「Bizare Love Triangle」の日本語カバーがスタート。一転してニューウェーブ~80年代風のエレポップが広がっていく。以降もふたたび未発表のオリジナル曲を連発。イントロからたおやかなギターのフレーズが鳴りはじめ、尾崎雄貴の歌とDAIKIのギターとが絡み合う様子が印象的だった「レプリカント(仮)」、〈きみのハートに向かう〉という歌詞が印象的なミドルチューン「Hearts(仮)」、ギターの音響美とトロピカルな雰囲気が印象的なバラード「夏の光(仮)」など、会場の全員がここで初めて聴く楽曲に歓声が上がっていく。

 前身バンドのGalileo Galileiは作品ごとに海外のインディロックを筆頭にした様々な音楽要素を飲み込み、ラストアルバム『Sea and The Darkness』では60~70年代のクラシックロックやAORなど音楽史を縦断するようなサウンドを手にしていただけに、1stシングル収録の「ページ」を最初に聴いたときは、その延長線上にある要素も多分に感じられた。しかしこの日ライブを観て伝わってきたのは、「あくまでそれはバンドのひとつの側面でしかない」ということ。全編はソウル/R&B~エレクトロも加えたThe 1975的なモダンなロックサウンドや、USインディ直系のアーシーなフォークロック、それとは対をなすような80年代風エレクトロポップ、直球のロックチューン、バラード、シューゲイザーまで非常に幅広い音楽要素を取り入れた楽曲が並んでいる。

 MCで尾崎雄貴が「僕らは“初めまして”という気持ちで立ってるので、緊張します」と告げてはじまったのはBBHFのデビューシングルとなった「ページ」。親交の深いクリス・チュー(POP ETC)がプロデューサーとしてかかわったこの楽曲は、USインディ風のアーシーなフォークロックを彼ら流に解釈した楽曲だ。以降はよりバンド全体の演奏や尾崎雄貴の歌声を聴かせるロック曲が増え、「Wake Up(仮)」「Different(仮)」「骨の音(仮)」などを披露。ぐんと表現の幅が広がったようにも感じられた尾崎和樹のドラムや佐孝仁司のフレーズの妙が感じられるベースに乗って、DAIKIのメロディアスなギターと尾崎雄貴の歌が絡み合っていく。本編のラストは「次の火」。〈簡単だったここに来るのは/そう呟き/あとは振り返らないで先をみていた/そしてまた火をつける/火をつける〉と歌われる歌詞は、今まさに新しい一歩を踏み出した彼らの歩みともリンクするようで、感慨深くなったファンも多かったことだろう。

 BBHFには現時点で明確な方向性があるというよりも、むしろこの4人で、制約を設けず様々な可能性に挑戦することを大切にしているような雰囲気がある。そしてそれはきっと、Galileo Galileiというバンドが多くの人々に愛されながらも、デビュー当初からの自分たちのイメージに苦しみ、「これからも音楽を続けるためにバンドを一度終了させる」という決断をした経緯とも、無関係ではないのだろう。つまり、この日披露された楽曲の数々は、これから様々な形で活動を広げる前の、最初のスタート地点と言った方がしっくりとくる。

 アンコールは「最後の曲です。聴いてください」と告げてはじまった「Work(仮)」。ジェイムス・ブレイク~ボン・イヴェールやフランシス・アンド・ザ・ライツなどの登場を経て英米のインディ系アーティストにも広がったボーカルの加工をイントロに加えたバラードで全編を終えた。全12曲、MCはほとんどなし。言葉ではなく音楽でこそ雄弁に語る彼らのスタンスはそのままながら、その音から新たなスタートへの興奮が確かに伝わってくるようなライブだった。この日明かされた情報によると、彼らは現在アルバムを制作中で、9月21日から全国を回るBBHFとして初のツアー『Bird Bear Hare and Fish TOUR 2018 "MOON BOOTS"』もスタートする。4人の歩みは、今まさにはじまったばかりだ。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。

Bird Bear Hare and Fish オフィシャルサイト

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