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THE BACK HORNはトライ&エラーを続けて進化する 『情景泥棒』からバンドの姿勢を紐解く

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 日本のオルタナティブロック、ここに極まれり。THE BACK HORNの結成20周年作品第2弾、『情景泥棒』はそう唸りたくなる快作だ。20年という歳月はひとつのバンドをこうも大きくするのか。もちろんバンド自身のたゆまぬ歩みがあればこそだが、それでも彼らに限らず、20周年を迎えたロックバンドたちが各フェスのトリを飾ったり、いろいろなメディアで大きく取り上げられたりする現状を鑑みると、彼らがシーンへ与え続ける功績に驚嘆せざるを得ない。

 ではTHE BACK HORNは何をやってるのか、『情景泥棒』を例に紐解こう。この全7曲、アニバーサリーを迎えるにあたりライブ感を大切にしたせいか、胸焦がし鼓舞する歌、血湧き肉躍らせるサウンドがすべての楽曲から聴こえてくる。切ないけれどめちゃくちゃキャッチー、一緒に叫びたくなる力強さも備えたメロディが、2018年仕様のエイトビート、スペイシーな装飾音と相まって、見事に花開いているのだ。全体に共通しているのはギターの極悪爆音。歪みサウンドとは、電気信号の過大入力によって波形の上下が許容範囲を超え、歪な形となったもの。その仕組みが象徴するような、枠からはみ出そうとする意志、はみ出す際のワクワク感が本作のムードを形成している。

 アンサンブルにおいても同じことが言える。メンバー全員が各パートの定型に収まらず、それぞれバチバチにぶつかり合いながらも密接に絡み合い、「儚き獣たち」の転調などポピュラーミュージックのフィールドでも通じる音楽的仕掛け、「情景泥棒 ~時空オデッセイ~」の想像を飛び越えるケミストリーにまでたどり着く。そのバランス感はバンドとして理想的であると同時に、もはや唯一無二だろう。

 歌詞も同様だ。〈駆け抜けろ 迷いの日々を〉〈突き破れ 孤独の闇を〉(「光の螺旋」)、〈まだ傷は癒えない 愛とは何者だろうか/探しに行くよ〉(「儚き獣たち」)、〈なんもかんもがデッドエンドで/そんなこったろうと思ったから/住めば都とテント張ったら/次は世界の底が抜けたんだ〉(「がんじがらめ」)。生きることの前向きな肯定と、鬱積したネガティブなパワーの爆発。他者と関わることで芽生える愛と喪失。この世界をあっけなく超越する天変地異。アンビバレントな二元論では決して分かつことのできない感情、境界線からこぼれ落ちる想いが、全編にわたって綴られている。

 例えばブルースは、黒人の悲哀や憂いを明るいメジャーキーで歌うものだ。ネガティブな歌詞をポジティブなメロディに乗せる音楽である。そして両者をつなぐのは、希望と絶望を行き交う幻想であり、メジャーでもマイナーでもないセブンスという音階だ。そこがブルージーなフィーリングの鍵である。このバンドにとってそれは? 答えは、どうしたって割り切ることのできない人間くさいエモーションであり、枠からはみ出して暴れる爆音であり、じゃれ合う遊び心も垣間見せる演奏なのである。ボーダーを超える未確認感覚、それこそがTHE BACK HORNのオルタナティブロックなのだ。

 だったら昔からそうじゃない? と思うかもしれない。たしかに『情景泥棒』は彼らの核そのもので、初期から通底する魂が宿っている。しかしどんな感覚を感じるか、それをどうやって形にするのか。その深みと質のためには、長い年月を経て養う経験と技術が必要になってくる。さりげない一言の重み、なんてことない一音のピッキング。膨大な試行錯誤の果てにようやく手にすることのできるものが、このミニアルバムにおいて輝いているのだ。

 そして未確認感覚を味わうことは、まさに人間世界そのものの様相ではないだろうか。毎日を乗り越えるたびに自分の世界が確立し、強くなっていく。しかし各個人がそれぞれの世界を持っているわけだから、時に衝突しながらも、結果としてより大きな心を獲得していく。そうして成り立つ社会も、自然や宇宙によってひっくり返されたりするけれど、それでもなんとか生きていく。つまり『情景泥棒』という作品は、ちっぽけな個人がちょっと狂いながら闘い続けるドキュメントで、聴き手は今を生き抜くその姿から力をもらえる、というだけのものではない。それ以上に、人間の生きる原理が克明に体現されたひとつの芸術作品なのだ。だから〈音を鳴らすんだ/悲しみさえ 祝福するような〉(「閃光」)ってこともTHE BACK HORNはできるのである。すぐれた芸術がそうであるように、このミニアルバムも、人生を変えてくれる力を有しているのだ。

 ただ、おそらくオルタナを極めようと思って20年やってきたわけではないだろうし、何か栄光を掴んでやる、と目標のために走ってきたわけでもないはず。結果はあとからついてきちった、絶賛トライ&エラーのど真ん中、まだまだ進化していくべ! そんな雰囲気を持っているのがなんともTHE BACK HORNらしいし、まさに未確認の足跡を刻んでいるなあと、ニヤッとしてしまう。

(文=秋摩竜太郎)

THE BACK HORN『情景泥棒』

■リリース情報
『情景泥棒』
発売:2018年3月7日(水)
価格:【初回限定盤】3,200円+税/CD+DVD
【通常盤】2,000円+税
<CD収録曲>
1.Running Away
2.儚き獣たち
3.閃光
4.がんじがらめ 
5.情景泥棒
6.情景泥棒~時空オデッセイ~
7.光の螺旋
<初回特典DVD収録内容>
『KYO-MEIワンマンライブ~第三回夕焼け目撃者~』
Live at 日比谷野外大音楽堂
1.シリウス
2.声
3.ひょうひょうと
4.晩秋
5.コワレモノ
6.アカイヤミ
7.枝
8.覚醒
9.孤独を繋いで
10.シンフォニア
11.何処へ行く
12.グローリア

■ライブ情報
『THE BACK HORN 20th Anniversary「KYO-MEIワンマンライブ 東京編・大阪編」~情景泥棒~』
<東京編>
日程:3月20日(火・祝前日)
会場:Zepp Tokyo
<大阪編>
日程:3月24日(土)
会場:Zepp Osaka Bayside

『THE BACK HORN 20th Anniversary「KYO-MEI対バンツアー」~情景泥棒~』
4月1日(日)Zepp Nagoya
4月6日(金)仙台PIT
4月8日(日)Zepp Sapporo
4月15日(日)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
4月20日(金)新潟LOTS
5月13日(日)福岡DRUM LOGOS

THE BACK HORN オフィシャルサイト
THE BACK HORN 20th Anniversary特設サイト

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