フレデリックは“聴き手の半歩先を行く”バンドへ 『TOGENKYO』ツアーに見た変化

フレデリックは“半歩先を行く”バンドへ

 少し前までは“ブレイクを入れてシンガロングを煽り、みんなでサビのフレーズを歌ってから演奏を再開する”というアレンジが施されていた「オドループ」。この日は特にそのような場面もなく、三原健司(Vo/Gt)が掲げたマイクに向かってオーディエンスの歌声が集まっていった。その光景を見て思い出したのは、フレデリックが3人体制になってからの初音源『OTOTUNE』のリリースツアー・ファイナル公演でのMCの内容。

三原健司(Vo/Gt)(撮影=Viola Kam (V'z Twinkle))

「フレデリックはどんどん大きくなると思ってる。(中略)そのためにはあなたの力が必要です。4-1を4にするために、これからもフレデリックを愛してやってください」

 バンド自身のモードを言葉で伝え、一体感を生み出していく方法から、ライブのやり方でバンドの在り方を示していく方法へ。積極的なライブ活動の中で試行錯誤を繰り返し、進化を求めてきた彼らの戦い方はここ1、2年で大きく変化したようだ。

 前哨戦の東名阪クアトロ公演後に開催された、全国12カ所をまわるツアー『フレデリズムツアー2017 ~ぼくらのTOGENKYO~』。最新アルバム『TOGENKYO』を携えた全国行脚は、この後も新木場STUDIO COAST 2デイズ、神戸ワールド記念ホールでの凱旋公演へと続いていくが、この全国ツアーシリーズは、メンバー曰く“足りないものを埋めにいくツアー”だったという。

高橋武(Dr)(撮影=Viola Kam (V'z Twinkle))

 では一体何が足りなかったのか――という話になるが、これまでと明らかに違っていたのは、今年5月に正式加入した高橋武(Dr)が今回初めて正規メンバーとしてツアーに参加していた点だ。前任ドラマー・kaz.の脱退以降、サポートを務めていた高橋は堅実なプレイをするタイプのドラマーではあるが、例えばライブの場で、バンドサウンドが盛り上がっていく場面で手数多めのアドリブを挿し込むなど、3人を背後から勢いづけることのできる人物でもある。

 そんな彼の加入によってフレデリックが再び4ピースバンドに戻ったこと、また、1stフルアルバム『フレデリズム』(2016年10月)のリリースとツアーに至るまでの道のりで自身の軸を一本打ち立てたことによって、バンドの地盤は固まりつつある。そんな中で、バンドのブレーン・三原康司(Ba)を筆頭に、好奇心と探究心を膨らませ続けつつ、デビュー当初から掲げてきた”踊る”というテーマに回帰しているのがこのバンドの面白いところ。ブラックミュージック× ニューウェーブ的な新機軸の音像ながら、“踊る”に関連する単語が頻出する『TOGENKYO』の内容もまた象徴的なものだった。

三原康司(Ba)(撮影=Viola Kam (V'z Twinkle))
赤頭隆児(Gt)(撮影=渡邉一生)

 ライブに話を戻そう。本編中のロングMCは一度のみ、数曲をノンストップで演奏していくような構成だったこの日のステージ。この手法自体は昨年夏のZepp DiverCityワンマンから見受けられたものだが、今回のセットリストは『TOGENKYO』収録曲と既存曲がサンドウィッチ状態になっている構成だったため、当然従来のアレンジでは上手くハマらない。そうして意図的に変化をもたらすことにより、曲の組み合わせによって起こる化学反応や新たな可能性を探る段階に今はあるようだ。

 全体としては、各楽器の抜き差しを意識した音作りの曲が増え(特に赤頭隆児(Gt)はその辺りのバランス感覚が絶妙である)、ボーカルの自由度が増していた印象。「オンリーワンダー」~「愛の迷惑」と冒頭こそアッパーチューン続きだったが、横ノリのグルーヴや歌謡的なメロディラインが際立つ曲も多く、セットリスト全体の振れ幅は広がり、このバンドがずっと提示してきた“踊る=喜怒哀楽全部を受け止めて心身を揺らすこと”という部分がより鮮やかに浮かび上がるようになった。そうなると、フロアの様子も気になるところだが、「みんなノリがいいね。ちゃんと曲を聴いて楽しんでくれる」(健司)とメンバー自身がポロッと呟くほど、オーディエンスの反応も良好である。

(撮影=Viola Kam (V'z Twinkle))

 演出面に関しては、「うわさのケムリの女の子」で大量のスモークを焚いたり、「ナイトステップ」などの一部の曲ではプロダクションチーム・INTによるレーザー&映像演出を用いたりと、過去のライブを踏襲&発展させたものも。来るアリーナ公演を見据えてか、ライブハウスの光景をそのまま巨大化させるため、空間を隅々まで活かした表現を目指していっている印象だった。

 メンバー紹介MC後の後半戦では、4人で進むきっかけになった曲だという「かなしいうれしい」、〈たった2時間ちょっとのワンマンの為に/君はどれくらいの未来 踊ってくれんの〉とライブ仕様に歌詞を替えた「シンクロック」、ソングライターとしての康司の創作過程を描いた「TOGENKYO」――と、メッセージ性の強い曲が続けて披露された。この後半戦に臨む直前、健司は「前半は音楽勝負、後半も音楽勝負で行きたいと思います」というふうに意気込みを語っていたが、それは言い換えると、伝えたいことを全て演奏の中に込めるということだ。実にシンプルなことではあるが、そう言い切り、エネルギーの全てをそこに注ぎ込むことができるのは、今の彼らに迷いがないからに他ならない。

(撮影=Viola Kam (V'z Twinkle))

 本編終了後、「FUTURE ICECREAM」「たりないeye」を演奏し、4人はステージを去っていった。欠落を補う新たなピースを手に、歩みを進めることに決めた彼らは、ミュージシャンシップを胸に、聴き手の半歩先を行くバンドへと成長した。しかし、というよりも、だからこそ、彼らの渇望感は留まるところを知らない。このアンコールはそんなことを物語るような選曲だったように思う。「いろいろな土地に、いろいろなフレデリックを好きになってくれた人がいた」「だからその景色をアリーナに持っていきたい」と語るこのバンドははたして、4カ月後に控えた初のアリーナ公演にて、どんな光景を生み出すこととなるのだろうか。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

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