西廣智一の新譜キュレーション 第1回
coldrain、Sons Of Texas、OUTRAGE……新旧メタルバンドが考える伝統の保守と進化
こんにちは、西廣と申します。本サイトではロック/ポップス/アイドルなどジャンル問わずいろいろ書かせてもらってますが、普段進んで聴く機会が多いのは国内外のハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)やラウドロックなど、激しくて音のデカい音楽……単純なんですね、そういう音がカッコいいと信じているんですから(笑)。
そんな私が今回から新譜キュレーションコーナーに仲間入り、しかも大好きなHR/HMやラウドロックの新作を紹介していくことになりました。同ジャンルは今や、ポップスやアイドルにもそのテイストが引用され、日常で耳にする機会が増えていますが、引用元となる“そのもの”を聴くことは少ないのかもしれません。そういう皆さんにとって、この連載がHR/HMに興味を持つきっかけになったなら非常に嬉しいです。
さて、第1回のテーマは「新旧メタルバンドが考える伝統の保守と進化」。国内の音楽専門誌を見ると、HR/HMの場合は特にここ20年ほど表紙を飾るアーティストに変化がないように感じます。それは新しく魅力的なバンドが登場していないという意味ではなく、“HR/HMとはこういうもの”という固定観念が他ジャンルと比べて異常に強いからじゃないかと思うのです。だからなのか、モダンなサウンドを取り入れたバンドたちはここ日本ではラウドロックと括られ、HR/HMとは別モノと認識されることが多い。旧来のリスナーはそういった新世代バンドに苦手意識を持ち、ラウドロックから入った若年層はそのルーツとなる旧世代バンドを“違う世界”と感じている……なんてことが多いんじゃないかと、身の周りを見て感じます。だからこそ、“ジャンルとしてのHR/HMの進化”と“守るべきもの”が凝縮された、今回紹介する5枚の新作にぜひ耳を傾けてもらえたらと思います。
1組目はアメリカ・テキサス州サンアントニオ出身の4人組バンド、Nothing More。彼らは2003年結成とキャリア的には中堅なのですが、2014年にMotley CrueやPapa Roach、In Flames、Five Finger Death Punchらが所属するアメリカの大手マネジメント/レーベル<Eleven Seven Music>とアルバム5枚の長期契約を結び、同年にアルバム『Nothing More』でメジャーデビュー。翌2015年2月には日本のVAMPSが日本武道館で実施したイベント『VAMPARK FEST』で初来日も果たしているので、その名前を目にしたことがある人も少なくないかもしれません。彼らのサウンドはThrice以降のポストハードコアやLinkin Park以降のニューメタルに近いものがあり、いわゆるHR/HMとは若干イメージが異なるものかもしれません。しかし、メンバーのルーツにはMetallicaやKorn、Deftones、Toolなどの名があることから、そのスタート時点にHR/HM系のラウドな音楽があったことは明らか。HR/HMというジャンルにはこだわらなかったものの、自分たちが信じるラウドな音楽を追求した結果、現在のスタイルにたどり着いたわけです。
先月発売された2年ぶりの新作『The Stories We Tell Ourselves』で聴けるサウンドは、前作で提示したスタイルをよりブラッシュアップしたもの。ダンスミュージックやインダストリアルミュージックからの影響下にあるシーケンス音を同期させたバンドサウンドは、重さよりも軽やかさを重視したもので、ひたすら気持ち良く楽しめる。ミドルテンポを軸にしながらも、時にアップテンポになったり時にスローになったりすることである程度緩急がつき、また本編中何度か登場する1分前後のインタールードのおかげで全体が引き締まった印象も強い。ジョニー・ホーキンス(Vo)によるボーカルも、スクリームよりハイトーンでエモーショナルなメロディを歌い上げるほうが多いので、歌モノロックとしても十分に機能しています。ギターリフを前面に押し出した王道HR/HMとは一線を画するものの、こうやってHR/HMは形を少しずつ変えてその伝統を未来に残そうとしている。そういった意味でも、彼らのようなバンドはもっとここ日本でも評価されるべきだと思います。
続いて2組目は、アメリカ・テキサス州マッカレン出身の5人組バンド、Sons Of Texasです。彼らは2013年結成とまだ歴史も浅く、海外では2015年にデビューアルバム『Baptized In The Rio Grande』をリリース。同作はここ日本でも早い段階から、輸入盤を扱う大手CDショップでプッシュされていたので、すでにその名を知っていたというメタルファンは多いことでしょう。そして2016年10月開催の『LOUD PARK 16』での初来日が決まったことから、同年8月にデビュー作が日本盤化。ライブも好評を博し、音専誌『BURRN!』の「2016年度BURRN!読者人気投票」内「BRIGHTEST HOPE(新人部門)」でチャンピオンに選出されるなど、ここ日本でもすでに高く評価されています。
早くもリリースされた2ndアルバム『Forged By Fortitude』は前作の路線を踏襲した、ヘヴィでラウドで男臭いヘヴィメタルが満載。90年代のPantera、00年代のLamb Of Godが提示してきた“ローチューニングで低音を効かせた、適度にリズミカルなミドルテンポのヘヴィサウンド”という伝統は彼らにも引き継がれているのですが、だからといってスクリーム一辺倒になることなく、古典的なHR/HMにも通ずるメロディアスさも色濃く表れている。つまり、モダンなサウンドメイキングやアレンジが施されているものの、軸になるメロディは従来のHR/HMそのものなのです。だからこそ、彼らを呼ぶ際に“Pantera meets Nickelback”という例えが挙がるのも頷ける話です。ダイムバッグ・ダレル(Panteraのギタリスト)を思い浮かべてしまうギターフレーズが飛び出したり、エモーショナルかつ表情豊かな歌声が前作以上だったりと、とにかく聴きどころの多い“現代的な王道HR/HMアルバム”ではないでしょうか。
3組目は、ここ日本からcoldrainの新作『FATELESS』を紹介させてください。ワーナーミュージック移籍第1弾、前作『VENA』から2年ぶりのアルバムとなる本作は、すでに国内では10月23日付けオリコン週間CDアルバムランキングで8位にランクインするヒット作となっています。彼らについては過去に私の連載(参照:coldrainは国内ラウドロックと海外メタルをどう融合させ、オリジナルな音楽を作り出したか)で紹介したとおり、日本のHR/HMシーンの転換期である2008年にデビューし、海外のメタル/ポストハードコア/スクリーモなどからの影響を日本人として昇華させ個性を確立。近年は海外のマネジメントと契約し、現地でのアルバムリリースやワールドツアーも積極的に展開しています。
通算5枚目のフルアルバムとなる今作『FATELESS』ではTriviumやAlter Bridge、Slashなどを手がけたエルヴィス・バスケットがプロデュースを担当しており、これまでに彼らが作り上げた個性をさらに一段高い場所へと導くことに成功しています。このバンドの場合、Masato(Vo)による日本的な繊細さを伴うメロディが海外ではどう評価されるのか心配になることもあったのですが、本作に関してはそういった点がまったく気にならず、むしろ海外に出て行ったときにそのポイントが絶対的な強みになることを強く証明しているようにも感じられます。海外では00年代以降に登場したメタリックなバンドと同じラインにいながらして、ここから頭ひとつふたつ抜き出るための武器は、実はこうした部分になるのだろうなと、本作を聴いて改めて実感。このメロディセンスは、80年代以降のメロディアスなハードロックを愛聴してきた諸先輩方にも触れていただきたい、日本が世界に誇る至宝だと信じています。